事業継承
1 初めに ― 事業承継の問題点
  1. 事業は、何時かは必ず誰かに引き継がなければならない。その時、身内に承継者がいる時はいいが、いない時は第三者に承継してもらうことを考えるべきで、それを可能にするのがM&Aである。
  2. 身内に承継者がいても、事業を承継するのは簡単ではない。
    会社の株式を全て後継者に相続させる必要があるのだが、譲るべき株価が高いと、他の兄弟に相続させるものが限られ、深刻な相続争いとなる。
  3. 遺言で書いておけばいいではないかと思っている者も多いが、法定相続人には遺留分がある。それは法定相続分の半分の権利であり、遺言でこれが侵害されれば減殺請求ができるので、遺言はかえって相続争いを惹起してしまうこともある。
    では、遺留分を生前に放棄さられればいいが、遺留分の生前放棄には家庭裁判所の許可が必要であり、現実的でない。生前贈与をしようとすれば、贈与税がかかる。
    他の相続人対策には、充分な検討が必要である。
  4. 事業承継を円滑にするために、経営承継円滑化法という法律がある。この法律が用意している制度を活用できれば多くの問題が解決できる。ただ、その適用要件、手続は決して容易ではない。そこで、その解説もしよう
  5. 後継者が株式を承継すると、現金部分は他の相続人が承継するので、納税資金に苦慮することも多い。また、自己が株式を承継すると、他の相続人に渡す遺産が不足して、自腹を切って代償金を払わなければならないことも多い。しかし、その資金確保は大変である。

この解決としては、株価の減価をさせる対策、納税資金・代償資金確保の対策が重要となる。

 
2 他の相続人に対する対策はどうしたらよいか
(1)遺言の活用とその限界
  1. 経営承継にあたって、遺言により、後継者に株式が全部相続されるように書いておけば、相続人の争いを防止し、円滑に承継できると思っている者が多い。しかし、他の兄弟の相続人には、法定相続分の2分の1の遺留分があり、この遺留分が侵害されていると、遺留分の減殺請求を受けてしまい、結局、他の相続人も株式を持つこととなり、円滑な承継ができないこととなる。
  2. 遺留分の生前における放棄は、家庭判所の許可がいるので、事前放棄では、解決が困難である。
    遺言で解決できるのは、他の相続人の遺留分の手当てができている場合だけである。
    遺留分資金が不足すると、遺留分減殺請求を受けて、株式を割譲しなければないこととなる。
    そのため、遺留分の処理を生前に解決するためには、後述の経営承継円滑化法の活用を考えるのも一方法である。
  3. 遺言で一代飛び越しの相続をさせる場合は、2割加算され最高税率60%となることにも注意が必要である。
(2)寄与分の主張は遺産争いのもと
  1. 後継者は、専務とか常務との肩書きで、父である社長を支援し、事業を支援しているはずである。となると、今の会社があるのも、自分の貢献があってこそと自負していることが多い。株価の相当部分は、自分の貢献が寄与していると信じ、相続となると寄与分を主張することになる(民法904条の2)。
    しかし、他の相続人はそのような貢献を評価していないことがしばしばある。仮に評価しても、役員報酬で十分に賄われていたはずで、別個に寄与分などあるはずはないと主張することが多く、深刻な相続争いになることも稀ではない。
  2. 一般の相続争いでも、寄与分の立証は困難なことが多く、相続争いを深刻なものにしかねないものである。そこで、このことも想定して、父たる社長の元気なうちに対策を立てておくべきである。
(3)生前贈与の利用について
  1. 生前に、承継者に株式を贈与すれば解決であるが、実際は、贈与税を払う必要があり、簡単にはできない。
    相続税と贈与税は、税率は同じだが最高税率50%が相続税なら3億円超えなのに、贈与税では1000万円超えとなるなど、贈与税は負担が大きい。
    ただ、贈与税の基礎控除は110万円あり、少額ずつ毎年継続して贈与して解決すのであれば、効果的である。
  2. 死因贈与にすれば、相続税課税となるので、贈与税は避けることができる。
  3. 贈与を考える場合、「相続時精算課税制度」を使えると、贈与も強力な解決手段となる(詳細は、次に述べる)。
(4)相続時精算課税制度の利用
  1. 制度の概要
    贈与税の課税制度には、「暦年課税」「相続時精算課税」の2つがあり、一定の要件に該当する場合には、相続時精算課税を選択することができる。
    この制度は、贈与時に贈与財産に対する贈与税を納め、その贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めたその贈与税相当額を控除することにより贈与税・相続税を通じた納税を行うものである。
    *特定同族会社株式の評価減とは併用可。

  2. 適用対象者
    贈与者は65歳以上の親、受贈者は贈与者の推定相続人である20歳以上の子(子が亡くなっているときには20歳以上の孫を含む)とされている(年齢は贈与の年の1月1日現在のもの)。
    *法改正により、平成27年1月1日以降の贈与から贈与者は60歳以上となり、受贈者には孫も含まれる。

  3. 適用対象財産等
    贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はない。

  4. 税額の計算
    @ 贈与税額の計算
    相続時精算課税の適用を受ける贈与財産については、その選択をした年以後、相続時精算課税に係る贈与者以外の者からの贈与財産と区分して、その贈与者(親)から1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額を基に贈与税額を計算する。
    その贈与税の額は、贈与財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額(限度額:2,500万円。ただし、前年以前において既にこの特別控除額を控除している場合は、残額が限度額となる)を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて算出する。
    なお、他の者らの贈与については適用が無く、その贈与財産の価額の合計額から暦年課税の基礎控除額110万円を控除し、通常の税率を適用し贈与税額を計算する。
    (注)相続時精算課税を選択すると、暦年課税の基礎控除額110万円を控除することはできない。従って、贈与を受けた財産が110万円以下であっても贈与税の申告をする必要がある。
    A 相続税額の計算
    相続時精算課税を選択した場合に、その贈与者が亡くなると、それまでに贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額と相続や遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出する。
    その際、相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額がある場合は、相続税の申告をすることにより還付を受けることができる。
    なお、相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の価額となる。株式の場合、その後の経営努力で価値が増加した時には、増加分は、相続財産の対象にならないが、逆に、価値が減少しても、贈与時の価格で評価されるので注意が必要である。この制度を使う場合は、株価を上昇させられる自信がある時に限られよう。
    他方、贈与後の配当等の果実は、相続財産から排除できるメリットはある。

  5. 適用手続
    相続時精算課税を選択する受贈者(子)は、選択に係る最初の贈与年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税選択届出書」を提出する。
    相続時精算課税は、受贈者である子が贈与者である父、母ごとに選択できるが、いったん選択すると、贈与者が亡くなる時まで継続して適用され、暦年課税に変更することはできない。
(5)経営承継円滑化法の利用
中小企業における経営の継承の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)により、 @ 相続時に、経営を承継しない相続人から遺留分減殺請求を受ける危険がある時に、生前に、推定相続人全員の間で、遺留分放棄を事前に取り決める合意をし、または、株式の価格を合意しておくことが可能である。 A 後継者である受贈者(「経営承継受贈者」という)が、贈与により、経済産業大臣の認定を受ける非上場会社の株式等を先代経営者である贈与者から全部又は一定数以上取得し、その会社を経営していく場合には、その経営承継受贈者が納付すべき贈与税のうち、その非上場株式等(一定の部分に限る)に対応する贈与税の納税が猶予される。 B 非上場株式を相続により取得した中小企業の後継者で、経営承継法における経済産業大臣の認定を受けた非上場中小企業において、その後継者が先代経営者から相続により自社株式を取得した際に、自社株式に係る相続税の80%の納税を猶予することができる制度がある。 C 事業承継に伴う多額の資金ニーズ(自社株式や事業用資産の買取資金、相続税納税資金等)や信用力低下による取引・資金調達等への支障が生じている場合に、信用保証の枠の拡大、日本政策金融公庫等による代表者個人に対する貸付けを利用することができる。
(6)種類株式の利用
  1. 株式を、経営を承継しないものに相続させざるを得ないときには、種類株式を発行すると効果的である。
    例えば、2人以上の子供がいて、一人が事業を承継するが、相続財産の大部分が株式であるため、他の子供も株式を相続せざるを得ないケースである。
    あるいは、社内の優秀な者に事業を承継させるが、相続財産の大部分が株式であるため、相続人が株式の大部分を相続し、事業承継者は一部の株式のみ所有するというケースである。
    このようなケースでは、議決権制限優先株式という種類株式を発行し、事業を承継しない株主の株式をこの種類株式に変更するとよい。
    議決権制限優先株式は、議決権を有しないが、剰余金の配当、残余財産の分配で優先する種類株式である。議決権制限優先株式を譲渡制限なしにすることも可能で、換金性を賦与させておくこともできる。
    種類株式の発行には定款の変更で、そのさいは特別決議(過半数の議決権ある株主が出席し、3分の2の賛成が必要である)による。
  2. これだと、必ずしも満足のいく仕訳ができなければ、「属人的な定め」をして、利害を調整し、経営にタッチしない相続人は、利益を優先的に受けるが、議決権を輸せず、経営に口を出さないとすることを考えるべきである。
    全株式に譲渡制限がついている閉鎖会社(通常の中小企業はこれである)では、議決権、剰余金、残余財産の分配で、株主ごとに異なる取り扱いをする旨を定款で定めることができる(会社法109条2項)。これが、「属人的な定め」である。
    属人的な定めの例としては、「株主は、所有する株式数にかかわらず、一人につき、1個の議決権を有する」、「株主である取締役は、1株につき3議決権を有する」、「10株を超える株式を有するものは、10株を超える株式につき、剰余金(又は残余財産)の配当を受けられない」、「株主は、所有する株式数にかかわらず、同額の残余財産の配分を受ける」などがある。
    「属人的な定め」をするための定款変更は、特別決議では足りず、特殊決議が要求されており、総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上の多数で決議する必要がある(309条4項)。株式公平の原則を排除する定めであるため、要件は厳しいのである。
    なお、「属人的定め」は、登記出来ない。
(7)会社分割の活用
後継者が複数いて、いずれも優秀であれば、会社を分割して、それぞれに頑張らすという方法が効果的である。「両雄並び立たず」というわけである。
この場合、早めに分割し、経営ノウハウを伝授するとよい。
会社を分割しておけば、金庫株の利用など、相続の納税資金のねん出も、柔軟にできるというメリットもある。
(8)持ち株会社の利用
持ち株会社にして、従来の会社は、その完全子会社とし、相続人は、持ち株会社の株式を持つ。事業承継者は、その過半数の株式、又は、議決権の過半数を持つことにする。
これにより、株式の3分の2でなく、過半数で会社を支配できることになる。
(9)定款で相続後の株式買い取りを規定
  1. 定款で定めれば、会社は相続人から譲渡制限株式を買い取ることができる(会社法174条)。
    この制度は、相続後の会社内の内紛を防ぐ、会社法上の制度である。
    ただし、買い取り時に、分配可能金額を超えることはできず、期末の予想される財産状態からマイナスが予想される時も、買い取りはできない。
    違反すると、譲渡人、業務執行者等は、会社に対して賠償責任を負うことになる。
    会社に、買い取り資金がある時は、相続人対策としては、この方法が最も簡明である。
  2. この場合、他の株主から買い取り請求を受けることは無い(自己株式を合意で買い取る時は、他の株主の買い取り請求権がある)。
(10)オーナー一族のシェア―拡大―新株予約権と金庫株の利用
  1. オーナー一族の株式シェアが少ない時は、そのままでは、第三者に口を出されてしまう。さらには、経営の座から追われるという事態もありうる。その対策としては、新株予約権や金庫株の利用が考えられる。
  2. まず、金庫株を予め定められた価格で割り当てることにする。これを、予め定款に規定して、取締役または取締役会の決定でできることにしておくのである。
    また、新株予約権を割り当てておいても、同じ効果が期待できる。
    株式譲渡制限会社で、金庫株の割り当や新株予約権の付与をするには、原則として総会の特別決議が必要なので、定款で予めこの様に手当てをしておくことが必要である。
    また、この場合一定事項を登記することが必要である。
  3. 後述のとおり、この方法は株価の減価にも効果がある。
(11)社長の貸付を忘れずに
社長の会社への貸し付けは、相続財産となることを忘れてはならない。
誰が承継するかは重要で、株式を相続したと同じように、内紛の素になりやすい。
会社に対して債権を放棄する時は、会社に免除益が発生することに注意する必要がある。
(12)債務の承継に注意
  1. 被相続人の債務は、遺産分割の対象外であるが、このことを失念している場合が多いので、注意が必要である。
    承継者が株式を承継し、多くの財産を相続したことになるので、債務も当然に責任を負うだろうと考えがちである。しかし、それは全く間違いなのである。
    遺産分割で、より多く遺産を承継するものに債務も承継するように相続人間で約束ができても、それは、債権者に対抗できない。
  2. 実は、債権者には選択権があり、法定相続分に応じて、各相続人に請求できるし、多く積極財産を取得したものにたいし、その額に応じて請求できるのである。
    これを失念すると、相続人間では解決できたつもりでいても、債権者から想定外の請求を受けて、すでに成立した解決案には錯誤があったという主張が出て来て、後に相続人間で紛争となる危険がある。
 
3 株価減価の対策はどうしたらよいか

優良企業は株価が高くなる。しかし、皮肉なことに株価が高すぎることは、相続対策を難しくする。承継者だけが相続財産を独り占めしたといわれてしまうからである。
そこで、株価を下げることが重要となるので、以下でその方法を検討する。
非上場株式の評価

(1)借り入れと不動産等購入
借り入れし、資産を購入する。購入資産が、借入残よりも小さく評価されると、株価を下げられる。
不動産投資は伝統的に活用されている。土地は路線価、建物は固定資産評価で評価されるので、多くの場合、時価より低額となるからである。
路線価は、多くの場合時価の7―8割、固定資産価格は建築資金の6割位に評価されるからである。
なお、中古建物の場合、固定資産評価額のほうが高いということもあるので、注意を要する。
(2)自己株式購入
  1. 会社が自己株式を購入すると現金が流失して企業価値を下げるので、株価を下げる事ができる。
  2. 会社が株式を合意で買い取る場合は(会社法156条)。総会で特別決議を得る必要がある(当人は、議決権はない)。
  3. 売却代金のうち、利益積立の部分に対応する金額は、原則として配当として総合課税となる(最高50%)ことも忘れないでほしい。
(3)従業員持株会の利用
  1. オーナー株を、従業員持ち株会に放出する方法も効果的である。この時は、従業員側の価格は配当還元価格でよいので(持株会は支配権がないからである)、オーナーの負担は楽である。
    持株会に譲渡する株式は、議決権制限株式とするのが普通である。
  2. 持株会は民法上の組合なので、配当は個人の配当所得となる。なお、50名を超えると、金商法上の届け出が必要になることを忘れないでほしい。
    会社による買い戻しには、持株会側にとって、買戻価格と配当還元価格との差額が贈与となるので注意を要する。
(4)中小企業投資育成会社の利用
  1. 中小企業投資育成株式会社法に基づく投資事業有限責任組合を通じて、投資を受け、承継すべき株価を希釈するという方法がある。投資は、株式の引き受け、新株引受権付社債を利用する。
    同時に、投資金により設備投資などが可能となり、一石二鳥ということにもなる。
  2. 利用できる企業には、業種の制限はなく、資本金3億円以下の株式会社で、高い成長性が期待でき、設立後7年以内の会社である。
    株式評価方法が、財産評価基本通達での原則的評価よりも、通常はかなり低いので、資金金調達と株価引き下げに効果的なのである。

    株式評価=人株当たりの予想純利益×配当性向÷期待利回り

    また、単独では同族とは判定されないし、単独では中心的な同族株主とは判断されないので、同族判定されて困ることも無い。
(5)特定同族会社株式の評価減
  1. 一定の要件で特定同族会社と評価されると、10%の評価減を得られる。ただし、軽減の上限は1億円までである。また、適用されるのは、特定同族会社の株式等の価格の合計額のうち10億円に達するまでの部分である。
    適用者は被相続人の親族である役員で、株式総数又は総額の株式の5%以上を有す者である。
  2. 対象株式は、議決権の制限のない未上場株式で、被相続人とその特別関係者で発行済み株式総数の2分の1を超えて所有していることが必要である。
    対象株式の時価総額は20億円未満であり、発行株式総数の3分の2までの部分である。
  3. 他の手続き条件としては、申告期限から3年以内に分割されること、この特例の選択について相続人全員の同意を得ていること、相続開始から相続税の申告期限まで株式を保有していることが必要である。
*相続時精算課税制度との併用が可能。
小規模宅地等についての相続税の課税とは選択的課税となる。
(6)小規模宅地の評価減
一定の小規模宅地について、評価減を得ることができる。以下は、国税庁のホームページの解説をベースに説明する。
  1. 特例の概要
    個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」といいます)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額します。この特例を小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例という。
    なお、相続開始前3年以内に贈与により取得した宅地等や相続時精算課税に係る贈与により取得した宅地等については、この特例の適用を受けることはできない。
    (注)1.被相続人等とは、被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族をいう。
    2.宅地等とは、土地又は土地の上に存する権利で、一定の建物又は構築物の敷地の用に供されているものをいう。
     ただし、棚卸資産及びこれに準ずる資産に該当しないものに限られる。
    *特定同族会社株式の評価減とは選択的適用となる。

  2. 減額される割合等

    平成22年4月1日以後に相続の開始のあった被相続人に係る相続税について、小規模宅地等については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、次の表に掲げる区分ごとに一定の割合を減額する。

    相続開始の直前における宅地等の利用区分

    要件

    限度面積

    減額される割合

    被相続人等の事業の用に供されていた宅地等

    貸付事業以外の事業用の宅地等

    @

    特定事業用宅地等に該当する宅地等

    400u

    80%

    貸付事業用の宅地等

    一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業
    (貸付事業を除く)用の宅地等

    A

    特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等

    400u

    80%

    B

    貸付事業用宅地等に該当する宅地等

    200u

    50%

    一定の法人に貸し付けられ
    その法人の貸付事業用の宅地等

    C

    貸付事業用宅地等に該当する宅地等

    200u

    50%

    被相続人等の貸付事業用の宅地等

    D

    貸付事業用宅地等に該当する宅地等

    200u

    50%

    被相続人等の居住の用に供されていた宅地等

    E

    特定居住用宅地等に該当する宅地等

    240u

    80%

    (注)
    1 「貸付事業」とは、「不動産貸付業」、「駐車場業」、「自転車駐車場業」及び事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行う「準事業」をいう(以下同じ)。 2 「限度面積」については、「特定事業用宅地等」、「特定同族会社事業用宅地等」、「特定居住用宅地等」及び「貸付事業用宅地等」のうちいずれか2以上についてこの特例の適用を受けようとする場合は、次の算式を満たす面積がそれぞれの宅地等の限度面積になる。
    A+(B×5/3)+(C×2)≦400
     A:「特定事業用宅地等」、「特定同族会社事業用宅地等」の面積の合計(@+A)
     B:「特定居住用宅地等」の面積の合計(E)
     C:「貸付事業用宅地等」の面積の合計(B+C+D)

  3. 特例の対象となる宅地等
    この特例は、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等のいずれかに該当する宅地等であることが必要。

    <特定事業用宅地等>

    相続開始の直前において被相続人等の事業(貸付事業を除きます。以下同じ)の用に供されていた宅地等で、次の表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(次の表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する部分で、それぞれの要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られる)。

    ○特定事業用宅地等の要件

    区分

    特例の適用要件

    被相続人の事業の用に
    供されていた宅地等

    事業承継要件

    その宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその事業を営んでいること。

    保有継続要件

    その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。

    被相続人と生計を一にしていた
    被相続人の親族の事業の用に
    供されていた宅地等

    事業継続要件

    相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その宅地等の上で事業を営んでいること。

    保有継続要件

    その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。


    <特定居住用宅地等>

    相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、次の区分に応じ、それぞれに掲げる要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(次表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件に該当する部分で、それぞれの要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られます)。なお、その宅地等が2以上ある場合には、主としてその居住の用に供していた一の宅地等に限る。

    ○特定居住用宅地等の要件

    区分

    特例の適用要件

    取得者

    取得者等ごとの要件

    被相続人の居住の用に
    供されていた宅地等

    被相続人の配偶者

    「取得者ごとの要件」は無い。

    被相続人と同居していた親族

    相続開始の時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人

    被相続人と同居していない親族

    @及びAに該当する場合で、かつ、次のBからDまでの要件を満たす人
    @ 被相続人に配偶者がいないこと A 被相続人に相続開始の直前においてその被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族で相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと。 B 相続開始前3年以内に日本国内にある自己又は自己の配偶者の所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く)に居住したことがないこと。 C その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。 D 相続開始の時に日本国内に住所を有していること、又は、日本国籍を有していること。

    被相続人と生計を一にする
    被相続人の親族の居住の用に
    供されていた宅地等

    被相続人の配偶者

    「取得者ごとの要件」はない。

    被相続人と生計を一にしていた親族

    相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人


    <特定同族会社事業用宅地等>

    相続開始の直前から相続税の申告期限まで一定の法人の事業(貸付事業を除く。以下同じ)の用に供されていた宅地等で、次表の要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(一定の法人の事業の用に供されている部分で、次表に掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られる)。
    なお、一定の法人とは、相続開始の直前において被相続人及び被相続人の親族等が法人の発行済株式の総数又は出資の総額の50%超を有している場合におけるその法人(相続税の申告期限において清算中の法人を除く)をいう。

    ○特定同族会社事業用宅地等

    区分

    特例の適用要件

    一定の法人の事業の用に
    供されていた宅地等

    法人役員要件

    相続税の申告期限においてその法人の役員(法人税法第2条第15号に規定する役員(清算人を除く)をいう)であること。

    保有継続要件

    その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。


    <貸付事業用宅地等>

    相続開始の直前において被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、次表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(次表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する部分で、それぞれの要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られる)。

    ○貸付事業用宅地等の要件

    区分

    特例の適用要件

    被相続人の貸付事業の用に
    供されていた宅地等

    事業承継要件

    その宅地等に係る被相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその貸付事業を行っていること。

    保有継続要件

    その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。

    被相続人と生計を一にしていた
    被相続人の親族の貸付事業の用に
    供されていた宅地等

    事業継続要件

    相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その宅地等に係る貸付事業を行っていること。

    保有継続要件

    その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。

(7)広大地の評価減
利用に制約のある一定の広大な土地について、評価減を得ることができる。大規模工場用地の適地、あるいは中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものは、有効利用が可能なので、評価減はない。
  1. 広大地とは、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものをいう。ただし、大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものは除かれる。
    (イ)市街化区域
    三大都市圏・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 500u以上
    それ以外の地域 ・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1,000u以上
    (ロ)非線引き都市計画区域及び準都市計画区域・・・・・・・・ 3,000u以上
  2. 広大地の価額は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次により計算した金額によって評価する。
    @ 広大地が路線価地域に所在する場合
    広大地の価額=広大地の面する路線の路線価×広大地補正率×地積
    広大地補正率=0.6−0.05×広大地の地積÷1,000u
    A 広大地が倍率地域に所在する場合
    その広大地が標準的な間口距離及び奥行距離を有する宅地であるとした場合の1u当たりの価額を、上記(1)の算式における「広大地の面する路線の路線価」に置き換えて計算する。
(8)業種転換により類似業種株価の低いところに業種変更
類似業種株価の低いところに業種変更すれば、株価の評価を下げることができる。
経済環境の激変の中でコア事業の変更を考えている企業は、いいチャンスになるはずである。
(9)企業再編(会社分割、ホールディングカンパニーなどの活用)により利益分散
会社分割、ホールディングカンパニーなどを利用して企業再編すれば、利益は分散可能である。
機動的に対処すれば、企業の発展に寄与するという一石二鳥となりうるものである。
(10)合法的利益繰り延べ
例えば、生命保険がありうる。保険料を損金で落として節税し、数年後に簿外に貯めた含み資産(解約返戻金)を現実化できる(この時、退職金で利益を消化することもできる)。
(11)金融商品(保険等)の活用、退職金や決算賞与により利益を繰り延べ、あるいは放出
  1. 保険の場合、保険料支払いにより利益を放出することができる。保険料は損金となるが、将来の解約返戻金があるので、利益の繰り延べでもある。退職金を払う時に、解約返戻金を受け取るということも可能である。
  2. 利益が大きいときには、退職金を払うというのがよく使われる手法である。この時、利益は放出されるが、次のような欠点があるので注意を要する。
    @ 会社から現金が流出することで、会社の財務力が低下する。
    A 分離課税だが、高額な所得税を払うことになる。
    B 退職金として支給した現金は相続財産に含まれてしまう。
(12)過小資本の回避
内部留保により払込資本に比べ剰余金が多いと株価が高くなる。
そのため、普段から、適正報酬、適正配当で内部留保をしないことにより、株価を下げることは重要である。
(13)身内へ増資
  1. 第三者割当増資をして、新株式をオーナーの妻や子供も所有させ、オーナーの株式を希釈化することができる。それにより、生前贈与と同様の効果を生じさせることとなる。
  2. ただし株式が分散するので、次世代にM&Aで売却を想定しているなど、将来の構想を練ったうえで実行すべきである。
 
4 納税資金、相続代償金確保のための対策

事業承継者は株式を優先して相続するが、それ以外の遺産を取得できないか、出来ても少額なことが多く、そうなると、他の相続人への代償金、あるいは、納税資金がなく、困ることが多い。
ここで、納税資金、代償金を確保することを検討しよう。

(1)自己株式買い取りの利用
  1. 前述の通り、会社が株式を合意で買い取る方法がある(会社法156条)。
    総会で特別決議を得る必要がある(当人は、議決権はない)。この時、他の株主には、同じ条件で買取請求権がある。
    ただし、会社の分配可能額が上限であり、含み資産が多いと、分配可能額よりも株価が高いこともある。この時は、一部資産の売却が必要なこともある。
    売却代金のうち、利益積立の部分に対応する金額は、原則として、配当として総合課税となる(最高50%)。しかし、次の特例がある。

  2. 「非上場の相続株式を自社に売却した場合の課税の特例(所得税)」
    相続税の申告期限から3年以内であれば、配当課税(最高50%)に代えて、譲渡益課税(住民税を含めて20%、取得費加算の特例を使える)が適用される。「非上場の相続株式を自社に売却した場合の課税の特例(所得税)」である。

  3. 相続税を取得費に加算する特例
    相続により取得した株式を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すると、相続税額のうち一定金額(株式を売った人にかかった相続税額のうち、譲渡した株式に対応する額)を譲渡資産の取得費に加算することができる。
    この特例を受けるためには、相続の開始があったことを知った日の翌日から起算して10ケ月以内に、相続税の申告と納付を行っている必要がある。

  4. 定款の定めにより相続人からの株式買い取り
    定款で定めれば、株式が相続された場合、相続人から会社が一方的に買い取ることができる(同法174条)。
    この時は、他の株主に、株式買取請求権はないので、使い勝手は高い。 詳細は前述した。
(2)持ち株会社設立
銀行が良く提案する方法である。会社の後継者である長男が会社を設立し、社長が所有する自社株を、同社が社長から買い取る。
自社株を売却することで社長の相続財産から外れる。自社株には相続税がかからないため、相続税対策になる。この時、銀行の融資を受けることとなる。
この処理では、社長の資産に株式の対価が入るので遺産処理は楽であるが、長男の会社は、借り入れの返済の負担が発生する。
得になるかどうかは、よくシミュレーションする必要がある。
(3)株式の物納可能
非上場株式も物納可能である。納税資金が無い時の緊急手段である。
ただし、優良企業では、金庫株として会社が買えるので、自社株も換金可能と判断され、物納が認められないこともあり得るので注意が必要。
(4)生命保険の利用
生命保険は、納税資金確保などに活用される。保険料分は、相続財産の減少となる。
基礎控除が、一人500万円あるので、節税効果もある。
利用される保険のタイプもさまざまである。次に典型例を示そう。
@ 契約者は会社、被保険者は社長または役員、受取人は会社のタイプ
退職金の財源、あるいは相続人からの自社株式買い取り資金に使える。
A 契約者及び被保険者は社長個人、受取人妻または子のタイプ
納税資金に使える。
*最近は、二回の相続を想定した保険商品など、バラエティのある商品が登場しているので、研究の余地があるものである。
 
5 経営承継円滑化法と遺留分除外、価格固定、事業承継の際の贈与・相続税の納税猶予制度

中小企業に関する経営承継の円滑化法(平成20年5月施行)は、経営承継が円滑に行われるよう、株価対策、納税資金対策が定められている。
これが活用できればよいのだが、使い勝手は必ずしも良くないようだ。次に、その制度を説明しよう。
中小企業経営承継円滑化法の概要

(1)経営承継法による生前の遺留分除外、株式価格固定
  1. 経営承継にあたって、遺言により、後継者に株式が全部相続されるように書いておけば、相続人の争いを防止し、円滑に承継できると思っている者が多い。しかし、他の兄弟の相続人には、法定相続分の2分の1の遺留分があり、この遺留分が侵害されていると、遺留分の減殺請求を受けてしまい、結局、他の相続人も株式を持つこととなり、円滑な承継ができないこととなる。
    また、遺留分の生前における放棄は、家庭判所の許可がいるので、事前放棄では、解決が困難である。
  2. そこで、相続時に経営を承継しない相続人から遺留分減殺請求を受ける危険があるケースのために、事前に遺留分について解決する手段が経営承継法に講じられている。
    ・対象企業は、中小企業者(中小企業・小規模企業者の定義 ・生前に、推定相続人全員(兄弟姉妹は遺留分がないので除く)の間で、下記の合意を結ぶ。片方だけでも良いし、双方組み合わせることも可能。
     @ 遺留分除外合意―対象の株式(人的会社は持ち分)について、遺留分放棄を事前に取り決めておく合意。
     A 価格固定合意―株式(人的会社は持ち分)の価格を決めておく合意。

       価格は、公認会計士、税理士、弁護士等が相当な価格であることを証明する。
    ・対象企業は3年以上継続的に事業を行っていること(合併、株式移転、株式交換があると、その以前は算入せず) ・贈与者は、現在または過去の代表者(つまり、現役を退いていても可能)。 ・後継者(受贈者)は、推定相続人(兄弟姉妹が相続人のときは除く) ・目的は株式または持分(人的会社) ・贈与者は、過半数の株式等を有していること。
    後継者は、議決権の過半数を取得していない者が、贈与により過半数となること。
    ・後継者が後に株式等を第三者に譲渡したとき、または、代表者として経営に従事しなくなったときの規定を、必ず定める(契約を解除するか、一額の金銭を支払うという形が普通である)。 ・同時に、書面で、他の推定相続人の遺留分も除外するとか、後継者の他の財産を遺留分から除外する、あるいは、相続人間の公平を図るその他の規定を入れることができる。
    実際は、この様な調整規定がないと、話がまとまらないことが多い。
    ・手続き:書面で合意し、1ヶ月以内に経済産業大臣確認を申立し、大臣確認をえる。1ヶ月以内に家庭裁判所に申立し、家裁の許可を得る。 事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例
  3. 株式の価値を事前に固定するので、その後、承継者の努力により業績が向上し、株価が上昇する時は効果が大きいが、逆に、価格が低下すると損害を受けることとなる。この制度を使う場合は、株価を上昇させられる自信がある時に限られよう。
    株価の固定は、株式価値に対する寄与分を明確化するという意味も有する。
(2)非上場自社株の贈与の納税猶予
  1. 制度のあらまし
    後継者である受贈者(「経営承継受贈者」という)が、贈与により、非上場会社の株式等を先代経営者である贈与者から全部又は一定数以上取得し、その会社を経営していく場合には、その経営承継受贈者が納付すべき贈与税のうち、その非上場株式等(一定の部分に限る)に対応する贈与税の納税が猶予される。
    この猶予された税額は、先代経営者や経営承継受贈者が死亡した場合などは納付が免除される。なお、免除されるときまでに特例の適用を受けた非上場株式等を譲渡するなど一定の場合には、猶予されている税額の全部又は一部を利子税と併せて納付する必要がある。

  2. 特例を受けるための要件
    <会社の主な要件>
    @ 中小企業者であること(中小企業・小規模企業者の定義 A 常時使用する従業員数が1人以上(一定の外国会社株式等を保有している場合には5人以上)であること B 資産保有型会社又は資産運用型会社で一定のものに該当しないこと C この会社の株式等及び特別関係会社(以下「特定特別関係会社」といいます)のうちこの会社と密接な関係がある一定の会社が非上場会社であること D この会社及び特定特別関係会社が風俗営業会社ではないこと E この会社の特定特別関係会社が中小企業者であること F 贈与の日の属する事業年度の直前の事業年度(贈与の日が事業年度の末日である場合には、その事業年度及びその直前の事業年度)の総収入金額が零ではないこと G 経営承継受贈者以外の者が会社法第108条第1項第8号に規定する種類の株式(拒否権付き株式)を有していないこと H 贈与の日前3年以内に受けた現物出資等資産の割合が総資産の70%未満であること
    <先代経営者である贈与者の主な要件>
    @ 贈与前のいずれかの日において会社の代表権(制限が加えられた代表権を除きます)を有していたこと があること A 贈与の時までに会社の役員を退任すること B 贈与直前において、先代経営者及び先代経営者と特別の関係がある者(先代経営者の親族など一定の者)で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、経営承継受贈者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
    <経営承継受贈者の主な要件>
    贈与の時において、次の要件を満たす必要がある。
    @ 先代経営者の親族であること(27年1月1日以降、この要件は廃止) A 20歳以上であること B 代表権を有していること C 受贈者及び受贈者と特別の関係がある者(受贈者の親族など一定の者)で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、これらの者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること D 贈与税の申告期限まで特例の適用を受ける非上場株式等の全てを保有していること E 役員等に就任して3年以上経過していること

  3. 特例の対象となる非上場株式等の数
    特例の対象となる非上場株式等の数は、次のA、B、Cの数を基に(1)又は(2)の区分の場合に応じた数が限度となる。
    「A」・・・先代経営者が贈与直前に保有する非上場株式等の数
    「B」・・・経営承継受贈者が贈与前から保有する非上場株式等の数
    「C」・・・贈与時の発行済株式等の総数
    @ A+B<C×2/3 の場合:A
    A A+B≧C×2/3 の場合:C×2/3−B

    なお、特例の適用を受けるためには、この限度数以上の数の非上場株式等の贈与を受ける必要がある((1)の場合はAの全部の贈与が必要)。
    (注) 経営承継受贈者が贈与前から発行済株式数の2/3以上を所有していた場合には特例の適用はない。

  4. 納税が猶予される贈与税の額
    贈与税の納税猶予額は、納税猶予の特例を受ける非上場株式等の数に対応する価額から基礎控除額(110万円)を控除した残額に贈与税の税率を適用して計算した額となる。
    (注)その非上場株式等を発行する会社又はその会社と特別の関係にある一定の会社が、一定の外国会社又は医療法人の株式等を有するときには納税が猶予される税額の計算の基となる非上場株式等の価額は、その外国会社又は医療法人の株式等を有していなかったものとして計算した金額となる。

  5. 特例を受けるための手続
    @ 贈与税の申告書をその申告期限までに提出するとともに、その申告書に特例の適用を受ける非上場株式等の明細や納税猶予分の贈与税額の計算に関する明細など一定の事項を記載した書類を添付する必要がある。 A 上記(1)の申告書に納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保を提供する必要がある。なお、特例の適用を受ける非上場株式等のすべてを担保として提供した場合には、納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保の提供があったものとみなされる。

  6. 納税猶予期間中の手続
    引き続きこの特例を受ける旨や特例の対象となる非上場株式等を発行している会社の経営に関する事項等を記載した「非上場株式等についての贈与税の納税猶予の継続届出書」を贈与税の申告期限後の5年間は毎年、5年経過後は3年ごとに所轄税務署へ提出する必要がある。
    なお、継続届出書の提出がない場合には、原則として、この特例の適用が打ち切られ、納税猶予税額と利子税を納付しなければならない。

  7. 猶予税額の納付が免除される場合
    次に掲げる場合などに該当したときには、猶予税額の全部又は一部の納付が免除される。
    @ 先代経営者である贈与者が死亡した場合
    この場合、死亡があった日から同日以後6か月を経過する日までに「免除届出書(死亡免除)」を贈与税の納税地を所轄する税務署長に提出する必要がある。
    また、この場合、先代経営者に係る相続税については、贈与税の納税猶予の特例を受けた一定の非上場株式等を経営承継受贈者が相続又は遺贈により取得したものとみなして、贈与時の価額を基礎として他の相続財産と合算して計算することになる。
    なお、その際、一定の要件を満たす場合には、その相続又は遺贈により取得したとみなされた非上場株式等(一定の部分に限る)について相続税の納税猶予の特例を受けることができる。
    A 先代経営者である贈与者の死亡前に経営承継受贈者が死亡した場合
    この場合、死亡があった日から同日以後6か月を経過する日までに「免除届出書(死亡免除)」を贈与税の納税地を所轄する税務署長に提出する必要がある。
    B 申告期限後5年を経過した後に、次に掲げるいずれかに該当した場合
    この場合、一定の免除事由に該当することとなった日から2か月を経過する日までに「免除申請書」を贈与税の納税地を所轄する税務署長に提出する必要がある。
    1. 経営承継受贈者が特例の適用を受けた非上場株式に係る会社の株式等の全部を譲渡又は贈与(以下「譲渡等」という)した場合(その経営承継受贈者の同族関係者(経営承継受贈者の親族など一定の者)以外の一定の者に対して行う場合や民事再生法又は会社更生法の規定による許可を受けた計画に基づき株式等を消却するために行う場合に限る)
    2. 特例の適用を受けた非上場株式等に係る会社について破産手続開始の決定又は特別清算開始の命令があった場合(平成27年1月1日以降は、民事再生法の認可等があった場合が加わる)
    3. 特例の適用を受けた非上場株式等に係る会社が合併により消滅した場合で一定の場合
    4. 特例の適用を受けた非上場株式等に係る会社が株式交換等により他の会社の株式交換完全子会社等となった場合で一定の場合

  8. 猶予税額を納付することとなる場合
    猶予税額の納付が免除される前に、次に掲げる場合などに該当することとなったときは、猶予税額の全部又は一部について利子税(原則として年3.6%。平成27年1月1日より、0.9%)と合わせて納付する必要がある。
    @ 申告期限後5年以内に、経営承継受贈者が代表権を有しないこととなった場合 A 申告期限後5年以内の一定の基準日において、常時使用する従業員の数が贈与時の数の8割を下回った場合(平成27年1月1日以降は、5年間平均で、8割を下回った場合となる) B 申告期限後5年以内に、経営承継受贈者及び経営承継受贈者と特別の関係がある者(経営承継受贈者の親族など一定の者)が保有する議決権数の合計が、総議決権数の50パーセント以下となった場合 C 申告期限後5年以内に、経営承継受贈者と特別の関係がある者のうちの1人が、経営承継受贈者を超える議決権数を有することとなった場合 D 経営承継受贈者が特例の適用を受けた非上場株式等の全部又は一部を譲渡等した場合 E 特例の対象となっている会社が解散をした場合又は解散をしたとみなされた場合 F 特例の対象となっている会社が資産保有型会社又は資産運用型会社で一定のものに該当することとなった場合 G 特例の対象となっている会社の事業年度における総収入金額が零となった場合

  9. 株式の価値を事前に固定するので、その後、承継者の努力により業績が向上し、株価が上昇する時は効果が大きいが、逆に、価格が低下すると損害を受けることとなる。この制度を使う場合は、株価を上昇させられる自信がある時に限られよう。
(3)経営承継法による相続税の納税猶予制度
2の「自社株の贈与の納税猶予」を使った後、この「相続税の納税猶予制度」を使うことができる。
勿論、この「相続税の納税猶予制度」を単独で使うことも可能である。
  1. 制度の概略
    後継者である相続人等(「経営承継相続人等」といいます)が、相続等により、非上場会社の株式等を先代経営者である被相続人から取得し、その会社を経営していく場合には、その経営承継相続人等が納付すべき相続税のうち、その非上場株式等(一定の部分に限る)に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税が猶予される(猶予される相続税額を「非上場株式等納税猶予税額」という)。
    この非上場株式等納税猶予税額は、経営承継相続人等が死亡した場合などはその全部又は一部が免除される。なお、免除されるときまでに特例の適用を受けた非上場株式等を譲渡するなど一定の場合には、猶予されている非上場株式等納税猶予税額の全部又は一部を利子税と併せて納付する必要がある。

  2. 特例を受けるための要件
    <会社の主な要件>
    1. 中小企業者であること(中小企業・小規模企業者の定義
    2. 常時使用する従業員が1人以上(一定の外国会社株式等を保有している場合には5人以上)であること
    3. 資産保有型会社又は資産運用型会社で一定のものに該当しないこと
    4. この会社の株式等及び特別関係会社(注)のうちこの会社と密接な関係がある一定の会社(以下「特定特別関係会社」といいます)の株式等が非上場株式等であること
    5. この会社及び特定特別関係会社が風俗営業会社ではないこと
    6. この会社の特定特別関係会社が中小企業者であること
    7. 相続の開始の日の属する事業年度の直前の事業年度(相続の開始の日が事業年度の末日である場合には、その事業年度及びその直前の事業年度)の総収入金額が零ではないこと
    8. 経営承継相続人等以外の者が会社法第108条第1項第8号に規定する種類の株式(拒否権付き株式)を有していないこと
    9. 相続の開始前3年以内に受けた現物出資等資産の割合が総資産の70%未満であること

    <「特別関係会社」とは>
    この会社と租税特別措置法施行令第40条の8の2第8項で定める特別の関係のある会社をいう。

    <先代経営者である被相続人の主な要件>
    1. 相続開始前のいずかの日において会社の代表権(制限が加えられた代表権を除く)を有していたこと があること
    2. 相続の開始直前において、被相続人及び被相続人と特別の関係がある者(被相続人の親族など一定の者)で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、被相続人が保有する議決権数が経営承継相続人等を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと

    <経営承継相続人等の主な要件>
    1. 被相続人の親族であること
    2. 相続開始の直前に役員であったこと (被相続人が60歳未満で死亡した場合等を除く)
    3. 相続開始の日の翌日から5か月を経過する日において会社の代表権(制限が加えられた代表権を除きます)を有していたこと
    4. 相続人及び相続人と特別の関係がある者(相続人の親族など一定の者)で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、これらの者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
    5. 相続人及び相続人と特別の関係がある者(相続人の親族など一定の者)で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、これらの者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
    6. 相続税の申告期限まで特例の適用を受ける非上場株式等の全てを保有していること

  3. 特例の対象となる非上場株式等の数
    特例の対象となる非上場株式等の数は、次のA、B、Cの数を基に(1)又は(2)の区分の場合に応じた数が限度となる。
    「A」・・・経営承継相続人等が相続等により取得した非上場株式等の数
    「B」・・・経営承継相続人等が相続開始前から保有する非上場株式等の数
    「C」・・・相続開始時の発行済株式等の総数
    @ A+B<C×2/3 の場合:A
    A A+B≧C×2/3 の場合:C×2/3−B

  4. 納税が猶予される相続税の額
    次の(1)から(2)を差し引いた税額が納税を猶予される。(1)及び(2)の税額を計算する場合の経営承継相続人等以外の者の取得した財産は、実際に経営承継相続人等以外の者が相続等により取得した財産による。
    @ 経営承継相続人等が取得した財産が特例の適用を受ける非上場株式等のみであると仮定した場合に算出される経営承継相続人等の相続税額 A 経営承継相続人等が取得した財産が特例の適用を受ける非上場株式等の20%のみであると仮定した場合に算出される経営承継相続人等の相続税額 (注)その非上場株式等を発行する会社及びその会社と特別の関係のある一定の会社が、一定の外国会社又は医療法人の株式等を有する場合には、納税が猶予される税額の計算の基となる非上場株式等の価額は、その外国会社又は医療法人の株式等を有していなかったものとして計算した金額となる。

  5. 特例を受けるための手続
    @ この特例を受ける旨を記載した相続税の申告書をその申告期限までに提出するとともに、その申告書に特例の適用要件を確認するための一定の書類を添付する必要がある。 A 上記(1)の申告書の提出期限までに非上場株式等納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。なお、特例の適用を受ける非上場株式等の全てを担保として提供した場合には、納税が猶予される相続税額及び利子税の額に見合う担保の提供があったものとみなされる。

  6. 納税猶予期間中の手続
    引き続きこの特例の適用を受ける旨や特例の対象となる非上場株式等に係る会社の経営等に関する事項を記載した「非上場株式等についての相続税の納税猶予の継続届出書」を相続税の申告期限後の5年間は毎年、5年経過後は3年ごとに所轄税務署に提出する必要がある。
    なお、継続届出書の提出がない場合には、原則として、この特例の適用が打ち切られ、納税猶予税額と利子税を納付しなければならない。

  7. 猶予税額の納付が免除される場合
    次に掲げる場合などに該当したときには、非上場株式等納税猶予税額の全部又は一部の納付が免除される。
    @ 経営承継相続人等が死亡した場合
    この場合、死亡があった日から同日以後6か月を経過する日までに「免除届出書(死亡免除)」を先代経営者の相続税の納税地を所轄する税務署長に提出する必要がある。
    A 申告期限後5年を経過した後に、特例の適用を受けた非上場株式等を一定の親族に贈与し、その親族が「非上場株式等についての贈与税の納税猶予」の適用を受ける場合 B 申告期限後5年を経過した後に、次に掲げるいずれかに該当した場合
    この場合、一定の免除事由に該当することとなった日から2か月を経過する日までに「免除申請書」を先代経営者の相続税の納税地を所轄する税務署長に提出する必要がある。
    1. 経営承継相続人等が特例の適用を受けた非上場株式に係る会社の株式等の全部を譲渡又は贈与(以下「譲渡等」といいます)した場合(その経営承継相続人等の同族関係者(経営承継相続人等の親族など一定の者)以外の一定の者に対して行う場合や民事再生法又は会社更生法の規定による許可を受けた計画に基づき株式等を消却するために行う場合に限る)
    2. 特例の適用を受けた非上場株式等に係る会社について破産手続開始の決定又は特別清算開始の命令があった場合
    3. 特例の適用を受けた非上場株式等に係る会社が合併により消滅した場合で一定の場合
    4. 特例の適用を受けた非上場株式等に係る会社が株式交換等により他の会社の株式交換完全子会社等となった場合で一定の場合

  8. 納税猶予税額の納付をすることとなる場合
    @ 非上場株式等納税猶予税額を納付しなければならない場合
    次のいずれかに該当することとなった場合には、その非上場株式等納税猶予税額の全部又は一部を納付しなければならない。
    1. 申告期限後5年以内に、経営承継相続人等が代表権を有しないこととなった場合
    2. 申告期限後5年以内の一定の基準日において、常時使用する従業員の数が相続開始時の数の8割を下回った場合
    3. 申告期限後5年以内に、経営承継相続人等及び経営承継相続人等と特別の関係がある者(経営承継相続人等の親族など一定の者)が保有する議決権数の合計が、総議決権数の50パーセント以下となった場合
    4. 申告期限後5年以内に、経営承継相続人等と特別の関係がある者のうちの1人が、経営承継相続人等を超える議決権数を有することとなった場合
    5. 経営承継相続人等が特例の適用を受けた非上場株式等の全部又は一部を譲渡等した場合
    6. 特例の対象となっている会社が解散をした場合又は解散をしたとみなされた場合
    7. 特例の対象となっている会社が資産保有型会社又は資産運用型会社で一定のものに該当することとなった場合
    8. 特例の対象となっている会社の事業年度における総収入金額が零となった場合
    A 納付すべき税額に係る利子税
    上記(1)により納付する相続税額については、原則として相続税の申告期限の翌日から納税猶予の期限までの期間(日数)に応じて年3.6%の割合で利子税がかかる。
(4)金融支援
  1. 事業承継に伴う多額の資金ニーズ(自社株式や事業用資産の買取資金、相続税納税資金等)や信用力低下による取引・資金調達等への支障が生じている場合に、経済産業大臣の認定を受けることで、
    (1)信用保険の別枠化による信用保証の枠の拡大、
    (2)株式会社日本政策金融公庫等による代表者個人に対する貸付けを利用することができる。
  2. 代表者個人に対する貸付については、親族に限らず、親族外の役員や従業員が事業を承継するために自社株式や事業用資産を買い取る場合にも利用できる。
 

M&A・事業再生の弁護士-金子・福山法律事務所