1回 旅行パンフレットの内容は正確に!

 

「グアテマラとホンジュラスの旅11日間」の内容を説明したパンフレットに、「東京発着であるが、大阪発着も同料金」とあったとすると、大阪発着で申し込んだ旅行者は、東京、大阪間も主催旅行の範囲内なのだろうか。

 

この文言を巡って、裁判所の一審、控訴審は含まれないと判断し、上告審は、含まれているとして逆転判決を下している。まさに、一つの文言を巡って裁判が右と左に分かれた「大訴訟」となってしまったのである(上告審、大阪高裁平13.2.7判決。判例タイムスNo1069、237頁)。

「大阪発着も同料金」とあるので、東京、大阪間も主催旅行の範囲内で問題ないと思う読者も多いかもしれない。このパンフレットでは、「最終の日程、(16:10)東京(18:20)大阪(19:35)、午後、成田空港到着、航空機を乗り継いで伊丹空港に到着」との記載もあり、成田、伊丹間の便も特定できる。しかし、この件はそんなに単純ではなかったのである。

さて、この件の顧客Aは、一旦この主催旅行の申し込みをしたが、旅行業者B社が、混雑のためこのパンフレット記載の成田、伊丹間の便を確保できなかったことから問題は生じた。B社は、伊丹に一時間遅れで着く便は確保できると伝えたが、Aは、それでは駄目だと申し込みをキャンスルした。

Aのキャンスル後、B社が受け取った金額をマルマル返せば何の問題もなかったが、所定のキャンスル料を控除して返そうとした。しかし、Aは納得せず訴訟になってしまったのである。

ではなぜ、B社は、キャンスル料を控除したかというと、実は、この同じパンフレット内に、次の文言もあったからである。

「国内線は別予約が必要となり、混雑時期等の事由により予約がお取りできない場合には、他の交通機関をご利用いただくことになります。その場合の交通費、宿泊費、その他の諸費用はお客様のご負担になりますので、あらかじめご了承ください」

「国内線は別予約が必要」との部分には制限がないので、この文言からすれば、逆に、国内線はすべて主催旅行の範囲外とも読める。B社としては、この文言をたてに、Aは主催旅行の範囲外の理由でキャンスルしたのだから、キャンスル料を負担するのは当然と主張した。

そして、一審、控訴審はB社の言い分に軍配をあげた。しかし、上告審は、パンフレットの文言全体から総合判断し、「本件旅行のページには、「大阪発着」とも記載された上、大阪、東京間の旅程が具体的に記載されている。このことからすると、旅行申し込みをする人が、この旅行の大阪、東京間の国内線は主催旅行の範囲内でないと考えることを期待するのは無理である」と結論付け、最終的にAに軍配をあげた。「国内線は別予約が必要」との部分は、例えば、札幌、成田間、福岡、伊丹間といった成田、大阪以遠を指すというわけである。

 さて、今回、敢えてこの判例を紹介したのは、実際の旅行パンフレットの中に、私自身、このような相矛盾する文言が併存する例を時折見かけるからである。パンフレットを作成するときには、よく使っている文言を寄せ集めて作ってしまうものであるが、そこに落とし穴がある。使い慣れた文言であるが故、かえって、その文言同士が自己矛盾しても気がつかないのである。

しかし、いちど顧客とトラブルと、このようなちょっとした食い違いから訴訟となり、しかも、裁判所の判断を二分するような「大訴訟」に発展することもある。

パンフレットを作成するに当たっては、作成担当者以外のものが文言を最終チェックする体制を普段から構築しておくことをお薦めするものである。    

2回 未知の国や地域へ初めてツアーを出すときは要注意――パッケージツアーの主催旅行で、提供されたサービス内容に不備がある時の旅行業者の責任

 

今までパッケージツアーなど不可能だった国や地域でも、治安が安定し、あるいは、国の方針転換により、新たにパッケージツアーが可能になるということはよくあるはずだ。このような国や地域は、未知であるだけに、旅行者にとっても、旅行業者にとっても魅力的である。

しかし、未知であるが故に、送り出す側も受ける側も経験不足のため、さまざまなトラブルが生じる。今回は、実際に訴訟にまでなったケースを紹介し、トラブル防止の方策を検討しよう。

 

サウジアラビアは厳格なイスラム国家であり、主として宗教上の理由から外国人の入国を厳しく制限してきたが、1994年頃から、入国を少しずつ緩和し始め、同国国防航空省に属する政府機関の一つであるサウジアラビア航空が企画管理する旅行に限り、日本人の入国が可能となった。

A社は、これをうけ、サウジアラビア航空から提示されたモデルスケジュールのうちから2コースを選択し、同航空から交付を受けた資料に基づいて旅行用パンフレットを作成して、「荘厳なるコーランの響き サウジアラビア紀行十三日間」と題して、1999年1月以降、ツアーの参加を募集した。

しかし、初期に実施された旅行内容には相当問題があり、参加者から強い苦情が出たようだ。旅行後、サウジアラビア航空は、日本副代表を介して参加者に陳謝するとともに、1人あたり100米国ドルを返還している。A社も詫び料として、この100ドルを含め、1人あたり3万円を返還している。

旅行に参加したBは、3万円の返還だけでは納得せず、旅行内容が契約内容と異なることによる慰謝料として80万円と、代金(83万2000円)が相場より割高だったとして、その財産的損害30万円の両者を併せた金額の支払い(実際は、前述の通りわび料3万円の返還があったので、107万円の請求)を求めて裁判を提起した。

Bの主張は、

「最新型の大型バスが予定されていたのに中古のバスだった。サウジ王家の「赤い砂漠」でのロイヤルテントでの食事が予定されていたのに普通人のテントだった。旅行代金が高いのに昼職のうち4階は屋外で箱入り弁当を食べた。予定された訪問地なのに外から見学や車窓からの見学、駆け足の見学がいくつもあった。自由時間が金曜に設定されていたので売店さえ休業していて、何もすることが出来なかった。現地ガイドは能力的に問題があった。「荘厳なるコーランの響き」は、滞在中一度も聞けなかった」

など、A社に、旅行契約に対する債務不履行(不完全履行)が多数あるというものであった。

判決自体は、旅行サービスの内容に相当程度不備があることは認めたものの、一審も、控訴審もA社が勝訴している(控訴審 福岡高等裁判所判決平成13年1月30日)。

控訴審判決によれば、今回の旅行が顧客の信頼ないし期待に十分に応える対応であったともいいがたいとしながらも、旅行の実施の全てがサウジアラビア政府および政府機関であるサウジアラビア航空の管理下にあって、日本の旅行業者がこれに介入することは困難であること、当該旅行の目的地、日程、移動手段等につき、十分な調査を行うことが困難であったこと、旅行サービス提供機関(今回はサウジアラビア航空)の選択の余地もなかったこと等を考慮して、A社の対応は、初めての企画としてはやむをえず、法的に過失があったとはいいがたいと判断している。

結果的には旅行業者側が勝訴したものの、この判例は、旅行業者にとっては多くの教訓を含んでいる。

今回のケースは、旅行サービス提供機関が複数存在していたり、事前調査が不可能でないとしたのなら、結論は逆になった可能性が強い。すなわち、初めての国や地域にツアーを出すときには、それが可能であれば実際に現地調査をするなどして、事前調査を尽くさないと旅行業者は法的な責任を問われるということである。この点は、旅行業者はよく肝に銘じてほしいものである。

ところで、A社は、参加申込者に、「諸々の手配は、サウジアラビア航空の全責任のもとにおこなわれます。現地事情により、入国してからも突然の日程・宿泊地・ホテル等が変更される場合がございます」、「当該変更に関しては変更補償金の対象外とさせていただきます。特殊な国であることをご理解の上、ご参加ください。」などと書いたパンフレットを送付している。判決は、このようなパンフレットを事前に送ったという事実もA社に軍配をあげた理由の一つにしている。

しかし、読者の方々は、このようなパンフレットを送ってあったのに、後から参加者が旅行内容に対し強い抗議をしてきたという事実の方に注目してほしい。これは、結局文書だけでは、お客は事情を十分理解しないと言うことを意味する。今回も、口頭で丁寧に旅行の特殊性を説明していれば、事後の苦情は相当程度防げたのではないかと思われる。この件に限らず、「トラブル防止の最良の手段は、口頭で必要な説明を尽くす」ということであるということを知ってほしいものである。          

3回 出発二日前における旅行者氏名のスペル訂正は、「旅行者の交替」か

 

旅行業者主催の海外旅行の出発日二日前に、顧客(旅行参加者)グループの代表者から、グループ内の一人である須藤の姓ついて、その英文スペルを「SUDO」から「SUTO」に訂正する旨の申し出があった。顧客側はこの訂正のためにどのような費用負担をすべきなのか。しかし、たったこれだけのことが、後に訴訟まで発展する大事件となってしまったのである。

 

主催者であるA社は、出発日二日前という出発直前のスペル訂正だったので、実質的には旅行者の交替の場合と同じだけの手数がかかったとして、同社の旅行業約款14条(旧運輸省告示の標準旅行業約款に準拠)の「旅行者の交替」に当たると判断し、旅行取消しの場合の手数料(旅行代金の50%以内。本件では3万7500円以内)を基準として、2万8000円を顧客側に請求した。

 

旅行業者であるB社は、A社を代理して本件顧客から旅行の申し込みを受けたものであったが、とりあえず、この2万8000円について立て替え払いをした。しかし、スペル訂正は、旅行者(顧客)の過失により訂正が必要になったにすぎず、旅行者が交替した訳ではないはずとして、旅行業約款26条の「旅行者の責任」の規定に基づき、旅行者は手続きにかかった実費を負担すればいいはずと反論した。そして、B社としては、その実費は、1万6000円は超えるはずはないと考えていた。

 

差額は、わずか1万2000円であるが、A社、B社間では話し合いが着かず、B社はA社に対し、この差額1万2000円につき、不当利得に基づく返還を求めて訴訟を提起した(実際は、これに加え、被告との交渉に要した営業損失として2万1600円を合わせて請求している)。

 

本件のようなスペル訂正は、旅行業の店頭実務では、日常頻繁に起こりうるケースである。また、本件で問題になっている標準約款は読者の所属会社の大部分が自らの約款として使用しているものなので、本件は人事でないはずである。

さて、それでは、本件で、A社、B社どちらの主張が正しいと言うべきであろうか。

 

形式論からすれば、B社の主張は筋が通っている。確かに、本件は単なるスペル訂正であり、旅行者の交替など一切無い。しかし、旅行実務に携わっている方の中には、A社が敢えて本件を「旅行者の交替」と主張した気持ちを理解できるものも多いであろう。

出発日二日前のスペル訂正となると、通常、旧航空券を取り消し、新航空券の発券が必要となり、また、航空運賃は航空会社に入金されているので、航空券のボイド(取り消し)でなく、リファンド(払い戻し)処理がなされることになる。さらに、この時期となると、多くの場合、旧航空券は、航空券を空港で顧客に渡す業者(センディング業者)に預けられているので、センディング業者から旧航空券を取り戻し、新航空券を渡さなければならない。海外旅行における同一性確認はパスポートの記載の氏名との照合によってのみなされることから、このように、出発直前のスペル訂正は、まさに「旅行者の交替」と同じだけの手間がかかるのも間違いない事実である。実質論から見れば、A社の主張も十分うなずける。

 

判決は、B社の主張が認められ、A社には、1万2000円の支払いが命じられている(千葉地裁平成13年1月29日判決)。裁判となれば形式論が優先するので、結果自体はやむを得ないと思われるが、事実として、「旅行者の交替」と同じだけの手数がかかっているので、それが評価されないことについて納得できないという業者も多いであろう。

 

しかし、本件では、予防は簡単だったはずである。A社またはB社が、顧客の申込書の記載だけを信用せず、早い時期にパスポートとの記載と照合したなら防げたはずだからである。本件を実務の手順を再検討するための良い教材としてほしいものである。

また、根本的な対策としては、約款を変更して、航空券の切り替えが必要となるような申し込み事項の変更が合った場合には、「旅行者の交替」と同様の費用負担が必要となる旨あらかじめ規定しておくという方法もある。ただ、この場合は、標準約款と内容が異なることになるので、約款自体につき国土交通大臣の認可が必要となることを忘れないでほしい。    

4回 出発二日前における旅行者氏名のスペル訂正は、「旅行者の交替」か(その2)

 

まずは、前回(5月15日号)検討した判例を要約して、改めてご照会しましょう。

「旅行業者主催の海外旅行の出発日二日前に、顧客から須藤の姓ついて、その英文スペルを「SUDO」から「SUTO」に訂正する旨の申し出があった。

主催者であるA社は、出発日二日前スペル訂正のため実質的には旅行者の交替の場合と同じだけの手数がかかったので、これは「旅行者の交替」に当たると判断し、旅行取消しの場合の手数料を基準として2万8000円を顧客側に請求。これに対し代理して旅行の申し込みを受けたB社は、旅行者が交替した訳ではないので、顧客は手続きにかかった実費1万6000円を負担すればいいはずと反論。差額は、わずか1万2000円であるが、A社、B社間では話し合いがつかず、争いは訴訟へ発展。判決は、B社の主張が認められ、A社には1万2000円の支払いが命じられた」

 

これについて私は、次のようなコメントを書きました。

「本件では、予防は簡単だったはずである。A社またはB社が、顧客の申込書の記載だけを信用せず、早い時期にパスポートとの記載と照合したなら防げたはずだからである。本件を実務の手順を再検討するための良い教材にしてほしいものである」。

これに対して、読者のKW氏からから、次のようなご意見が届きました。

「この意見には同意しかねます。本来公文書である旅券を旅行会社が集めるのはおかしい。(査証が必要な場合は別)ましてや、昨今は旅行会社に泥棒が入り、日本人の旅券が紛失する事件も多発中と聞いています。

これでは、全ての旅客の旅券を一度、旅行会社が集めてスペルチェックをしてお返ししろとのことだとおもいますが?あくまでもネームリスト(またはネーム入り日程表)を作成し、スペルチェックはお客様自身でするように教育するべきだと思います。赤ちゃんでないのですから、お客様にスペルの重要性の自覚を植え付けるように指導することこそ、旅行者の責任ではないでしょうか?」

 

読者の方からこのようなご意見をいただけると言うことは、私としては非常に嬉しいことです。私の論考をよく読んでいただいていると言うことの証ですから。今後も、読者の方からどしどしご意見をいただきたいと思います。

まず、パスポートの件ですが、私もKW氏に同感で、業者は、これを旅行前も旅行後も極力預かるべきではありません。私のコメントも、パスポートの現物を預かれということを言っているわけではないのです。

問題は照合の方法でしょう。前回は、字数に限りがあったので具体的には書けなかったのですが、私が当初考えていた方法の一つは、初めての顧客とグループ旅行については、スペルの間違いがあると航空券の切り替えが必要になるなど必要な説明を付けたうえ、申込書に記入したネームを記載した照合書面を顧客に送って顧客自身に確認してもらうという方法でした。この照合書面は、日程表を送るときに同封してもいいし、その他、顧客に送る文書の一部を借りてもいいと思います。KW氏のご意見のように、ネームリストやネームリスト入り日程表という形で顧客に送って照合してもらうというのは、結果的には、私の案と同様になると思いますが、このとき大事なのは、なぜ照合する必要があるかを説明することだと思います。

実は、私はもう一つ照合の方法を考えていました。それは、パスポートのコピーを預かるという方法です。パスポートの現物を預かるのは避けるべきですが、そのコピーを早めに、出来れば申し込み時に受け取っておけば、スペルの問題が解決するだけでなく、有効期間やその他必要事項の確認が可能となります。添乗員も、旅行中、旅行者のパスポートのコピーを一式持参でき、便利だと思います。しかし、これは、KW氏の言われる、お客様の「教育」や「指導」の必要性とも絡み、業者がどこまで旅行者の「面倒」を見るべきか、旅行者がどこまで「自己責任」で対処すべきかの問題を生じると思います。さらには、「消費者保護」がどこまで必要かという難問にもぶつかると思います。是非現場のご意見をお聞きしたいと思います。その上で、いずれこのコーナーでこの問題を再検討したいと思っています。

今回のケースに限らず、現場からの疑問点、あるいはご意見が有れば遠慮なくご提示ください。また扱ってほしいテーマが有れば、ご一報ください。本コーナーが有意義なものになるための材料とさせていただきます。            

5回 ワールドカップサッカーフランス大会「日本アルゼンチン戦」のチケット問題の顛末と教訓

 

98年6月に開催されたワールドカップサッカーフランス大会は、国際サッカー協会FIFAと大会主催者のフランス組織委員会CFOの不手際やブローカーの暗躍から、全世界的規模でチケット不足が大問題となったことは記憶に新しい。日本でも、日本vsアルゼンチン戦のチケットが不足して、この試合の観戦の主催旅行に必要なチケットが手配できず、多くの旅行者が当時大変苦労したはずである。その中で、訴訟に発展したケースもあった。今回は、判例集に掲載された二つのケースをベースに検討してみよう。

 

第一判例は、名古屋地裁平成11年9月22日の判決で、旅行業者として顧客に対する債務不履行責任はあるが、代替する割安の旅行が提供されたことなどにより、顧客の損害が認められなかったケース(判例タイムス1079号240頁)。第二の判例は、京都地裁平成11年6月10日の判決で、CFOとチケットの購入契約をすることにより手配債務の履行をしたと認められ、またチケット不足が判明した後の旅行業者の対応が適切であったため不完全履行にあたらない(つまり債務不履行にならない)とされたケースである(判例時報1703号154頁)。

 

いずれの判例も、結果は旅行業者の責任を否定しているが、ここから多くの教訓を得ることが出来るであろう。

確かに、主催旅行は、サービスそのものを提供するのでなく手配する債務を負っている。この点は、第二判例の言うとおりなのだが、その際旅行業者は手配さえすればそれで責任を免れるものではない。旅行業者は主催旅行の自然的条件、社会的条件について専門的知識、経験を有しまたは有すべきものであり、他方、旅行者は旅行業者のかような専門的知識、経験を信頼して主催旅行契約を締結するものである。となれば、旅行業者は手配債務の履行に際して、旅行サービス提供機関の選択などに関してあらかじめ十分に調査、検討して、専門家としての合理的判断をすべきことも当然のことである。このことは第二判例でも明確に謳われている。

 

 FIFAは、98年1月にはチケットの割り当て制限を発表しており、公認旅行代理店を通じて一般に販売されるチケットは全体の10%にすぎず、さらに一公認代理店につき割り当ては1試合300枚が限度とのことであった。となれば、日本チームの試合のチケットを確保することは相当の困難が予想出来たはずである。にもかかわらず、第一判例の旅行業者は、ある公認代理店に5000枚(うち対アルゼンチン戦は約1800枚)も注文していた。結果は、約650枚しか入手出来ず大問題となってしまったのである。これでは、旅行業者として必要な注意を尽くしたとはいえないであろう。

 ただ、それでも第一判例の業者が債務不履行の責任を免れたのは、その後の処理が適切だったからである。同社は、本件主催旅行を中止することを決め、旅行業約款(標準約款によっていた)16条6号により契約解除し、併せて試合観戦をのぞいて同じ行程の主催旅行を格安の新価格(約3割引き)を用意し、希望者はそれに参加してもらうことにした。この事件の原告はこの代替旅行に参加しながら、あとから損害賠償を求めてきたものであった。裁判所は、旅行業者に債務不履行があることを認めながら、顧客の損害は無いとと認定したものである。

 

第二判例の旅行業者は、自らが公認旅行代理店であったが参加人数分のチケットが入手できなかった。同社は、旅行は催行するが旅行参加者が観戦できなかった場合には旅行代金を全額返済する。現地で人数分のチケットを確保できない場合には抽選で観戦者を決めるということにした。実際には、現地でも不足分を確保できず抽選となったとのことである。ただ裁判所はこのような事後処理を評価し、債務不履行に基づく旅行者の請求を退けている。

 

最近は、イベント付きの海外旅行も増えている。その際、必要なチケットを確保できないと言うことも起こりうる。そのときの旅行業者はどう対処したらいいかについて、これらの判例は貴重な実例を提供してくれていると思われるので、ここにご紹介した次第である。旅行業者は、事前の調査、検討を尽くすのは当然であるが、トラブルが生じたあとの事後処理をいかに適切に処理するかも極めて重要なのである。     

 

6回 航空機が目的外空港に着陸したときの航空会社および旅行業者の注意義務

 

今回は、航空会社に関する判例であるが、旅行業者にとっても参考になると思われるので紹介することとする。

 

Aは当時70歳の男性であったが、空港までBに迎えに来てもらうことにして、単身で釜山に行くことにした。97年6月、大韓航空機を使い、関西国際空港から釜山空港に行く予定であったが、航空機は強風のため釜山に着陸できず、ソウルの金浦国際空港に着陸した。航空機内では、日本語が全く使われなかったため、本件航空便がソウルに到着したことをAが知ったのは入管検査の時という状況であった。通関後、大韓航空機の職員の案内でホテルに向かうこととなったが、日本語での説明は全くなかった。Aはやむなく、他の韓国人乗客の後ろについてソウル市内のホテルに行き、そこで一泊して、翌朝再びバスに乗せられソウル空港に行ったが、台風のため航空機の離着陸はなかった。しかし、この間も日本語での説明は一切無く、事情がよくわからないまま引き回されていた。再びバスに乗せられたが、やはり日本語の説明はなく、職員の韓国語の説明の中でソウルステーションという言葉を聞いて、あわてて何人かの人のあとに続いてバスから降りたが、そのあと、大韓航空側のフォロウーは全くなく、全く一人で取り残されてしまった。Aは、一人で苦労してソウル駅にたどり着き、片言の日本語の出来る赤帽に釜山までのセマウル号の切符を買ってもらって、やっとの思いで釜山駅につき、そこで日本語の出来るタクシーを探して、どうにかあるホテルに泊まることとなった。幸いにしてホテルの主人が日本語を話せるため、やっとBと連絡が取れたという次第であった。

Aは、老人というだけでなく、狭心症と糖尿病の持病があり、さらに、膝を痛めていて、歩行も不自由であったので、釜山にたどり着くのに、普通の人以上に苦労したのであろう。帰国後、大韓航空相手に弁護士を立てず自分だけで訴訟を提起した。

 

大韓航空は、国際運送約款第8条により、経路変更の場合、自ら代替手段を提供できなければ他の運送機関に運送を依頼しなければならないことは言うまでもなく、本件ではAを釜山まで鉄道等で送り届けるよう手配する義務があった。

問題は、大韓航空が韓国語のみで対処したため、韓国語の判らないAは途中から一人で放りだされ、自力で苦労して釜山まで行くこととなったのである。このような場合に、航空会社側に、経路変更について乗客がそのことを理解できるように説明し、案内する義務がどこまでがあるのかということである。

大阪高等裁判所は、「日本国より、大韓民国に直行するものであり、このような便には、日本語しか話さない乗客が多数いるであろうことは当然に予測されるところであり」、「このような乗客に対する前記のような異常事態における説明、案内などは日本語をも用いるなど、日本語しか理解できないものでも理解できる方法でなされなければならない」として、大韓航空に対し、Aにセマウル号の運賃やタクシー代2万5000円、慰謝料7万5000円、合計10万円を支払うことを命じた(平成10年11月17日判決。判例時報1687号140頁)。

すなわち、裁判所は、日本発の便であったということをとりあげて、日本語しか理解できない者でも理解できる方法での説明義務を認めているのである。このことからすれば、Aがソウルでトランジットして、ニューヨーク行きの便が、ワシントンDCに着陸したという事態では、英語の説明が有ればそれで十分ということになるかもしれないのである(旅行者の語学力と業者の説明義務の問題は難問である。いずれ本コーナーでも詳しく説明する予定である)。

さてそこで、旅行業者の方は、本件をパック旅行で添乗員が日本から同行しないケースに置き換えて考えていただきたい。旅行者には、英語が全くだめという者はいくらでもいる。そのよう者にとり、外国の目的外空港に強制降機という事態では、日本語の説明がない限りパニックに陥ってしまうであろう。ことにトランジットが絡まると事態は深刻になる。その結果、目的地に到着できなかったり、大幅に遅れて到着したりという事態は十分にあり得る。

このような場合にそなえ、緊急事態での連絡方法や対処の方法が事前に的確に説明されている必要が有ろう。そして、連絡を受けた場合に適切なアドバイスが出来る体制も整えておく必要がある。Aも、ソウルのホテルから連絡を取り、適切なアドバイスやサポートが受けられれば、苦労して独力で釜山に行く必要はなかったはずである。

本件のような事態に対するサポート体制が不十分な場合、旅行業者が責任追及されるということも十分にあり得るのである。     

7回 旅行業者の主催するオーストラリア新婚旅行の一部で、クルーザーを利用すべきところを小型水上飛行機に変更したことが業者の債務不履行に当たるとされたケース

 

Aは、96年5月1日、B社と主催旅行契約を結んで、同社の主催旅行「ハネムーンプラン グレートバリアリーフの休日&エアーズロック、シドニー9日間 ヘイマン島コース」に参加した。旅行日程では、2日目のハミルトン島からヘイマン島へと、その帰りである5日目のヘイマン島からハミルトン島への旅客運送機関として、豪華クルーザー「サン・ゴッテス号」が予定されていた。ところが実際は、旅先で突然小型水上飛行機に変更されたことから本件のトラブルが生じたものである。

 

このような旅先でのスケジュール変更については、これまでにもいくつかの判例が出ており、旅行業者が勝訴したものと、敗訴したものと両方ある。本件は、旅行業者が敗訴し、債務不履行として損害賠償が認められたケースであり(東京地裁平成9年4月8日判決。判例タイムス967号173頁)、参考になると思われるので紹介し、その問題点を検討することとしよう。

 

小型水上飛行機に変更となった原因は、参加者がA夫婦の2名だけだったので、ヘイマン島のリゾートホテルが、それではクルーザーは出せぬと一方的に輸送方法を変更したようである。しかし、宣伝パンフレットでも、豪華クルーザー「サン・ゴッテス号」でのクルージングを堪能しながら、貴族に愛されたヘイマン島に行くことが強調されていたし、Aはそれを楽しみにしていた。このクルージングが、このパック旅行の目玉だったのは事実であろう。それが、突然小型飛行機に変更となれば、Aが怒るのもやむを得ないところである。実際、この小型機は、相当乗り心地が悪く、かつ不安定な飛行だったようである。裁判所も,Aにつき「当然許された期待感を裏切られ、近い将来には同様の楽しみを実現することがほとんどできないとの失望を余儀なくされるという相当大きな精神的苦痛をしいられたといわなければならない」と判示している。

本件は、最小催行人数を二名として募集していたため、当然これが旅行契約の内容となっていた。Aが変更を了解しない限り、人数が2名だからといって運送方法を一方的に変更することは出来ないのは当然で、B社の債務不履行となること自体はやむを得ないであろう。

この場合、Aが船でなく飛行機でヘイマン島を往復してもそれでだけで変更を同意したことにならないのは当然である。Aとしては、変更不同意でも提供される手段を利用しなければ旅行を続けられないからである。実際、2日目は、英語の判らないA夫婦が、パイロットに英語で話しかけられ、訳の分からないまま飛行機でヘイマン島につれていかれている。ヘイマン島ではAはホテルに抗議したが受け付けてもらえず、また、旅程表の緊急連絡先に電話しても話が伝わらず、やむなく飛行機でハミルトン島に戻っている。旅行業者の中には、旅行者が代替手段を利用した以上変更に同意したものと見なせるなどと思っている向きもあるが、それは誤解なので注意されたい。

さて、本件のB社にとって最大のミステークは、ヘイマン島のホテルに対して旅行者が仮に2名でも、クルーザーを運航するよう約束をとりつけておかなかったことであろう。旅行契約で最小催行人員を2名とした以上、仮に2名であっても、旅行内容に変更がないよう必要な手配をすべきことは当然であり、業者の方々は、この点については十分注意をしてほしい。実際は、変更があっても現場で旅行者の了解を取り付けて何とかトラブルにならずにすむことが多いであろうが、旅行者がどうしても納得せずトラブルになり、時には訴訟になることもあるからである。

本件では、緊急連絡先に連絡しても話が伝わらなかった点も気になる。話が伝わらなかった理由は判決上不明であるが、旅行中のトラブルで、緊急連絡先に連絡しても埒があかなかったという苦情はよく耳にする。今回も、緊急連絡先がうまく対応できれば、トラブルは未然に防げたかもしれない。緊急連絡先が有ってもそれが有効に機能しなければ意味がないので、旅行業者の方がたは、自社の緊急連絡先が機能しているものかどうか常々点検してほしいものである。

さて、本件で裁判所は、B社に慰謝料として15万円の支払いを認め、財産的損害は認めていない。クルーザーの乗船料金が旅行代金のなかで特定していなかったので、飛行機代金との差額が明らかにならなかったからである。なお、慰謝料15万円という額について、読者の方がたがこの額を多いとみるか少ないとみるかは判らないが、裁判所の認定する額としてはこの程度が普通である。     

8回 ホテルの宿泊客がトイレで転倒し脳挫傷で死亡した場合に、ホテル側に安全配慮義務違反があったとされたケース

 

<本判例の意義>本判例は、ホテルの宿泊客に対する安全配慮義務違反が認められたケースであるが、旅行業者にとっては、旅行者に対する安全配慮義務として同じ問題があり、旅行業者にとっても、いかなる場合に安全配慮義務があるかを考える上で格好の判例なので紹介することとする(東京地裁平成7年9月27日判決)。

 

<事案の概要>Bホテルに宿泊したAは、酒によって同ホテルのトイレで転倒して脳挫傷による意識障害の状況となり、最終的には救急車で搬送された病院で翌日意識不明のまま死亡している。

Bホテルの従業員が、Aの倒れているのを発見したあとすぐ救急車を呼べばよかったが、実際は、Aの状況を泥酔の結果の意識障害と軽信してすぐさま救急車を呼ぶような処置を執らず、その結果、裁判所の認定では、救急車を呼ぶのが6時間遅れてしまった。

裁判所は、ホテル側が迅速に必要な対処をしてもAが死を免れ社会復帰が出来るまでに回復した蓋然性は認められないとして逸失利益は否定したものの、ホテル側に、2400万円の慰謝料の支払いを命じている。

 

<裁判所のいう安全配慮義務>裁判所は、「ホテル営業を営む者は、宿泊客が宿泊施設において事故や急病により医師等の医療専門家の診断を要すると予想し、または、予想すべき状況にある場合には、明らかに本人の反対の意思が認められない限り、医師の往診を依頼するとか、救急車により救急病院への搬送を要請するとか、速やかに宿泊客をして医師等の医療専門家の診断を受けさせる措置を講ずべき義務があると解すべきである」としている。

この中で、「明らかに本人の反対の意思が認められない限り」という下りは重要である。本人が「医者を頼む」といわなくても、医師の診断を要すると判断すべき時には、医者に診せるよう手配する義務があることになる。

本件では、「大丈夫ですか」との問いかけに対して、Aは「大丈夫」と答えている。だが、本人がそのように答えても、「反対の意思」があったことにはならない。この点は、ことに、団体旅行の時など注意すべきである。その団体内の他の同行者に任せて何もしないと、この義務違反を問われることがありえるのである。

 

<旅行業者にとっての教訓>添乗員付きのパック旅行の時は、旅行業者は、まさに本判例のホテル業者と同じ立場である。旅行者の事故や病気の時に添乗員が的確に対処できないと、本件のBホテルと同様、高額の損害賠償を支払うことになりかねない。ホテル内であっても、添乗員がいるときは、添乗員がホテルに救急車の出動を要請するなど、添乗員の責任は第一次的と考えるべきである。従って、旅行業者にとっては、普段の添乗員教育が極めて重要である。いかなる事態が生じたときには、どう対処するか、マニュアル化することの効果的であろう。

添乗員のいないときには現地の旅行業者が第一次的な責任をとることになるが、その場合でも主催者に、現地の旅行業者やサービス提供者の選任、監督責任が残ることを忘れないでほしい。             

9回 手配代行者のミスは自己のミス

 

中国旅行のツアーで、旅行日程のなかの「ガイズ村への小旅行」が手配代行者のミスで中止になったケースで、主催旅行会社の債務不履行責任が認められなかった判例がある(東京地裁平成7年10月27日判決)。

判決の意義この判決は、旅行業者に責任が認められなかったケースとしで紹介されていることが多いが、現行の標準約款では逆に業者が責任を問われるケースなので、今回紹介し読者の方々に、注意を促したい。

 

<ケースの内容>旅行会社Bが昭和63年8月に企画・実施した「河西回廊・天山北路とカシュガルの旅」とのパックツアーで、宣伝パンフレットでも旅行日程でも、パミール高原の入口ないし麓の「ガイズ村」への小旅行が記載されていた。ところが実際は、ガイズ村まで行くことが出来ず、パミール高原を臨むことも出来なかった。このツアーに参加したAは、それを不服として提訴したのが本件である。

当時の中華人民共和国内で法律上適法に運送機関等の手配が出来たのは国際旅行社のみで、B社も本件の現地旅行サービスの手配を同社に委託した。ところが、国際旅行社のミスでガイズ村への旅行の手配を事前に行っていなかった。そのことを現地で初めて知った日本人添乗員がいろいろ努力したが、カシュガルから120キロのガイズ村まで到達できず、手前(カシュガルから約65キロの地点)で引き返さざるをえなかったのだった。

 

<裁判所の判断>本件は、平成7年の旅行業法改正以前のケースであったから、旧21条1項但書で、概略「旅行サービスの手配を委託すべき者の選定が強制され、これによる以外に手配が出来ない場合であって、募集に際してそれを明示したときには、委託先の行為については免責される」との規定があった。これに基づき、裁判所はB社の債務不履行責任を否定した。

 

<現行の標準約款ではどうなるか>平成7年の旅行業法改正に伴う標準旅行業約款改正に伴い、上述の但し書きは廃止された。中国でも手配代行者は多数になったし、旧ソ連圏の崩壊により、このような但書は不要になったと考えたのだろうか。

その結果、標準約款23条1項で、旅行業者は手配代行者の責任についても自己の責任と同様に責任を負うという原則に例外が無くなった。従って、現行約款では、本件のように代行者の選定に選択の余地が無くても、その代行者の手配ミスについては、自らのミスと同様に責任をとらざるを得ないのである。

 このような約款の変更が妥当かどうかについてはやや疑問が残るが、現にこのような約款になった以上それに従わざるを得ないのである。

 

<旅行業者にとっての教訓>確かに中国や旧ソ連圏の国内事情は大きく変わり、手配代行者は選択できるようになった。しかし、将来のアフガンやイラク、ハイチはもちろん、現在はパックツアーの対象には不適でも将来は可能となるべき地域は多数残っている。そのような地域にツアーを出すときは、その初期には、昔の中国のように手配代行者を選択できないという事態も当然予想される。

 しかし標準約款が変更されているので、もはや今回のような救済判決は望めない。業者の方々は、このような場合でも、現在では手配代行者のミスはそのまま自分のミスとなることをはっきり認識しておいてほしいものである。

 なお、旅行業者が旅行者に賠償をしたときには、ミスをした手配代行者に求償することは勿論可能である。  

10回 宿泊先の変更と債務不履行

 

パック旅行で、旅行業者が無断で宿泊施設をホテルからコンドミニアムに変更したことについて、旅行契約上の債務不履行責任が認められたケース(神戸地方裁判所平成5年1月22日判決)

 

<問題の所在>宿泊施設は旅行契約の重要部分である。これを旅行者に無断で変更すれば債務不履行になるのは当然であり、裁判の結果はやむを得ないであろう。今回は、なぜこのような事態が発生したかを検証し、同様なことが起こらないようにするための予防策を検討することにしよう。

 

<事実経過>本件は、大手旅行業者のB社が主催する、カナダのウイスラーとバンクーバーでのスキーと観光等を目的とする9日間の旅行契約で、91年1月14日出発、同月22日帰国であった。ウイスラーでは5泊し、「宿泊先は、「シャトーウイスラー」もしくは「デルタマウンテンイン」、またはそれらと同等クラスの他のホテル」とのことで旅行契約がなされていた。 

トラブルは、この宿泊先を巡って起きた。本来は、これらのデラックスタイプのホテルに泊まるはずが、オーバーブッキングのため実際は「グレイストーン」というコンドミニアムに泊まることとなったのである。

グレイストーンは、典型的なコンドミニアムで、自炊を前提の宿泊施設であり、中にレストランや喫茶の設備はなく、ボーイによる荷物の移動やルームサービス、モーニングコールなどのサービスもなかった。そのため参加者は、現地では、スキーコーディネーターのところへの集合時間の関係で朝食がとれなかったり、外のレストランまで遠いために買いだめのパンで凌いだりと、かなりひどい目にあったようだ。

ことに参加者の中でAは、新婚旅行であったこともあり、怒り心頭に達して、後に訴訟にまでなってしまったのである。

B社は、ウイスラー地区でデラックスタイプのホテルを常時10室程度確保していたが、

本件のツアーに関しては、フリースタイルスキーのワールドカップ大会の関係者のため、ホテル側が、旅行会社に割り当てていた部屋を回収してしまった。そのため本件のオーバーブッキングが生じたのであり、ホテルがとれなかったことはB社の責任ではなかった。

 問題は、その後のB社の対応である。B社がバンクーバー支店からオーバーブッキングの通知を受けたのは90年12月13日、変更の確定的になったのは同月24日頃   であり、25日にB社は旅行代理店に宿泊先がデラックスなコンドミニアムタイプであるグレイストーンに決まった旨ファックスを流した。しかしそこには、宿泊施設の種類の変更を旅行者に通知説明すべきとの注意はなかった。

出発7日前、Aは送られてきた日程表の宿泊ホテル名欄に、それまで聞いていなかった「グレイストーン」の名前が記載されていたので不安になり、代理店に設備の確認をしたが、担当者はホテルと異なるとは明示せず、さらに最も重要なレストラン設備を尋ねられても、「朝食付きのコースなのでレストランくらいは有るでしょう」と答えていた。ところが実際は、前述の通り、レストランは無く、Bらは大変不便な思いをすることになったのである。

 

<教訓―何がいけなかったのか>

何がいけなかったかといえば、それは一言でいえば、「慣れ」から来る各担当者の「思いこみ」である。B社も代理店も、担当者はコンドミニアムとホテルの違いがよくわかっておらず、レストランぐらい有ると勝手に思いこんでいたようだ。「思いこみ」の結果、B社はホテルがとれないことが判ってから出発まで十分時間があったにもかかわらず、必要な調査をしなかったのである。

Aからの問いあわせのあと、代理店はB社に照会している。しかし、B社はそれでも調査をしなかった。さらに、代理店はB社から回答がないにも関わらず、「レストランぐらい有るでしょう」と気楽に答えてしまっている。これらも「思いこみ」からである。

このような「思いこみ」の背景には、B社は、ウイスラーには継続的にツアーを送り込んでいることから、現地のことは判っているという油断があったのであろう。このように「慣れ」から来る「思いこみ」は、時に大きな間違いを招来することを忘れないでほしいものである。

 

11回 ホームページ(WEB SITE)には、登録番号が必要

 

<カリフォルニア州弁護士からの警告>2002年12月のことであるが、私が属している国際旅行法学会IFTTA(International Forum of Travel and Tourism Advocates)のメンバーであるロサンジェルスの弁護士から、会員全員宛に興味深いEメールが届いた。

 その内容は、概略次の通りであった。

「カリフォルニアの旅行商品販売法CST(the California Seller of Travel Law)では、旅行商品販売のための広告媒体には、それがいかなる媒体であろうとも、旅行業者としての登録番号を明確かつ目立つ方法で(clearly and conspicuously)記載することが要求されている。最近ある消費者団体が、数百の旅行代理店に対して、websiteに登録番号を表示していないか、CSTに従った方法で表示していないという理由で訴訟を提起した。自分の事務所は、被告会社の多数から受任して対処することになったが、このように、登録番号の記載が要求されている州や国は他に沢山あるはずなので、十分注意されたい」

日本の旅行業法は、第12条の7,同法施行規則第29条で、旅行者を募集する公告には、一定の事項を掲載することが義務づけられているが、登録番号も当然対象となっている。まさに日本も、この警告に従って、十分に注意しなければならない国である。

 

<web siteも広告>website(ホームページ)はビジネスの必需品となったが、これが、広告規制の対象となる「広告」であるというこという認識は、旧来の広告媒体とはかなり異なるため、確かに不十分ではなかろうか。

その結果、カリフォルニア州だけで数百の旅行代理店が、自己のwebsiteに登録番号を記載していないか、記載してもそれがclearlyでなかったり、conspicuouslyでなかったりしていたのであろう。そこに目を付けられて、消費者団体から訴えられたのである。

日本でも今述べたとおり、登録番号は必ず記載しなければならない(記載方法までは規制されていないが)。日本では、アメリカのように、消費者団体が何百という旅行代理店をまとめて訴訟提起するということは無いであろうが、違法状態は避けるべきなので、一度自社のwebsiteを、「広告」という観点から見直した方がいいであろう。その際、広告として必要な事項は表示しなければならないとともに(施行規則29条)、誇大広告が禁じられていることも忘れないでほしい(法12条の8)。

 

<国際化の中での将来の難問>websiteという広告媒体が発達すると、これを使って、例えば、ロサンジェルス在住のアメリカ人が、日本の旅行業者が主催する中国旅行のパックツアーの申し込みをするということもありえよう。このとき、カリフォルニア州のCSTの適用を受ける可能性が出てくる。ことに、現地に営業所があるとその可能性は高い。となると、websiteも外国の法律に適合するよう作成する必要性が出てくる。

さらに、ツアー中の交通事故により外国人旅行者が死傷したりすると、外国の裁判所に訴訟提起されるということもありうる。となると、その対応は、かなり面倒であろう。

インターネット時代では、このような国境を越えた難問が続々と発生することになると思われる。いずれこのコーナーでも、このような難問に逐次取り組んでみたいと思っている。