海外移転支援
第3部 海外進出は、M&Aが効果的

<はじめに>
 中堅・中小企業の海外進出の意欲は高まっている。その進出の仕方は、工場を新設したり、合弁企業を設立するだけでない。既存の現地企業を買収したり、資本参加したり、業務提携するなど、手法は多様化している。
後者のM&A手法であれば、設立リスクを回避でき、かつ、既存の販路を確保し、活用できる。
国内マーケットは、限界に来ているし、縮小傾向にある。円安にめげずに、海外展開に挑戦すべきである。

1.M&Aのターゲットの明確化
  1. 海外進出というと、工場や販売拠点を新設することが多い。
    だが、M&Aで、現地法人を買収するという手法もあることを考えるべきだ!

  2. ターゲットの明確化が重要
    何のために、進出するのか?
    進出の仕方はそれでよいか?
    ターゲットに販路があるか? 顧客があるか?
    需要はどのくらいか?

  3. アジア、ASEANだけではない。マーケットの大きさでは、欧米が別格!
    EU市場は、購買力では、中国市場より大きい!
    EUや、世界最大のアメリカ市場も忘れないように!
    アフリカも、10カ国は石油等の資源を原動力に、成長力は高い。
    中南米も、我々を待っている。

  4. 拠点を設けたら、周辺諸国、世界に販路を拡大することが期待されている!
    販路を世界に広げるには、販路を持つ企業を買収するか提携するのが近道だ!


    • 繊維、衣料品は、カンボジアでも、すでに採算があわない。ラオス、ミャンマー、バングラデシュでないと採算が合わない時代となっている。
    • ベトナムなどアジアの後発組でも、ハイテク、科学研究、技術開発、インフラ開発、ソフトウエア製品で、日本が進出することが期待されているのだ。
    • いずれにしても、ターゲットは、慎重に検討すべきである。
  5. タイ、マレーシア、中国、台湾、韓国などでは、日本の企業間で、既存の海外子会社を売却するM&Aが急増している!
    進出の第2ステージに入っているといえよう。

  6. まず、ターゲット国の徹底した情報収受から始めよ!

    JETROは相当程度の情報が集積している。
    中小企業基盤整備機構
    公的機関からは、一般的な市場情報、企業リスト等は得ることができるが、個別企業の信用情報は無理である。
    展示会で、相手国業界の情報を収受するのは効果的(JETROで、展示会情報を得ることができる)。
    現地の日本人商工会議所等も効果的である。 進出企業から情報収集。
    駐在事務所を、日系企業の集中しているオフィスビルに置けば、現実的な情報が入る―現地のマーケティング会社、リクルート会社の情報で、どこが役に立つかなどの経験的情報を得やすい。

    <当事務所も、情報収集には、常に努力している>

  7. 軍事転用できる製品・輸出禁止品でないことに注意!‐安全保障貿易管理の観点から!

  8. 外国法人が、土地を持てない国は多い!―例えば、シンガポールは緩いが、ベトナムは厳しい

  9. ASEANでは、インフラ整備で、日本企業の進出が求められている。必ずしも、大手だけの独断場ではない。

<当事務所は、今、ベトナムから、ハノイ近郊の200haの都市開発のオファーが、地元銀行から来ている。建設業だけでなく、都市基盤整備に関する様々な分野の挑戦が可能である>

2.M&Aのターゲット探索と信用調査
  1. 売り情報の獲得

    • 大型M&Aは、銀行や大手証会社が、対処してくれるが、中堅以下では、案件が小さすぎて、銀行や大手証会社は、相手にしてくれない。
    • ASEAN、東アジアは、相手国の銀行経由が手堅い。銀行は、傘下に、投資会社を持っている。
      ※ただし、日本で、この様な情報にアクセスできる者は、多くは無い。
      <当事務所は、アクセスが効果的にできるよう、努力している。>
    • ASEANでは、銀行から独立した専門の仲介業者も育ちつつある。しかし、その力量と信用力には、注意すべきである。
  2. 売却希望者は、買い手の状況に強い関心を懐いている!買い手も、自分をアピールする資料が必要である。

    • 自己アピールが必要−英語版のホームページは必須
    • 自己の照会資料(もちろん英語)は、必須!
  3. ターゲット企業の信用情報の方法

    • 相手国の銀行経由の場合、その銀行から開示してもらうこと
    • 日本の取引銀行経由で照会すると、ある程度わかることもある。
      (独)日本貿易保険では、海外商社格付制度をしている(商社に限るが、3社まで無料 あとは一件1万円)
    • ダン・レポ(東京商工リサーチが窓口)

    <当事務所は、独自のルート開発に努力している>

 

3.現地子会社の売却
  1. 日本企業が早くから工場進出したタイやマレーシアでは、現地企業を売却する時代となっている。

    例えば、日本本社に後継者がいないため、現地法人を売却する需要が急増している。
    「集中と選択」で、現地子会社の売却を考えている企業も多い。

  2. 現地の子会社を売却したい時は、該当国の会社法等の法令が判っているとともに、現地の専門家を活用できる日本国内の法律事務所のサポートが必要!

    <当事務所は、この点にも力を入れている>

 

4.海外の企業をM&Aによる買い取りスキーム
  1. 株式買い取りが原則

    100%なら問題ないが、一部の場合、相手国の会社法のチェックが必要。特別決議を取れないと、会社支配ができない。
    例:ベトナムは、65%ないと株主総会の決議を取れない。特別決儀には、75%が必要。
    中国は、株主総会が無く、重要事項は、董事会の全員一致が必要 。
    タイなどは、特別決議は75%必要 。
    東アジア、ASEANで、特別決議が日本と同じ3分の2の国は、韓国、台湾、カンボジア、ラオス、フィリピン。
    他は、75%必要 。

  2. 支配株主になれない時は、議決権無き種類株を相手パートナーに与えるとか、議決権協定などの手段が必要。

  3. 現地法人を買収する時は、その前提として、設立する三角合併、逆三角合併が効果的なことが多い。

  4. 株式買い取りでなければ、事業譲渡となる。
    資産や契約関係を譲渡する必要があるので、手続きは、複雑となる欠点がある。 ただし、隠れ債務などの危険がある時は、株式買い取りは危険で、事業譲渡を考えるべきである。

  5. 進出の第一歩として、マーケット力があるところと合弁会社を設立することも、効果的な選択である。
    これで、マーケット状況を把握し、あるいは、パートナーの製品販売店として実力を見て、本格進出という手段もある。

  6. M&Aを展開する時は、自社内で担当者を指名して、専念させるべきである。
    ターゲット調査は、常駐者が必要。 現実の運用状況、販路の密度、技術力、従業員の質など、初期調査事項は多い。

  7. ASEANなどの場合、簿外債務は、完全に把握することは不可能と言われる。
    心配なら、事業譲渡で行くべきである(事業譲渡の場合、債務は承継しない。ただし、手続きは複雑となる) 。

  8. 買収に当たっては、事業計画は、買収後5年間分は必要である。

    • 日本では、新規事業は3年で黒字化といわれるが、発展途上国では、遅くとも2年目には、黒字化すべきである(成長期であるため、早期回収が期待できる)。
    • M&Aの決定は、迅速にすべきである。重要なポイントでは、即決できる社長や会長が臨席すべきである。
      「日本企業は、決断が遅い」という悪評は、世界中のビジネスマンの常識であることを知っておくべきである!
      M&Aの決定で、稟議が必要な企業は、M&Aをやる資格はない。これでは、情報も、漏洩する。親会社の了解が必要などというのは、論外である(事前にとっておくべきである) 。
  9. M&A成立後は、日本から、代表、経理責任者、営業又は、技術の責任者を派遣する必要がある。
    軌道に乗れば、これらのものを、現地人に開放することを考えるべきである。
    合弁や、株式の一部保有の時は、できるだけ、支配力を確保できることを、考えるべきである(議決権無き株式を相手に付与。あるいは、議決権契約を結ぶなどのテクニックが必要)。


5.買い取り資金、運転資金の確保
  1. 買い取り資金は、話が予想外に早く展開しても対応できるよう、資金手当てをしておくべきである。
    買い取り後、当初の運転資金が必要なことを忘れないように!
    貸付と出資のどちらが良いかの課税問題は、事前の検討が重要!
    貸し付けは、利子が経費となるし、返済金に課税されないなどのメリットがあるが、資本の3倍を超えるような状況となると、税務上否認され出資扱いになるなどの制約に注意。詳しくは、後述。

  2. アベノミクスのもと、各種補助金があるので、利用を検討すべきである。
    例えば、中小企業庁は、自治体のホームページには、各種補助金が掲載されている。
    但し、補助金を得るのは、しっかりした事業計画が必要である。

  3. 借り入れには、
    国際協力銀行JBIC、商工中金、日本政策金融公庫などに、
    有利な融資制度が用意されている。
    一般の銀行も、最近は、海外展開に好意的である。

 

6.税務の確保と投下資本の回収
  1. 外国での企業のM&Aでは、相手国の税理士事務所と連携することが必須である。
    相手国の弁護士事務所に相談すべき場合も少なくない。
    ※頼りになる、信用力の高い専門家を確保するのは、必ずしも容易ではない。

  2. PE(permanent establishment 恒久的施設)がなければ、課税なし。
    駐在員事務所など準備段階は課税問題発生しない。しかし、現地事務所が、営業活動をすると、課税問題が発生しる。

  3. 現地の課税は、現地の日系税理士事務所に、依頼するのが原則。
    税制の違いは理解しておくこと。ASEANでは、消費税(間接税)が導入されている。例外的になかったマレーシアも、15年4月、導入された。
    但し、例えばタイなどは、消費税がinvoice 方式なので、取引ごとに記帳し、毎月、申告する必要があるなど、税制は、かなり違うことを知っておくべきである。

  4. 移転価格課税に注意

    ※例えば、日本は法人税が高いので、現地子会社が日本の親会社に高く販売して、日本法人に利益が出ないようにしても、他の同業者の価格を基準に、法人税を課される。これが、移転価格課税である。今は、各国の税務当局が、情報を密に交換し合っているので、この手の課税逃れは、不可能と思うべきである。

    • 心配な取引があるときは、国税庁と、「事前相談」をして、後から、移転価格課税を課されるのを避ける方法も可能となっている。
    • 移転価格課税を課されても、ホンダ(ブラジル子会社との取引で課されたが、平成26年8月、75億円、東京地裁の判決で処分取り消し)や日本MBMのケース(平成26年5月、1200億円の取り消し)のように、裁判で取り戻すことが可能。
  5. 投下資本の回収は、配当なら問題は少ない。日本で、配当課税が課されない。

     ただ、現地で、源泉控除されることも多く、この場合は、後に調整する必要が出てくる。
     貸付の返済だと、現地法人で利息が経費となり、かつ、配当課税がかからないので、配当より有利となることが普通である。ただし、出資でなく、貸付を多くすると、別個の課税問題が生じる。出資より貸付が3倍を超えると、返済金が配当とみなされる。ただし、貸し付けが,銀行融資と同様の貸し付け条件であれば、課税されないはず。いずれにしても、国際税務に詳しい者のサポートが必要となる。

 

7.商標、意匠権、特許の登録
  1. 商標、意匠は、進出前に登録しておく。これを怠ると、先行して登録され、現地で、自分のブランドで販売できないという事態に陥ることも少なくない。

    • 特許は、譲渡か、実施権(専用/普通)の設定か、慎重に選択すべきである。
      専用実施権の場合、地域を厳密に限るべきである。
    • 最低売却数量を明記して、売れない場合は、特許の実施権を回収して、他と取引すべきである。
    • 技術ライセンス契約は、許可、届け出などの手続きがある国が多い。認められる技術に制限あることも多い。
    • 模倣リスクは常に注意すべきである。ことに、中国は要注意である。 最新技術は出さず、ブックボックス化しておくことが重要である。

 

8.労働問題に注意点
  1. ASEAN等では、労働者保護は、日本より厳しいことをしておくべきである。労働者の意識も高く、労働組合は活発である。

  2. 就労規則、各種社内規則、マニュアル等は、ASEANでも、日本より文書化が求められることが多い。進出先では、それに合わせる必要がある。

 

9.M&Aの手続き
    • 原則的には、日本国内と同様である。
    • 候補が浮かんでくれば、秘密保持条項を含むLOIを締結し、情報を交換し合い、細部の検討をする。
  1. 話が決まれば、基本契約を締結する。基本契約締結後は、正当な事由がないと、白紙に戻せにないが、互いに、独占的な交渉権を得ることとなる。

    その後、デューデリジェンスを経て本契約を締結し、クロージングを迎えることとなる。

  2. 各種契約書は、簡明かつ綿密にすべきである。
    互いの文化の違い、商慣行の違いを考慮すべきである。
    専門家のサポートが必須である。

  3. 現地での許認可は、現地の専門家に依頼し、ミスが無いようにすべきである。
    許可、認可に時間がかかることが多いので、スケジュール設定は、慎重にすべきである。

  4. 専門のアドバイザーは必須であり、社内の担当者の養成も重要である。

10.撤退は知恵が必要
  1. 撤退は、M&Aで、売却することがベストである。
    パートナ―に買い取とってもらうことも効果的な選択肢である。
    予め、買い取り義務を課しておくことも検討してよい。

  2. 事業所の閉鎖で撤退する時は、従業員の解雇が困難なことが多い。日本よりも、労働争議は、起こりやすく、過激化することを知っておくべきである。

  3. 事務所閉鎖の徹底は、清算撤退は、負債を完済するまで、許可が出ないことが多い(中国など、典型)。
    また、中国などは、5年間さかのぼって、外国企業の優遇税制を取り消され、さかのぼって課税され、利息税も課されることがある。
    撤退には、想定外の費用がかかることを、忘れるべきではない。
    そのため、事務所閉鎖型の撤退は避け、M&Aで売却するのがベストである。

 

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M&A・事業再生の弁護士-金子・福山法律事務所