ホンダ事件での原告の抗弁は、ブラジル法人がマナウスフリーゾーンにある工場であり、そこで事業活動を行うことにより、輸入税とICMS(消費税)で、大きな税制上の恩典を受けており、 ブラジル法人に利益が蓄積されたのは、それによるのであるというものであった。
これが、寄与度利益分割法においては、決定的な効果をあげたのである。
エクアドル・バナナ事件では、原告は、
- 平成12年12月期及び平成13年12月期における分割対象利益は、その全てがエクアドル産バナナの浜値の大幅な下落等の日本市場の特殊要因により生じた原告の営業損失から構成され、原告及びP1の販管費との間に関連性はない。
- エクアドルは、バナナの輸出業者がバナナの生産者に対して支払うべき最低価格(最低買取価格)及びバナナの輸出業者が請求する輸出価格の下限(最低輸出価格)を設定しており、これにより、高い価格で、原告に輸出したので、バハマ法人に利益が蓄積されたにすぎない、と主張した。
しかし、これらは裁判所に取り上げられなかった。
まず、1については、裁判所は、「通常の独立企業間の取引であれば、一方の市場における需給等の状況に大きな変化が生じたことにより、一方の当事者のみに多額の営業損失が生じるような場合、取引価格を改定し、取引量を減少させ又は取引自体を終了させるなどすることなく、従前の条件のままで漫然と取引を継続することは通常は考え難いから、その影響は少なからず他方の当事者にも及ぶものと考えられる」と判断した。
裁判所は、日本市場で価格下落があっても、外国の輸出企業が必要な調整をするので、営業利益率は、一方の市場の変化で変化しないという前提で、判断しているものである。しかし、この前提が本当に正しいのだろうか。
一般には、外国における輸出量を比例させて落としたり、価格を、連動して低下できない。営業利益率を両者で同じに保つという、器用なことは不可能である。
2にあるとおり、エクアドル政府は最低買い取り価格、最低輸出価格を設定させるので、日本市場にあわせて下げることは、不可能である。となれば、価格の低下は、日本法人が吸収しなければならないので、営業利益率は、日本法人だけが、大きな影響を受けることになる。
裁判所の判断は、熟していないと言うべきである。
さらに、原告は、原告の販管費には、広告宣伝費、役員等の給与、賃借料、減価償却費等が計上されているのに対し、P1の販管費には、多額の弁護士費用や会計事務所等への支払が計上されており、個別の販管費が所得の発生に対する寄与度は当然に異なるから、それぞれの費用が分割対象利益の発生にどのように寄与しているか明らかにすべきである旨主張する。
この論理は、極めて合理的であるが、原告は、多額の弁護士費用や会計事務所等への支払が計上されているが、その内容が何だったか、主張立証ができなかったようである。残念なことである。
本件の「寄与度利益分割法」は、販管費をベースに考えているが、販管費以外の要素が、営業利益率に影響を及ぶすことは不可避であり、となれば、それを無視した処置は、違法になるであろう。
|