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戦うM&A!! 弁護士が指南する、中堅・中小企業のM&A虎の巻

【第7章】 M&Aを実行するにはどうしたらよいか

中堅、中小企業のM&Aは、まだ発展途上の分野である。監督官庁もなく業法もない。資格も不要である。それゆえ、M&Aに当たっては、誰に何を依頼するかは、慎重に考えるべきである。

1.誰に頼めばよいか

(1)現状は、M&A仲介業者に依頼するのが一般的

中堅、中小企業のM&Aでは、売り手、買い手は、それぞれM&Aの仲介業者に依頼して、交渉を全面的に任すことが普通である。このパターンにより、多くのM&Aが成立しているのが実際である。
この仲介業者は、アドバイザリーとも呼ばれて、M&A全般の相談に乗っているし、M&Aに必要なスキーム作りをしている。
買い手方としては、売り方の財務状況を調査しないと買ってよいかどうか判らないので、この時は、公認会計士が頼まれて、デューデリジェンスを実行することになる。買い手が自分で依頼することもあるが、多くは、M&A業者が用意することが普通である。
従って、中堅、中小企業がM&Aを実行するためには、このM&A業者に依頼するのが一般的であり、これが現状である。
M&Aの業者以外では、銀行がM&A部門を持っていて、仲介業務をしてくれることも多い。証券業者も、M&A部門を持っているところも多数ある。銀行や証券業者は、報酬が高いという傾向は否定できないが、現在のM&Aの仲介の重要な一端を担っている。
商工会議所や商工会がM&Aの相談窓口を設けているところは多いが、これらの機関が自ら仲介業を営むのでなく、M&A業者を紹介してくれるだけである。

(2)資格も監督官庁もない現実

M&Aは、複雑な契約交渉が必要であり、会社法、契約法、倒産法や税法に関する高度な専門的知識も必要である。弁護士でも、ことにこの分野に精通したものでないと、こなせないようなレベルの法的能力を必要としている。また、M&Aの契約交渉の過程では、高度な秘密保持が必要である。ことに、売り主のためには特に必要である。にもかかわらず、M&Aの仲介業者やアドバイザリーに、特別の資格は無いし、監督官庁もない。
不動産取引でも、宅地建物取引業者に資格が必要であり、営業するには営業保証金を預託しておく必要があり、これが、お客に対して、損害を与えた時の賠償の担保になる。各地には地建物取引業協会があり、これを通じて、宅建業者とその取引方法の質的向上の役割を果たしている。
M&Aは、この不動産取引よりもはるかに複雑な契約交渉を必要とするし、利害関係もはるかに複雑に絡み合うことになるが、特別の資格は無いし、監督官庁もないという不思議な状況にある。
いま最も活躍しているM&A仲介業者は資格も不要で、監督官庁もない現状では、営業優先に走りやすいという傾向はどうしても付きまとうものである。

(3)弁護士が積極参入すべき

M&Aの契約交渉には高度の専門知識を必要としているし、ことに、売り主のためのリーガルサポートが重要なウエイトを占めるので弁護士が活躍すべきであるが、現状は、中小企業のM&Aに積極的に関与する弁護士はほとんどいないというさびしい現状にある。
将来的には、M&A仲介業に関する業法が制定され、資格が必要であろうが、それまでは、弁護士が積極的にかかわるべきである。だが、大企業のために活躍している弁護士は多いが、中堅、中小企業のために積極的に活動している弁護士は少ない。
例えば、事業譲渡で債務を承継しないためにはどうしたらよいか、会社分割の時に詐害行為取消権や否認権行使で否認されないためにはどうするかなどの問題は、高度の法律知識が必要である。中小企業でも株式交換や株式譲渡を活用すべき場面は多いのだが、それを使いこなせるM&A業者は少ない。
デューデリジェンスには公認会計士の力が重要なため、買い方のために公認会計士は活躍しているし、公認会計士を主体とするM&A仲介業者も活発に活動している。しかし売り方側をサポートするには弁護士の必要性が高いはずであるが、残念ながら現状は極めて少ないのである。
M&Aのスキーム作り、そのスキームの実行のためには銀行との交渉が必須となるが、これらは弁護士の独壇場である。そのため、銀行交渉の不要な株式買い取りか事業譲渡だけを手段として、それで全てを解決しようとするM&A業者が多く、M&Aの業界の発展に妨げとなっている。
中小企業のM&Aでは、社長の個人保証をどうするかが大きな問題であるが、その処理を含めたスキーム作りには弁護士の専門知識が必要である。だが、この点を無視して処理しようとするM&A業者を見受けるのも現実である。
当事務所は、ことに中堅、中小企業のM&Aのために、相手探しを含めて積極的に受任し、優良なM&A業者とも連携しながらM&Aの実務をすすめているが、そのような努力をしている法律事務所は、現状では極めて僅少である。

(4)税理士、公認会計士の参入も必須

M&Aは、税理士や公認会計士が積極的にリードすべきである。公認会計士は、M&Aに積極的に関与できるものが増加しているが、中堅、中小企業の税務顧問をしている税理士が、もっとM&Aの社会的必要性を理解すべきである。それができれば、顧問先企業に対し、その経営状況に合わせ、タイムリーなM&Aのアドバイスが可能となり、企業は、もっと積極的にM&Aを活用できるはずである。
例えば、経営者が後継者問題に悩んでいること、経営に行き詰っていることを、最も直接的に察知できるのは、その企業の顧問税理士である。その企業が、M&Aにより、積極経営してよいかのアドバイスできるのも、顧問税理士である。その企業がM&Aをすべきと判断すれば、M&Aに精通した弁護士を紹介し、共同してサポートが出来れば、中小企業にとっては、理想的であろう。
とはいえ、M&Aに精通し、的確にアドバイスできる全理士は少ない。税理士がもっとM&Aに精通すれば、中小企業のM&Aを活用できるはずであり、今後の努力を期待したいものである。

(5)M&A仲介の核心は弁護士しかできない

「一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁もしくは和解その他法律事務を取り扱」うことを業として行うことは、弁護士以外の者が出来ないこととなっている(弁護士法72条)。
権利の調整、契約の解除、契約当事者の交替を伴う交渉は法律事件であり、買い手と売り手の法律的利害の調整、権利や義務の付加、減縮、放棄、解除、免除などは法律事件である。
実際のM&Aでは、M&A仲介業者が平然とこれらの法律事件を扱っているが、それは違法である。M&A仲介業者は、弁護士と共同しなければM&Aの実務はこなせないはずである。
ことに、M&Aに必要な契約書の作成は、高度の専門性が必要とされる。弁護士の関与は必須である。
とはいえ、M&Aに精通し、積極に介入できる弁護士が僅少であるというという現実があり、この様ない不法状態も、弁護士が文句をつけにくいというのが現実である。M&Aに精通した弁護士が増える必要があろう。

(6)利益相反、双方代理に注意

売り方と買い方がそれぞれ代理人を立てて交渉する場合、不動産取引だと、一人の仲介業者が売りと買いの両者を代理するというケースもある。しかし、M&Aはもっと複雑な契約交渉を必要とし、利害関係が対立して錯綜する部分が多岐にわたるので、一人の仲介業者では、利益相反、双方代理となってしまう。
売り手は少しでも高く売ろうとし、買い手は少しでも安く買おうとする。それぞれ、べっこのアドバイザーが必要なのである。したがって、一人のM&A仲介業者が双方を代理することは、不可能といってよいであろう。ところが、実際は、一人のM&A業者が両者を代理する例を見かけることが多い。しかし、これは、避けるべきなのである。
M&Aの分野には、少なくとも、今現在でも何らかの形でガイドラインが必要であろう。

2.M&A仲介の報酬と委託契約

(1)M&Aの業務委託契約の内容

M&Aの業者に相手探しと仲介を委託するときには、業務委託契約の内容として以下の事項を取り決めておくことが、最低限必要である。

  • 業務の独占権(専任契約)
    • ことに売主は、真剣に相手を探すために信頼できる一社に任せるべきことが多い。
    • 買い方は、必ずしも一社に絞る必要がないことが多い。
  • 直接交渉の禁止
    • 委託した以上、相手と直切交渉することは、信義則違反である。
  • 秘密保持
    • 相手当事者の秘密を守ることは当然である。
  • 着手金、成功報酬
  • 契約の有効期間

(2)M&A仲介の報酬はいくらか

M&A仲介業の手数料、報酬に額については、決まりも目安もない。業者が、自ら定めているにすぎない。
不動産売買の仲介の場合は、建設省告示があり、3%を上限としているが、M&Aには、そのようなものはないのである。
ただ一般的な傾向はある。多くは、着手金と報酬との2段構えであり、依頼するときに、着手金を払う。企業規模で違うが、中小企業では100万円から300万円ぐらいである。中堅企業では、一律に決められず、ケースバイケースというのが現状である。
着手金の趣旨は、以来意思を確認するという意味合いが強く、成約まで至らないと、仲介業者は持ち出しというケースが多いであろう。
成功報酬は成約した場合に払うことになるが、平均的な一例としては、成約金額に役員退職金支給額を含めた額(有利子負債を含むこともある)に対して、

成約金額 成功報酬
2億円以下の部分 8%
2億円〜5億円の部分 6%
5億円から10億円の部分 4%
10億円超えの部分 2%

このあたりが私の経験上の感覚である。
最低報酬金額を、例えば1000万円と定めているところもある。
ただ買い手側の仲介報酬には特殊な問題がある。仲介者が買い手のために頑張るということは代金額を圧縮することであるが、これは成約額を基準とする仲介報酬とは利益相反することになる。そこで、買い手からの依頼の場合には早あらかじめ固定額で決めておくとする例もある。
なお、支払者は、買い手、売り手それぞれの企業であるが、株式譲渡の方式によるM&Aの場合には、株式を売却した株主が支払うことになる。

3.売り手側の準備

(1)M&Aの命運は売り手側の準備次第

M&Aが成功するかどうかは、売り手側の準備にかかっていると言っても過言ではない。
中小企業の時、社長の思い入れが強いし、自分の老後のことが強く念頭にあることが多く、自己の企業を過大評価しているのが普通である。それを調整し、売るためのスキーム作りが重要である。ここで、現実離れした売買代金、売買条件を作り、せっかく魅力ある事業であっても、成約まで至れないという悲劇が多い。
企業の業績が悪い時には、債務を整理することを合わせて実行しなければならない。民事再生法も活用すべき時もある。
売主は専門家とよく相談し、自分の事業の客観的価値を正確に認識し、それをベースにしたスキーム作りをする必要がある。

<節税策は、M&Aの価格を下げる>
役員報酬を高くするなどの節税策は、会社の内部留保を少なくするので、M&Aの対価は安くなる。M&Aを視野に入れる状況となったときには、役員報酬が妥当がどうかを点検する必要があろう。

(2)個人保証をどうするか

会社のM&Aと、社長の個人保証は別である。会社債務が新会社に移転しても社長の個人保証は当然には移転しない。特定調停や民事再生を使って会社債務は免除を得ても、社長の個人保証には影響しない。
銀行の了解のもとで買い手側に個人保証を付け代えられれば解決であるが、それが出来ない場合、個人保証をどうするかは弁護士等の専門家に相談し、別途慎重に対処すべき問題である。
債務超過の場合は、個人破産を申し立て、免責を得るということも考えなければならない。その時は、社長の自宅を確保し、あるいは生活費の確保等するためには、会社のM&Aのスキーム作りと一緒に、その方法を構築しておく必要がある。

(3)秘密が漏れると失敗する

秘密保持は、ことに売り側にとって重要である。買い方は、情報が漏れてもあそこは勢いがいいねとプラスの要因になっても、マイナスに響くことは稀であるが、売り方の情報が漏れると、あそこは危ないのではないかという信用失墜につながり、倒産に至るということもありうる。
対外的な窓口は、一人に決めておくことも重要である。
売り方の内部での機密保護も重要である。内部での反対は、社長の認識よりずっと強いことが多い。トップやオーナーが代わることに対する役員や従業員の抵抗感は極めて強いと思うべきである。交渉途中で漏れてM&Aの失敗に繋がったケースは、枚挙にいとまがない。漏洩がMBOにつながったというケースもあるが、それは例外であり、M&Aを断念せざるを得ないということになることが圧倒的である。
しかし、いつかは役員や従業員にディスクロージャーしなければならないが、其の時期と方法は重要である。専門家に十分相談すべきことである。内部へのそれは、外部のそれより重要と考えてよい。通常は準備が十分整ったタイミングで、将来に希望を持てる形で発表すべきである。あらたなオーナーが占領軍とみられるようなイメージを持たせないことが重要である。
キーとなる従業員には、事前に開示し、協力を求めておいたほうがよいことも多い。

(4)根回しの重要性

主要取引先への根回しは重要であるが、早すぎると秘密が漏れ、信用不安になることもある。
多くの場合は、可能な限り後が良いが、遅すぎると、なぜ早めに知らせてくれなかったのだと言って、取引停止というケースもあり、社長の人柄も考えながら、時機を考えるべきである。
銀行への根回しのタイミングは、取引先とは異なる。秘密は漏れないが、自分がM&A部門を持っている場合には、それを使うことを強制されることもあるので注意すべきである。売り方のスキームが出来上がった後、銀行の協力が必要となれば、早めの打ち合わせが効果的である。

(5)社長の処遇

中小企業のオーナー社長の多くは、大なり小なりワンマン社長である。ことにワンマン性が強いと、社長が交代すると、取引先が維持できなくなり、事業が成り立たなくなる。そのため、M&A後の、社長の扱いが難しい。そのまま社長を続投してもらったり、会長や顧問でとどまってもらうということも選択肢である。
ただ、逆に、この社長に依存しすぎて、新たな人材が育たないという弊害も見られるので気をつける必要がある。

(6)従業員の承継は綿密に!

M&Aの場合、従業員が承継されるかどうかは、重要である。買い手にとっては、IT企業の優秀なエンジニアのように、承継が絶対という場合もあるが、多くの場合は、買い取りの機会に、人員を削減したいと思っていることが多い。
他方、M&Aは、従業員にとっては重要である。経営者が代われば、待遇や労働環境が変わるので、M&A自体に反対と感じることが多いので、強力な反対の声が上がり、M&A自体の失敗につながることも多い。従業員の承継計画は具体的な待遇面も含め、綿密に作成し、買い手と早めに交渉に入るべきである。

(7)ディスクローズする資料の用意

買手側に提示する資料は整理し、必要なものを用意しておく必要がある。秘密保持確約書を受け取った段階で交付する資料と、デューデリジェンスに備えた資料の用意と、両方を準備する必要がある。
前者については、次のものが必要である。

  • 【1】会社案内、会社謄本、株主名簿、定款、組織図、役員経歴、退職金規定、従業員の給与状況が分かる資料
  • 【2】過去3年分の財務諸表と付属書類、減価償却資産台帳、直近の月次試算表、主たる資産を評価できる資料、担保状況の一覧表
  • 【3】製品カタログ、販売、仕入れの概略が分かる資料、店舗状況の判る資料

その他、自己の会社の「売り」となるポイントをアピールできる資料が必要である。
いずれにしても、後から提供を求められて慌てないよう、事前の用意が重要である。
この準備が不十分であると、買い手に、悪いイメージを与えてしまい、逃げられるリスクが生じてしまうであろう。

4.買い手側の準備

(1)自前の公認会計士と弁護士を確保

買い手にとって、デューデリジェンス(買収監査)は重要である。買うべきかどうかの判断の核心となる情報を提供してくれるものである。
そのためには、M&Aの精通した弁護士や公認会計士が必要であるが、M&Aの精通した弁護士や公認会計士は少ない。ことに、弁護士は少ない。みつからなければ、M&A業者から紹介してもらうことになるが、自前で用意できればそれに越したことはない。M&A業者は、どうしても成約優先になるので、M&A業者の紹介者は、同じく成約優先になりがちだからである。

(2)専門チームの必要性

大企業が中小企業を買収するというM&Aも多く、また、このタイプのM&Aが増えるべきであるが、この場合、大企業の決定に時間がかかることに悩まされることは多い。
日本の大企業は、どうしても、会議をし、稟議にかけないと何事も決定できず、まえに進まないことが多い。根回しをしないと稟議も通らないという馬鹿げたことも起こる。これでは、責任分散による責任回避にはなっても、時間がかかり情報が漏洩してしまう。時間がかかることと秘密の漏えいは、M&Aにとっては、致命傷となってしまうのである。
M&A案件については、トップのごく少数、あるいは、関係部門のごく少数のチームを作り、検討する必要があるが、日本の企業体質では、それが大の苦手なようだ。
これと比べ、外国企業は決定が速い。仮に、最後に、取締役会で決定するとしても、それまでは、一人の責任者のもとで、短期に物事をすすめられる。韓国や中国の企業は、トップダウンの傾向は欧米より徹底しており、決定はさらに早い。せっかくまとめるべきクロスボーダーのM&A案件があっても、中国や韓国企業に横からさっと持ていかれるという事態が頻発することになる。
日本がM&Aで勝ち残るためには、企業体質そのものを根本的に変えないと達成できないであろう。
中堅企業の中にも、この欠点が目につくことがある。同じく、M&Aのための、専門チームをつくる努力が必要である。

(3)人材、技術、取引先の確保

事業譲渡では、雇用契約を承継するかどうかは、従業員と個々に決めることになる。会社分割では、協議と事前通知義務があり、希望者は原則として承継することとなる。合併や、株式交換、株式移転では、本人が拒絶しない限り自動的に承継することとなる。
しかし、会社がM&Aとなると、その機会に優秀な人材が辞めていくことが多い。買い手は、このことをよく知っておくべきである。優秀な人材が辞めると、技術やノウハウも一緒に消えていくことが多い。取引先も消えていくこともある。ITの分野などでは、優秀な技術者が消えていくと、企業としての価値が消滅してしまうのである。
買い手は、売り手と相談して優秀な人材の確保に努力すべきである。ことに待遇面の提示は効果的なことが多い。IT企業で、ストックオプションを提案して成功した例もある。

(4)買収後のマネージメント

買収後のマネージメントを具体的に策定して、それを前提に最終判断すべきである。これが、M&Aの成否を決することが多いのである。

5.成約までの流れ

最後に、成約までの流れを概観し、参考にしてもらおう。

(1)第一段階

ノンネームシートを受け取って相手の会社の概略を知ることとなる。これは、仲介者によるマッチングの第1歩である。これで、買い方は、売却条件とともに、相手会社の業務の内容と規模、財務などの概略等を知ることとなる。

(2)第二段階

ノンネームシートを買い方が吟味して検討の価値があるとなると、秘密保持契約書(CA Confidential Agreement) を交わして詳細の検討に入る。会社の来歴, 過去3期分の決算書とその補足資料、株主構成などの情報が検討されることになる。
仲介業者を通じて、質問と回答のやり取りをすることも多い。
この時のCAの内容は以下の条項が必須となる。

  • 秘密保持の対象
  • 秘密保持義務と目的外使用の禁止
  • 管理体制
  • 情報の利用終了後の措置

(3)第三段階

互いに、特に問題点が無ければ成約してもよいいとなれば、基本契約書Letter of Intentを取り交すこととなる。これが第三段階である。これは代表取締役間の契約なので、社長同士の顔合わせが前提である。
この時には買収代金も仮決めする。基本契約書の内容としては、予定しているスキームが株式譲渡の場合は、以下の条項が必須となる。

  • 譲渡対象株式数
  • 譲渡代金
  • 役員退職慰労金
  • 今後のスケジュール、買収監査のスケジュール、最終契約日のめど
  • 排他的交渉権
  • 秘密保持
  • 善管注意義務(要な資産の譲渡制限、増減資禁止、借り入れ、投融資の禁止、従業員の待遇の変更禁止、重要な取引先との取引条件変更禁止など)
  • 本契約を拘束されないこと。 ただし、不誠実な撤退に対するペナルティを課す。
  • 準備費用は各自負担
  • 有効期間

上場会社では、この時点で証券取引所に開示する。上場企業の場合、金商法上のインサイダー取引の関係からすると、基本合意書の締結は、重要事実にあたるので、適時開示の対象となる。したがって、直前に、取締役会の決議を得て、締結し、速やかに、開示する必要があるであろう。
非上場会社では、まだM&Aは秘密とするのが原則である。ただ、銀行とのとの根回しは開始するのが普通である。ただし、主要な取引先との根回し開始をいつからするかは、よく検討する必要がある。

(4)第四段階

この後、専門家による詳細なデューデリジェンス(買収審査)をする。簿外債務の有無、粉飾の有無なども含めて、徹底的な調査をする。この時は、会計士、税理士や弁護士のサポートが重要となる。検討すべき、要点は、以下のとおりである。

  • 財務デューデリジェンス(公認会計士、税理士が担当)
    • 会計処理は適切か
    • 貸借対照上の資産はあるか
      • 簿外債務はないか
      • 回収不能の売掛はないか
    • 純資産額はいくらか
  • ビジネスデューデリジェンス(買い方の経営者自ら担当)
    • 経営管理は適切か
    • 営業活動は適切か
    • 技術開発力はどのくらいか
      • 技術者は承継できるか
    • 設備の保全状態や稼働状況
      • 自社の経営者
  • 法務デューデリジェンス(弁護士が担当)
    • 株式の構成 名義株の存否、行方不明はないか
    • 不動産調査(法的問題点の有無)を含む)
      • アスベスト、土壌汚染、通行権、賃貸借関係
    • 労使関係
      • 契約関係、就業規則、退職規則、未払い残業代、労災、リストラの紛争はないか
    • 取引先との契約内容、紛争の有無、
    • 特許、商標、ブランド、その他知財の存在と内容
    • その他係争はないか、潜在的なものはないか
      • 税金等の滞納はないか。

デューデリジェンス(買収審査)のほか、この時点で、予想される税負担を明らかにしておく必要がある。

(5)第五段階

デューデリジェンス(買収審査)の結果、その他の資料、情報を総合して成約しても良いとなれば、本契約締結を締結することとなる。
本契約は、取締役会の了承を得ている必要がある。
本契約は、スキームにより、事業譲渡契約、合併契約、分割契約、株式交換契約、株式移転契約という形を取る。ここでの、契約書の作成は、高度の専門性を必要とする。
ここでの契約は、これで完結でなく、必要な実行手続きを経て、完結させる処理が残っている。発効は停止条件付であり、全ての処理を完結させる事をクロージングという。
ただ、株式譲渡のスキームであれば、この時点でクロージングも可能である。
株式譲渡ケースでの契約で、主な内容は次のとおりである。

  • 譲渡株数と代金
  • 支払い時期と方法
  • エスクロー
    • 金融機関へ預託、弁護士事務所でも可能
  • 売り手の表明保証
  • 競業避止義務
    • 地域、時期を決める(10年くらいが多い)
  • 保証債務の解消
    • 個人保証の解除が条件の時、白紙解約になることもある。
  • 秘密保持義務
  • 譲渡代金の秘密義務
  • ペナルティ
  • 旧経営者の扱い
    • 金銭的待遇だけでなく、部屋があるかどうかも重要
  • 表明保証 代表的な例は、以下のとおりである。
    • 株主名簿にない株主はいない
    • 第三者への保証債務はない
    • 土地建物に汚染はない
    • 財務諸表は財務状況を正確に表している
    • 未払いの労働債務はない
    • 第三者の特許権、商標権、著作権等の知財を侵害していない
    • 第三者から起こされている訴訟、請求されている損害賠償、債務不履行はない

Change of Control 条項がある時には、権利者の同意を取る必要がある。契約書を整理し、読み返す必要がある。
株式譲渡以外のスキームでは、本契約後、株主総会、法定の債権者保護手続き等の手続や、内外へデスクロ−ジャーを行うこととなる。
株主の反対で白紙撤回もありうるので、本契約ではその時のペナルティも記載しておくことになる。基本契約は、条約が議会で批准されないと発効しないのとよく似ているのである。
中小企業の場合、株主総会の同意が必要な場合でも、3分の2の株主の同意書を用意して、本契約でクロージングとすることもあり得る。 社長が一人株主であれば、総会自体を省ける。

<独占禁止法上の届け出>
独占禁止法上の規制も忘れてはならない。
合併では一つの国内売上が200億を下回らなく、他方の国内売上が50億を下回らない時は、事前に届出が必要である。
事業譲渡、会社分割、株式移転も、同様である。
届け出受理から、30日を経過しないと、合併等が出来ないので、スケジュール作りに注意する必要がある。

(6)第六段階

本契約の実行をする。
株主総会、登記、公取委への届け出、役所への届け出をする。
従業員への開示、労働条件の説明をする。キーとなる従業員には、これより早く、開示しておいたほうがよい場合もあるので、その時期と方法はよく検討しておくべきである。
新経営陣と従業員とのコミュニケーションの工夫をする。
経営管理体制、経理、財務体制、人事労務面の変更をする。
ただし、これらの準備は事前に周到にしておく必要がある。

<合併等の許認可>
合併や会社分割では、法人格は継続しているので、改めて許認可を取る必要が無いと勘違いしている向きもあるが、実際は、届け出を義務づけている業種も多く、さらに、改めて許認可を取らなければない業種も多い。
改めて許認可が必要なものには、旅館業、倉庫業、風俗営業、運送業、銀行業、信託業、保険業などがある。これらは、登記前に、承認申請する必要があることに注意する必要がある。登記してしまうと、従来の許認可が消滅し、新たに申請し直さなければならないからである。
会社分割が認められない業種もある。例えば、建設業、性風俗特殊関連特殊営業者、旅行業、廃棄物の処理業である。

6.合併、分割、株式交換、株式取得のスケジュール

合併、会社分割、株式交換、株式取得のスケジュールは、会社法で、規制されている。次に、合併におけるスケジュールの一例を示そう。会社分割、株式交換、株式取得は、これに準じて行えばよい。

  1.存続会社のスケジュール例 2.消滅会社のスケジュール例
9月10日 代表取締役間で、合併契約書締結
9月10日 第1回取締役会で、合併契約書承認
基準日を9月30日と決定(閉鎖会社では、基準日不要)
合併承認株主総会を、10月20日と決定
9月15日 基準日の官報広告
9月30日 基準日−基準株主名簿作成開始
10月5日 株主総会招集通知発送、合併契約書等の備え置き
10月20日 合併承認株主総会
債権者保護手続きの官報公告と個別催告手配
(電子広告による個別催告省略については、後述)
株主広告手配
合併承認株主総会
債権者保護手続きの官報公告と個別催告手配
株主広告、新株予約権広告手配
株券提供広告・通知手配
11月20日 反対株主株式買い取り請求期限 反対株主株式買い取り請求期限
新株予約権者買い取り請求権
11月25日 債権者保護手続き完了 債権者保護手続き完了
株券提供期間満了
12月10日 合併効力発生日、合併登記申請

<電子広告の活用>
債権者保護手続きとしては、会社法で、官報による広告と、個別の債権者に通告することが求められている。
会社の定款で、広告が官報以外の方法、例えば、電子広告、または、日刊紙と定められている場合、それでも、官報公告は必要であるが、その広告を、官報と並行して行うことにより、個別催告が省略できる。取引先が多い時には、効果的である。
M&Aが想定される場合は、あらかじめ、定款で、広告方法を変更しておくことが望ましいことも多い。
注意すべきは、会社分割では、不法行為により生じた債権者に対しては、各別の催告を省略できないことである。

<閉鎖会社で、其準日広告の省略>
閉鎖会社、つまり、全株式譲渡制限付きの会社では、基準日自体が不要である。ぜなら、会社の取締役会で承諾していないのに、勝手に、株主が変更することが無いからである。
従って、基準日広告は不要である。会社法124条でも、基準日は定めることが出来るとあり、株主総会を招集するにあたり、必要な会社だけ定めればよいとなっている。

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金子博人法律事務所(M&A・企業再生・民事再生)
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