92回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」―最終回

 

今回はシリーズの最終回として、新会社法の中で中小企業が知っておいた方がよいことを、拾い上げておこう。

 

<株主総会>

 非公開会社は、株主総会開催の通知を総会1週間前に出せばよいことになった(従来は、2週間前)。 ただ、定款で2週間前と記載してある場合は、これを変更しておく必要がある。また、従前の有限会社のように取締役会を設置しない会社は、定款でこの1週間をさらに短縮できる。

 総会の場所は、従来は本社所在地の周辺に限定されていたが、新会社法では、かような制限はなくなった。そこで、大阪に本社がある会社でも、東京に株主が多ければ、東京で開催することもOKとなった。株主が少数のところでは、慰労旅行をかねて温泉で開催することも不可能でなくなった。

 

<種類株主>

内容の異なる種類株式の発行が容易になったのが新会社法の特徴の一つである。種類株式は、大きくまとめて9種類ある。

上場していない中小企業は敵対的買収を仕掛けられる虞が無いので、「黄金株」等を仕掛ける必要はないが、中小企業でも利用可能な種類株式は結構ある。

中小企業では、株式を譲渡するには取締役会の承諾が必要(株式の譲渡制限)とする定款規定があるのが普通だが、新会社法では、一部株式を譲渡自由にすることが可能となった。しかし、一部でも譲渡自由にすると、「公開会社」として扱われることになるので注意を要する。公開会社となると、会計処理も厳重になり、役員報酬の総額を開示しなければならないなど会社の義務が増えるからである。

議決権なき株式は利用価値がある。例えば、オーナーが自分の株式の相続対策をする時、後継者争いが起こらないよう、会社の後継者以外は議決権無き株式を取得させるような場合である。もっとも、議決権を奪う変わりに、配当で有利に扱うような株式にしておくのが普通である。

社員に株式を持たせるときには、社員が辞めたときなどに会社が株式を買いとれるよう、取得条項付き種類株式にしておくとよい。

取締役や監査役の選任権の有る株式と無い株式に分けることも可能である。人事権を一部の株主に集中できるわけである。この場合も、人事権を奪う代わりに、配当で優先させるような対応をするのが普通である。

 

<取締役の解任>

取締役を任期終了前に解任しなければならないということもある。この場合、株主総会の普通決議(過半数出席し、過半数の賛成)で可能となった。従来は、特別決議(過半数出席し、3分の2の賛成)が必要だったので、新会社法では、解任が容易になったわけである。

もっとも、定款で、解任の要件を厳しくすることは可能である。いずれにするかは、会社の将来を見据えて、対処を考えるべきであろう。

 

<その他>

 設立に当たっては出資金は1円でもOKとなった。つまり、スタート時に、資本金のことは考えなくても良くなったのである。また、現物出資も簡便になり、さらに、組織変更や再編など,M&Aも容易になった。中小企業も、今後は、戦略的な、事業再編、事業再生が可能となったわけである。
                                        

93回 添乗員とセクハラ

 

<始めに>

日本添乗サービス協会(TCSA)か発表している「派遣添乗員の労働実態と職業意識」

という報告書は内容が豊かだ。目を通すと、派遣添乗員の様々な問題点が浮かび上がってくる。

さて、この報告書の中でセクスハラスメントについて詳しい調査があるので、今回はセクハラに関して検討しよう。

 

<添乗員とセクハラ>

報告書では、海外の主催旅行においては、お客からのセクハラが43,9%であるのに対して、バスドライバーからのものが、55,4%を占めるという。バスドライバーからのセクハラが、お客からのセクハラよりも多いのだ。三位は、現地ガイドからで、33,1%を占める。

海外の手配旅行では、お客が62,8%で、オーガナイザーからが、37,2%、バスドライバーからが、17,4%、現地ガイドが12,8%となっている。手配旅行の多くは仲間内の旅行である。このようなとき、ことに、「旅の恥はかきすて」という日本人の見苦しさが出てしまい、お客や、オーガナイザイーの割合が増えるのだろう。

いずれにしても、バスドライバーというのがこのように高率であることは驚いた。現地ガイドも高率だ。

この点は、旅行業者はよく認識する必要がある。バス会社も、現地旅行業者も、旅行業者にとっては取引先である。添乗員がセクハラを受けた場合、それに対処するのは、雇用者側の責任である。派遣添乗員に対しても、管理上の責任は、自己の社員と同様である。取引先であるにすぎないのだから、バス会社や現地旅行者に対し、雇用主としての会社として、厳重に抗議するとともに、善処を求める必要がある。契約解除も視野に入れるべきである。が、日本の場合、このような時の会社の対応は鈍い。しかし、最近起きたアメリカトヨタのセクハラ事件を思い出して欲しい。適切な対応を怠ると、会社も損害賠償を負うことになる。日本は、アメリカのように懲罰的賠償責任の制度はないが、賠償責任があることは同じである。

 この際、男女雇用機会均等法の存在も忘れないで欲しい。その21条では、職場におけるセクハラ防止のための事業主の配慮義務が規定されている。日本でも、事業者はセクハラに対し、多くの責任を負う時代になっているのである。

派遣会社も、派遣添乗員のために必要な対処をする必要がある。派遣会社にとっては、自己が雇用しているので、直接の雇用者として、セクハラに対し適切に対処する義務がある。派遣先の旅行業者に善処を求めることをすべきで、それが不十分で有れば、直接現地のバス会社や、旅行代理店に抗議と善処を求めるべき責任がある。

 

<お客のセクハラ>

お客にセクハラを受け、添乗員が現場で抗議しても、「それなら、あんたの会社にこれから仕事を頼まない」とすごまれ、強く言えず、泣き寝入りをしているというケースも多いと聞く。これも困った状況である。日本の場合、セクハラに対して認識が甘く、添乗員を犠牲にしてでも、取引の継続を優先する企業も多い。しかし、添乗員がセクハラを受けたとき、相手が例え顧客であっても、必要な抗議をして善処を求めると言うことは必要である。

日本の企業文化の中では、取引の継続よりも従業員をセクハラから守るという正義感は希薄だ。しかし、この場合も、旅行業者や、派遣会社が必要な対処をしないと、アメリカであれば、訴訟で確実に会社的責任を追求される。日本では、この手の訴訟は稀であったが、今後は確実に増加すると考えるべきであろう。

いずれにしても、日本企業は、セクハラについては、社内システムを含め、それに対するコンセプトを根本から見直す必要があろう。

 

 

<添乗員はセクハラを報告できるか>

実際上の問題点としては、現場のセクハラが会社として確実に認識できているかである。男女雇用機会均等法に則れば、会社内に、公正な相談窓口を用意して、セクハラ情報を確実に受領し、必要な対処をする体制が必要である。

とはいえ、日本の場合、現場のネガティブ情報が経営サイドまであがらないことが多い。添乗員を犠牲にしても、顧客を優先するという風土が厳然と存在する。その結果、セクハラの届けを上げても、適切な処理をしてくれることが期待できず、期待できないどころか、営業の邪魔をしたとして、かえって不利に扱われる虞も強く、添乗員レベルで泣き寝入りというケースが多い。

 前述の通り、セクハラは、バスのドライバーや現地ガイドが加害者という例が実に多い。

添乗員は、強く拒めば彼らが非協力になり、そのツアー全体が台無しになることを恐れて、毅然とした態度がとれないことが多いとも聞く。しかし、これは問題である。ドライバーや現地ガイドが平然とセクハラをするのは、後で、日本の旅行業者が厳格な対処をするわけがないとナメテいるのだ。ナメられる企業だけにはなって欲しくないものだ。
                                              

94回 インターネット取引と旅行業

 

<始めに>

最近は、インターネットによる取引が増えたが、旅行業界も例外ではない。しかし、トラブルも多い。私が属する国際旅行法学会(IFTTA)でも、9月に開かれるマルタ島でのコンファランスのメインテーマは、E−commerceである。おそらく、様々な、トラブル事例が紹介され、その対策が検討されるであろう。

今回は、インターネットに関する法的問題点について、検討することにしよう。

 

<海外のサイトの現状>

海外旅行に慣れた者の中では、海外のサイトを使って、格安の航空券や、パックツアーを購入する者も多い。実際、香港、シンガポール、オーストラリア等には、日本からアクセスできる便利なサイトが沢山ある。英語サイトだけでなく、日本人向けに、日本語サイトまで有る。最近は、オーストラリアのサイトなのに、日本語で日本のホテルを紹介し、日本語で直接予約できるというサイトもある。

 

<海外のサイトの問題点>

海外のサイトの場合、多くは、日本国内に営業所がない。ここに最大の問題点がある。日本に営業所がないと、日本で旅行業の登録ができないし、する必要がない。そのため、日本の旅行業法上の規制は無く、旅行約款により旅行者が保護されない。保険がなく特別補償も適用されないと言うことになる。

ホテルや航空券の手配だけなら、契約違反やキャンスル料等の問題が生じるだけであるが、格安パック旅行(集合と解散地は、外国となる)では、それだけでなく、バス事故等が発生したとき、あるいは、テロに巻き込まれたときの責任追求が極めて困難となる。

なぜならば、そもそも契約当事者となる旅行業者がWEBSITE上不明であることが多い。いざというときの窓口さえ不明というのが実状である。

さらに、日本国内に営業所がないため、日本に裁判管轄がなく、責任追及の訴訟を起こすためには、外国で、外国の法律が適用されると言うことになる。結局、事実上訴訟は断念するということも多い。

 

<日本の業者のWEBSITE>

日本の業者がWEBSITEを立ち上げ、外国から外国人の旅行者の申し込みを受けるビジネスも見かけるようになった。これからは、急増することであろう。

このタイプのWEBSITEの場合、旅行自体は日本国内や国外いずれもあり得る。しかし、旅行は国外、旅行者も外国在住者でも、日本国内に営業所がある以上、その活動には、日本の旅行業法が適用され、日本の旅行業の登録も必要となる。

日本の旅行業法は、このような事態を想定していなかったであろうが、同法が旅行者を国内に限っていない以上、日本国内で、旅行業法2条で定める行為を行う者は、旅行業ないし旅行業代理業の登録が必要となるはずである。

しかしながら、この先に、外国向けWEBSITE特有のリスクがある。それは、契約違反やキャンスル料の問題が生じたときに、日本の法廷で、日本法で処理してもらえるかというと、全てがそうだとは限られないと言うことである。

あるいは、バス事故等の交通事故が発生したとき、テロに巻き込まれたときなどに旅行者から責任追求を受けたとき、現場が外国の時は勿論、それが日本国内であっても、外国で訴訟管轄が認められることがありうるのだ。

ことに、旅行者がアメリカ人の場合は、やっかいである。アメリカの法廷は、自国民に自国の管轄を与えることに極めて熱心である。

  米国内で ビジネスの申し込みを行い、かつ、その準備のため何らかの取引契約を結ぶと、営業所が無くても、米国に管轄を認める州が多い(the “ solicitation- plus “

doctrine ).

営業所を置いていないはずの外国の裁判所から突然呼び出し状が来ることがあり得るので、外国人を対象にするビジネスをしている者は注意されたい。
                                        

95回 レストランでの火傷

 

〈ケーススタディー〉

  パックツアー中、レストランでウェートレスが誤って熱湯の入ったポットをひっくり返し、旅行者が手足に大火傷を負った。

  この場合、旅行を企画した旅行会社は、損害賠償責任を負うか。

  派遣添乗員が、現地で直接予約し案内した場合、添乗員ないし派遣先、派遣元が責任を負うべきか。

  

ケースとしては、間々起こりうるトラブルであり、このようなケースに対し、(社)日本添乗サービス協会(TSA)作成の「派遣添乗員の業務ガイドライン」&「添乗業務対応事例集」の事例11でも扱っている。が、TSAの説明については、疑問が残ったので、本編で検討することとした。

 

〈旅行会社の責任〉

  旅行者が自由行動中、自分で予約した場合は、旅行会社が責任を負うことがないことは明らかである。

  では、添乗員が、頼まれて、サービスで予約した場合はどうであろうか。あるいは、パックツアーの旅程に於いて、添乗員が直接レストランを予約することが不可欠な場合はどうであろうか。

  TSAの事例集では、ウェートレスのミスと、旅行会社の企画ないし添乗員の予約と、因果関係があることを前提に論じられているようだ。

  確かに、このレストランを予約しなければ、熱湯事故が生じなかったので、論理的な因果関係は成立しうる。

  しかし、損害賠償として必要なのは、「相当因果関係」である。「相当」とは、損害と違法行為の間に、単なる因果関係でなく「公平」の観点から損害賠償責任を負わせていいというだけの、重要な、あるいは密接な因果の関係を必要とする。

  ウェートレスが、熱湯をこぼすなどと言うのは極めてレスケースであり、そのようなことが起こることなどと予測は不可能である。損害賠償義務の根本にある「公平」の観点からは、このような場合、「相当因果関係」があるとは思われない。

  かようなウェートレスのミスに対し、仮に旅行業者が、かかるレストランの使用を旅程に入れたとしても、あるいは、添乗員が現地で、サービスで予約をしたとしても、添乗員の予約が、旅程上布可否でも、その行為が旅行者の火傷と、「相当因果関係」があるとは思われない。

  従って、旅行を企画した旅行業者が損害賠償責任はありえないと考えられる。

 

〈予約した添乗員の責任はあるのか〉

  以上の説明から、旅行者の火傷と予約した添乗員の行為に、「相当因果関係」がないことも明らかであろう。

  となれば、派遣元は勿論、派遣先も責任を負うことはないはずである。この点、TSAの説明では、派遣先が責任をとるとしているようであるが、私は、派遣先も、責任をとる必要はないと考えている。

  ただ、旅行者のために、レストランと交渉してあげる必要があるかであるが、少なくとも法的には無いであろう。ただ、サービスで交渉する事は、悪いことではないし、対応出来る現地スタッフがいるときには、是非してあげて欲しいものである。

 

〈火傷を負った旅行者は、保障されないのか〉

  この場合、現場のウェートレスに責任があるのは勿論、彼女を使っているレストランが責任を負うのは当然である。

  しかし、外国にいる外国人や外国企業に対し、損害賠償請求をするのは、事実上極めて困難である。

  レストランが日本に支店でもない限り、日本には訴訟管轄がない。そのため、訴訟は現地の裁判所に起こすしかない。しかし、その手間、ヒマを考えれば、これは事実上不可能であろう。

  となれば、旅行者は、保険でカバーしてもらうしかないであろう。

  ちなみに、入院した場合は勿論、通院日数が3日以上となれば、特別補償の対象となり、通院見舞金は受け取れる。しかし、これでは、実際にかかった治療費の一部しか填補されないであろう。やはり、旅行者には、旅行傷害保険に入ってもらうことが不可避であろう。
                                      

96回 パックツアーが海外旅行の主流でいいのか

 

〈ヨーロッパと日本の違い〉

  ヨーロッパの旅行関係の判例を調べていると、日本との違いにびっくりすることが多い。その一つに、パックツアーの位置づけがある。

  ヨーロッパの判例では、「いかにツアーがパッケージ化することを避けるか」ということが重要な争点である。

  パッケージツアーだと、旅行業者はツアー全体の責任をとらされる。例えば、ホテル内で、強盗におそわれて死傷事故が発生した場合、交通機関の手配をしただけのつもりが、パッケージとみなされると、ホテル内での事故についても責任を負わされる。

  旅行業者としては、あくまでも手配したのは交通機関のみとしたいが、旅行者のホテルの予約の仕方次第では、両者をパッケージになっていると判断されることがあるのだ。となれば、「いかにパッケージとみなされることを避けるか」が重要となる。

  他方、日本は、海外旅行となればパックツアーが主流である。

  むしろ、手配だけではもうからないので、パックツアーを売りたがる。第3種旅行業のライセンスのまま、パックツアーを販売して問題化するケースが後を絶たないのが現実だ。

  このように、ヨーロッパと日本では、旅行業界の現状には、大きな違いがある。

 

〈ヨーロッパの判例の傾向〉

  ヨーロッパでは、このようにパッケージ化されるのを嫌うので、判例もいかなる場合にパッケージとされるかの判断基準が重要となる。

  その基準は、Pre-arranged (事前手配)と Inclusive  Pricing(包括値付け)である。

  前述のホテルのケースでは、ホテルの予約が出発前に手配されているかどうかと、料金の支払が交通機関とホテルの料金をまとめて支払っているかどうかが重要となる。

  この二案件のいずれを満たすとパッケージとみなされ、ホテル内の事故、事件についても、旅行業者は責任を問われることになる。

  いずれにしても、ヨーロッパは、日本と違い、判例が豊富なので、パッケージか否かについて多くの詳細な判断事例を探すことが出来る。

 

〈手配だけでは、もうけられない〉

  旅行に出れば、旅行者は様々な危険に遭遇する。死傷事故となればその賠償責任は膨大となる。

  にもかかわらず、日本の旅行業者がパックツアーに執着するということは、旅行者の死傷事故について、あまり深刻なケースに遭遇したことがないのだろう。 おそらく、日本人は訴訟を好まないので、保険での処理と若干のお見舞金で解決してしまうのだろうか。

  いずれにしても、日本の旅行業者はパックツアーをかせぎ場所として、経営をしてきた。手配は、ツアー・オペレーターまかせにし、旅行業者としては手配だけではもうけられないという収益構造ができあがってしまったのだろう。

  しかし、ヨーロッパの事情を見ると判るが、パックツアーは、本来賠償責任がふくれあがるリスクを背負っている。旅行者がさらに増えると、今後は、日本でも、事故、事件による旅行者からの賠償請求例も増えるであろう。日本の旅行業界としても、手配でも稼げるビジネスモデルモデルの構築ということも、今後は真剣に考えるべき時代に入りつつあるのではなかろうか。

 

〈インターネットが新しい世界を開くか〉

  最近インターネットで、交通機関やホテルの予約が容易にできるようになった。

ツアー・オペレーターが、直接ウェブサイトを通じて、直接一般消費者と取引をする例も見受けられるようになった。 旧来の旅行業者もインターネットを通じ、手配をするようになった。このような傾向は、手配だけでも収益を出す構造が着実に構築されつつあるのだろう。

  インターネットを活用した新たなビジネスモデルが、旅行業界の収益構造を大きく変える契機になりそうだし、それを、大いに期待したい。
                                        

97回 外国から訴状が来たらどうしたらよいか

 

〈外国の弁護士事務所から訴状が来た!!〉

  外国の法律事務所から直接訴状が送られてきてパニックとなるというケースが増えている。このようなことをするのは、アメリカの法律事務所に多い。

最近は、旅行業界にもこのような事例が見られるようになった。

ただ、このような事態に至ってもあわてることはない。これは適法な送達ではないからだ。 送達先に対し、裁判所を通じた正式の送達をするよう要求するとよい。

この場合、放っておいたらどうなるかと質問されることも多い。が、放っておくと一種の欠席判決で、相手の主張通りの判決が出てしまうことが多い。ただ、この欠席判決は怖くない。なぜなら、正式の送達がなされていないので、民事訴訟法118条2号により、日本では効力を生じないからだ。

逆に、ノコノコとアメリカの法廷に出廷してしまうと、応訴したことになり、正式の判決として日本でも効力をもってしまうので(同法118条2号)、厳重に注意してほしい。

送られてきた訴状に日本文の翻訳が添付されていることがあるが、それでも、その効力は以上と同じである。

 

〈正式の送達はどうするのか〉

  訴訟は、どこの国でも被告に訴状が送達されてスタートする。

  正式の送達は、国際間でも必ず裁判所を経由して行われる。しかも、相互の裁判所が直接やりとりをするのでなく、その国の外務省を経由してなされるので、非常に時間がかかる。半年くらいはかかると思ってよい。

  日本では、外国からの正式の送達の場合、最初に、裁判所から電話連絡が来て、訴状を取りに来るか聞いてくる。

  この場合、裁判を起こされた以上結論を出さないといけないので、まずは訴状を受けとったうえ、すみやかに弁護士に相談して対策をたてるべきである。

  尚、正式の送達がなされたのに放置すると、今度は日本でも効力を有する欠席判決が出されるので(同法118条2号)、この点も注意してほしい。

 

〈米国裁判所の管轄獲得は強引〉

  米国の裁判所は、自国に管轄を認めるということについては実に貪欲である。が、米国企業は、さらに貪欲で、管轄が無さそうでも、とにかく、米国の裁判所に、訴状を出してみるというケースも多い。

  他方、日本人は必要以上に、自分を相手に理解してもらいたいという習性があるので注意すべきだ。

訴状を起こされても、アメリカには管轄がないとして争うことが可能であるにもかかわらず、日本企業のスタッフが渡米して、相手会社に事情を説明に行ったりすることが見受けられる。すると、それを根拠の1つに(勿論、他にも根拠が必要だが)、米国での裁判管轄が認められてしまうということさえあるのだ。

  いずれにしても、国際紛争は熾烈である。外国と訴訟が絡まったら、素人判断はせず、まずは専門の弁護士に相談して、次の対策を考えるべきである。
                                                            

98回 WEBSITEと訴訟管轄

 

〈日本でウェブサイトを立ち上げた場合、外国で訴訟を起こされることがあるか〉

 

  インターネットによる商取引は、今後、爆発的に増えるはずだ。ウェブサイトを立ち上げ、国の内外からアクセスしてもらうという、国境を越えた商取引も今後は有力なビジネスとして発展するであろう。

  しかし、取引が国境を越えてなされる場合、トラブルが生じると、今までに無い難問が発生する。その一つが裁判管轄の問題である。

  ウェブサイトを通じて提供した旅行サービスや旅行商品に関して、事故が発生した場合、外国では訴訟になる可能性は高い。日本のように、訴訟の少ない文化圏は稀である。  

しかし、外国で訴訟を起こされると、応訴に大変な時間とエネルギーが必要となる。となれば、日本で立ち上げたWEBSITEにアクセスして旅行商品を購入しただけで、外国で訴訟を起こされるかは、重要な問題となる。

  本コーナーの第94回では、ウェブサイトに関する国際管轄について若干ふれた。前回では、外国から訴訟が届いた場合について説明した。

  今回は、ウェブサイトに関する国際管轄について、アメリカでの判例の現状を説明することとしよう。アメリカの裁判所は自国に訴訟管轄を認めることに熱心であるが、そこでの成果は、他国に波及していくのが通常である。アメリカでの現状を知っておくことは、他の地域での今後の国際訴訟管轄を考える上でも重要である。

 

〈営業所等がある場合〉

  例えば米国人が、日本企業が日本で立ち上げたウェブサイトにアクセスして中近東のホテルを予約し、そのホテルで暴漢に襲われたとする。

  米国人は事故が起きた中近東でもなく、また、業者の所在する日本でもなく、自己が居住する米国内の州で訴訟を提起することを考えるであろう。自己の居住地でなければ、訴訟コストが膨大になるからである。

  この時、その州内に、その日本企業の支社、営業所がある場合は勿論、営業的な活動拠点(最低限、スタッフ、銀行口座、地元の電話番号があればよい)があれば、同州に裁判管轄があるというのが現在のアメリカの判例であり、この点は、他国の法実務とも大きな違いはないはずである。日本国内で、日本で活動する外国企業を訴えるときも、同じである。

  さらに、米国の判例の流れは、この原則を拡大しつつある。ホテルや航空会社のような外国のサービス提供業者の場合は、旅行代理店、100%子会社、ジョイントベンチャーなどを通じて活動すれば、それだけで営業的な活動拠点があると認められ、裁判管轄あるとするようだ(ニューヨークの裁判所では、この考えをSolicitation Plusの理論と呼ぶことは、本コーナーの第94回で説明した)。このような考えは、次第に、他国にも広がるであろう。
                                                            

  

<WEBSITEと管轄>WEBSITE取引でも、利用者の居住地にこのような拠点(legal presence)が存在すれば、以上の考えで解決できる。

問題は、WEBSITE取引で、利用者の居住地に、このような拠点が全くない時に、その居住地で訴訟を起こせるかである。

  米国の現在の判例では、ウェブサイトが双方向で、利用者がウェブサイトから必要な情報を取得できるとともに、当該ウェブサイトを利用して必要な予約や契約の申入れができる場合には、原則的には裁判管轄を認めるというのが主流である。もっとも、そのウェブサイトの主たる役割が、予約のためでなく単なる情報提供のためのもので、「受動的」(Passive)なものにすぎず、予約は、別途Eメールを出し、あるいは電話をして行ったという場合には、管轄が認められていない。

   つまり、利用者が、WEBSITEにアクセスして、そこから必要な情報を得、かつ、そのWEBSITEを利用して、直接、ホテルや交通機関に予約したとか、ツアーを購入したという場合には、旅行先でトラブルが生じたとき、そのWEBSITEを利用してビジネスをしている旅行業者に対して、利用者は、自己の居住地の裁判所に訴訟を提起できるわけである。

  逆に言えば、WEBSITEでビジネスを展開している旅行業者は、そこにアクセスしてくる利用者が、その居住地で訴訟を提起してくるリスクを常に負うわけである。

このような判例理論は、今後世界に広がっていくと思われる。

世界中からアクセスを求めるタイプのWEBSITEにとっては、この訴訟リスクはかなり大きい。旅行業者の方々は、このことを忘れないで、ビジネスを展開して欲しいものである。
                                                          

99回 スキューバダイビングでの溺死事故

 

<危険を伴うスポーツと企画旅行>

スキューバダイビングは、魅力的なマリンスポーツである。これを組み入れた企画旅行もよく見受けられる。しかし、このスポーツは危険性も高い。講習中に受講生が溺死その他の事故に遭い、裁判になったケースも沢山ある。

その中で、大阪地裁平成16年5月28日判決を紹介しよう。

受講生が一人溺死したケースで、指導員、講習主催会社の不法行為責任が認められ、3860万円の支払いが命じられた。

旅行会社にとっても、危険性を伴うスポーツを対象とする企画旅行を設計するときには、この判例は参考になるであろう。

 

<どんな事故だったか>

インストラクター1名、受講生6名。受講生のうち、A子含め、3人は、初めての海洋演習で、他の者も、2回目という、典型的な初心者グループの講習であった。

インストラクターは、受講生を潜行移動させながら、自分はフロートの固定場所を探し求めていた。そのため、少なくとも30秒間、A子の動静は判らない状況であった。

インストラクターは、A子がこないことに気づき、すぐ探し始めて5−6分後に、水深2メートルのところに沈んでいるA子を見つけた。すぐ引き上げて、救急車で病院に運んだが、A子は病院で死亡した。死因は、裁判所の認定では溺死であった。

当日は、台風の影響で透明度は悪く、普段は7−8メートル見えるところが、3−4メートルに落ちていた。波もあり、水面移動を潜行移動に切り替えたという状況でもあった。

 

<裁判所の判断>

 裁判所は、初心者に対して水中で指導を行う講師に対しては、極めて高度な注意義務(動静監視義務)が課されており、具体的には、「受講生を常時監視し、常に視野に入れた上で、受講生に異常が生じた場合には、直ちに適切な措置を施し、事態の深刻化を未然に防ぐ高度な注意義務」があるとする。

 要するに、わずか30秒そこそこであるが、目を離したことが一番悪いと言うことである。これは、インストラクターがどんなに優秀でも1名では無理と言うことを意味する。

 本件は、A子本人が、LGL症候群という心臓の先天性疾患により、溺死前に意識障害を起こしていた可能性が高かった。しかし、インストラクターは、そのような異常が生じたときにこそ、「直ちに適切な措置を施し、事態の深刻化を未然に防」がなければいけないというのが裁判所の判断である。それを可能とするためには、リードするインストラクターの他に、少なくとももう一人、受講生の動静を常に監視する要員がいるということである。ことに本件では、台風の影響で、透明度が落ちていたので、なおさらであろう。

 

<ツアー企画での注意>

本件は、講習主催会社も当然ながら、責任を問われている。むしろ、責任の主体は、主催会社である。

海洋演習が1回目、2回目という初心者を1名のインストラクターに全て任せたというのは、そもそも企画でのミスである。

他のスキューバダイビングの裁判例においても、主催者側の責任は重い。具体的な潜水中の指導は勿論、潜水計画の策定、管理、遂行についても、厳しく責任を問われている。

危険なスポーツを対象とするツアーを企画するに当たっては、安全面について十分に気を付けて欲しいものである。
                                                              

100回  スキューバダイビングでの事故(その2)

 

<始めに>

前回は、スキューバダイビングでの事故で主催者が責任を負うケースを紹介した。今回は、旅行業者の責任が認められなかった大阪地裁平成17年6月8日判決を紹介し、旅行業者の責任のあり方について検討することとしよう。

 

<どんなケースか>

受講生が海水を誤飲した溺死したケースで、インストラクターM ダイビングスクールを主催したN社、ツアーを企画したO社、O社から委託を受け旅行商品として販売したP社が被告となった。

判決は、MとNに対し、亡Aの夫に4265万7865円、子三人にそれぞれ1421万9288円の支払いを命じたが、旅行業者であるO社、P社に対する請求は棄却した。

 

本件ツアーは、ダイビングスクールのN社と旅行業者O社が提携して開発し、ダイビングスクールの受講と沖縄県内の海洋実習地への旅行を内容とするものであった。

海洋実習地での実習は、日程を2日とし、プール実習と海洋実習からなり、PADI(指導団体の一つ)発行のCカードの取得を目的としていた(Cカードがないと国内外のダイビングショップで潜水機材を借りることが出来ない)。

 

亡Aは、2年前に、体験ダイビングをしたことがあるが海洋潜水をするには至らなかった典型的な初心者であった。

事故は、亡Aが海洋潜水において、訓練で海中においてマスクをはずした直後に起きた。亡Aは、その時、鼻をつまむような仕草をして、苦しい表情で海底から膝を浮かしして立ち上がろうとした。インストラクターのMがそれを見つけ、すぐに亡Aを海面に浮上させたが、2−3分後に意識がなくなった。人工呼吸を行い、救急車で病院に搬送したが、病院で死亡してしまった。

 

<インストラクターと講習主催者の責任>

裁判では、亡Aに内在的な病気があったのではないかとの争いもあったが、裁判所は、海水を誤飲したことによる溺死と認定した。

亡Aは、プール実習において、「予定時間を2時間近く超過する訓練が必要になる」ほど、レギュレータークリア等の実技の訓練に失敗しており、各実技にも一回しか成功していなかった。つまり、極めて、低レベルの習熟度であった。このような習熟度の場合は、海洋実習を行う前に、「基本的潜水技術を自信を持って行使できる程度に必要技術を修得させるべきであった」というのが裁判所の判断であった。

 

事故者数は平成10年までの10年間平均で、年間45人、そのうち死亡行方不明20人、死亡率は約44%であったという。もともと、スキューバダイビングは危険性が高いスポーツなのである。

裁判所は、MとN社は、亡Aに対し、「基本的潜水技術を十分に習得するまで、プール実習を継続して海洋に連れ出すのを控えるか、海洋に連れ出すとしても、足の立つ浅瀬で、あるいは岸かららさほどと遠くない場所を選択して訓練を行うべき注意義務」があり、実際は、沖合約120メートル、水深4,2メートルでの事故であり、亡Aのような未熟な初心者はパニックを起こしやすいのであるから、過失責任は免れないと判断した。

 

<旅行業者の責任>

本件で裁判所は、旅行業者が責任を負うのは、「各種旅行サービス提供機関の選定に際して、当該旅行サービス提供機関を選択するのが、旅行者の安全確保の見地から明らかに危険であることが認識できたにもかかわらず、これを漫然と選択して、その危険が当該旅行者に発生した場合などに限られると解すべきである」としたうえで、企画した旅行業者O社は、サービス提供機関の選定の条件として、現地ガイド歴が5年以上の経験を持つインストラクターが1人以上いること、常勤インストラクタースタッフが2人以上いること、10億円以上の保険に加入していること、過去にダイビングショップ側の過失が原因の重大事故が発生していないことを求めており、O社は、N社がこの要件を満たしていることを確認して契約していた。

その結果、旅行業者のO社もP社も、本件で裁判所から責任を問われることはなかった。

 

事故は起こる。その際、旅行業者が責任を問われるかどうかは、サービス提供機関の選択機関を厳重かつ明確にし、かつ、それを励行しているかどうかで決まるのである。O社は、立派にこれらを実行していたので、責任を問われなかった。

旅行業者としては、危険なスポーツを内容とする旅行を企画するときには、本判決を思い出して、普段から合理的な選択基準を設け、かつそれを実行して欲しいものである。
                                   
 

101回  マルタの学会報告(続き)

 

前回は、ハンガリーの先生のレポートから「大阪事件」を紹介したが、今回も、その中から1ケースを検討することにしよう。

 

〈ブラッセルのケース〉

  ある旅行者Aが、ブラッセル(Brussel)からブタペストへ、Malevの定期便で帰国しようとした。搭乗後、クルーより技術的な理由(technical reasons)により、フライトキャンセルとなる旨告げられた。結局Aは、Malevの別便により、翌日、一日遅れでブタペストに到着することとなった。

  Aは、EUregulation 261/2004/EC の7条にもとづき、250ユーロの補償(距離により補償額が異なる)を請求した。

  しかし、Malevは、Regulationの第5条第3項およびモントリオール条約の第3章第19条を根拠にAの補償の請求を拒絶した。尚、モントリオール条約19条では、航空会社は、フライトの遅延(delay)については責任を負わないことになっている。

 

〈何が問題か〉

  ヨーロッパでは、このようにフライトの遅延やキャンセルがあると、補償の問題が発生する。その是非については、様々な角度から議論されている。本件もその1つである。

  尚、モントリオール条約とEU Regulation の関係は難しいので、ここではふれないこととしよう。

  いずれにしても、A側の代理人は、モントリオール条約は本件に適用されず、かつ、キャンセルの原因が、Malev側の原因によるので、250ユーロの請求は当然であるとして、訴訟提起した。

 

〈空港で何が起きたのか〉

  訴訟でのA側の主張では、主脚装置と車輪をつなぐ棒の締め方(tensing)が不十分だったため、折からの降雨の中、牽引トラックが機体を動かそうとしたところ、車輪がスリップして、主脚装置が破損してしまった。すぐには修理できる状況ではなく、かつ、Malevには代替機もなかったので、Aは一日遅れで別の便にて帰国することとなったのである。

 

〈日本では〉

  この事件そのものは、訴訟係属中でその結論はでていない。が、あらゆる合理的な手段(all reasonable measures)を講じても、本件トラブルは避けられなかったということをMalev側が立証できない限り、Aが勝訴すると思われる。

  原告の主張を前提にすれば、本件のフライトキャンセルは、主脚のある部分の締め方が不十分だったという、「些細な整備上のミス」から生じたもので、いつもどこでも起こりうるものである。

  しかし、旅行者にとってはその影響は大きい。天候によるフライトの遅延やキャンセルなどはともかく、整備上のミスが原因となる場合は、航空会社の責任が問われておかしくはない。

日本でも、不法行為による損害賠償の問題が生じてもおかしくないはずだが、実際に訴訟になったケースはほとんどないし、そもそも、航空会社にクレームが申立てられることも稀であろう。しかし、ヨーロッパの状況からすれば、それは極めて不思議なことである。私自身、なぜ、日本とヨーロッパは、このように異なるのかという問題を含め、今後、様々な角度から研究したいと思っている。
                                      

102回  IFTTA学会報告(その3)

      荷物の損傷・盗難

 

航空機に関するケースは、日本では多くないので、今回も参考までにハンガリーの先生が発表したケースを紹介しよう。

今回は、旅客の荷物の紛失・盗難のケースである。

 

〈何が起きたか〉

  ヨーロッパではダイバーにとって人気のあるHurghadaから、旅行者Aがブタペストへ帰国する時、空港でスーツケースが壊され、中の荷物が盗まれていることが判明した。

  盗まれた物の中には、新品のダイビング器具が含まれており、その金額は購入時のインボイスでは、約1800ユーロであった。

 

〈処理経過〉

  航空会社は、賠償をしたが、その額は380ユーロだけであった。

  その理由は、航空券及び社内規則で賠償できる対象が限られており、対象となる物品では、この金額になるとのことであった。

  依頼を受けたハンガリーの先生が調査をしたところ、リストでは、スポーツ製品なども対象になっており、Aの損害がリストから外れることがないことが確認できた。

  また、The Schedule of EU Regulation 2027/97/ECEU Regulation 889/2002/ECで修正)によれば、預けた荷物(Checked Baggage)については、航空会社は無過失でも、バッゲージに欠陥がない限り、最大1000SDR(IMFの特別引出権)の補償をしなければならないことになっている。ただ、本件は搭乗後預けた荷物なので、Checked baggage と言えるかが問題になったが、ハンガリーの先生は、乗客の支配を離れた以上は、航空会社が責任を持つべきだと主張した。

  そして、本件はハンガリーの先生の努力で、裁判所外の交渉で航空会社にAの請求額満額を支払わせて解決したとのことである。

 

〈何が問題か〉

  パッケ−ジが壊れ、中味が盗まれるというケ−スは、海外旅行ではよく起こることである。しかしこの解決は結構難しい。

本件も若干問題になったが、航空会社との旅客運送契約で、航空会社が一定の範囲で免責される特約がある場合、それが有効か否かどこまで有効かという問題がある。

共同運行や、他の会社への乗り継ぎの場合などでは、責任関係が分散し、モントリオ−ル協定では明確な解答が得られない。 

また、ワルソー条約により、原告が、裁判管轄として、運送人の住所地、運送人の主たる営業所の所在地、運送人が契約を締結した営業所の所在地、または到達地のいずれかを選択出来ることになっている。

しかし、航空会社が他社に運行を委託している場合、他社便への乗継の場合などは、どこか管轄か判断が難しい。

また、パッケ−ジの損壊や中味の盗難は、航空機外の空港敷地で発生することが多く、本来の責任者が不明のことも多い。

旅行者にとっては、ことに外国の航空会社を利用した時には、管轄が外国となることが多く、この場合は当地の法律がまちまちであり、さらに対応が難しくなる。

これらの問題点については、私としても今後に備え解決方法をよく調査検討し、整理しておきたいと考えている。
                                   

103回  IFTTA学会報告(その4)

 

航空会社に関するレポートを3回続けて紹介たが、予想した通り、旅行業者と航空会社との間では、様々な問題が存在するようで、興味ある御意見をいただいた。

 

〈中国桂林での出来事〉

  中国の桂林、広州への社員旅行を取り扱ったケースで、桂林から広州へ移動する際、予定しているA社のフライトが「機材故障」と称してフライトキャンセルとなった。

  しかし、広州行きのB社の便があるので、A社の搭乗をキャンセルして、B社の搭乗券を購入しようとした。

  席が確保できることも確認できたので、振替え購入しようとすると、なんとA社からB社へ「空席があっても販売するな」との申出があったとのこと。カウンターで何度も掛け合ったがうまくいかず、結局A社の用意した空港近くのホテルに一旦移動し、7時間遅れで桂林を出発し、広州のホテルに着いたのが夜の12時。

  予定にあった広州市内のレストランはキャンセルとなり、悪いことにA社が用意したホテルの食事は最悪で、誰も箸をつけなかったとのこと。

  帰国後、A社の大阪支店に報告すると「そのような変更に際し、売るなというケースは考えられない」との前置きで、「現地に調査します」と言って、何のお詫びもないまま4ヶ月経過しているとのこと。

  当の旅行社としては、利益を削ってお客様に返金して、納得してもらったとのことである。

 

〈御意見〉

送られてきたメールには、

「お客様保護の観点から法律が改正される傾向ですが、そのお客様と常日頃接しているリテールもしっかり支えていただける機関や対応策がないと、旅行業界の発展は一部の会社だけが存続し、リピーターで生き延びているリテールはさらに窮地に追い込まれてしまいかねない。

お客様にとってリテールは、郵便局のように身近に感じていただいていますが、使い勝手の良い便利さを奪い、機械的な対応しかできない旅行会社のみでは、旅行を何倍にも楽しんでいただこうとするソフト面まで失われていくものと小生は考えます。

未熟なゆえ、そのような見方しかできないのかもしれませんので、是非お伺いしたいのです。

航空会社とは、現実、悪い政治的で居丈高な態度をとるような機関で(我々は従うのみでしょうか?)、燃料チャージが、原油価格の高騰により上がっていく問題とは別かもしれませんが、一方的に「受け入れよ」との感は、小生だけでしょうか?」

とあった。

現場での苦悩と本音が出ていて、私としても大変参考になる御意見である。

 

〈何が問題か〉

  本件はフライトキャンセルの原因が「機材故障」とのこと。本コーナー101回で紹介した通り、「機材故障」の場合は、機体の欠陥が原因である場合と、整備上のミスが原因という場合がありうる。

  前者は、メーカーの製造物責任の問題であるが、後者は、運行する航空会社の責任である。実際は、後者が原因となることが多いようだ。

  本件も、航空会社の整備ミスであれば、不法行為責任が発生するのは当然である。  B社への振替が拒否されたのであれば、被害回復の機会を自ら奪ったと言うことで、責任は加重される(慰謝料額が増大する)。

  ただ、このような場合、ビジネスチャンスを失ったというようなケースでない限り、損害額は僅少である。本件は、到着が7時間遅れと言うことなので、一般的には慰謝料位しか算定できないであろう。その額も10万円以下である。この額では費用と手間のかかる訴訟をする人は、ほとんどいないであろう。

となれば、解決方法は、まず、補償制度(compensation)をもうけ、機材故障の場合は無過失でも所定の補償額を支払うというような制度を設けること(EUでは、この制度が整備されている)、さらに、ADR(裁判外紛争解決手段)として、旅行関係を専門とする調停制度を設けることであろう。

  航空業界や旅行業界等が共同してこのような制度を設けることは、今後検討されて然るべきである。
                                                        

104回  中国の白バス

 

〈トルコのバス事故に向けて〉

 今般、トルコのバスの横転事故で一名の死者と多数の重軽傷者を出す惨事が発生した。

 亡くなられた方の御冥福と怪我をされた方の速やかな回復をお祈り申し上げます。

 その原因の究明や損害賠償の問題はこれからであろうが、その点について直接的な検討は、関係者の御努力の妨げとなりかねないので、当面控えさせていただき、今回は関連問題を検討することとしよう。

 

〈中国の白バスの横行〉

本トラベルビジョンの本年10月24日版の社説で、興味深い話が載っていた。

中国の旅行業界は過当競争の中、値引き合戦が激しく、少しでも安くするため、「白バス」を利用するケースが多いとのこと。

仮に、この「白バス」で、今回のような死傷事故が起きるとどうなるのだろうか。

バスのドライバーに運転ミスがあっても、そのドライバーや、その事業主体に対する損害賠償請求は不可能である。彼らに損害賠償能力は全く期待できないからである。

このドライバーらに対する裁判管轄は、中国である。中国なら遠くないため、中国で裁判を起こすということも考えられるが、賠償能力がなければ、いくら勝訴しても現金回収できない。結局、訴訟は起こしても無意味となる。

となれば、かかる旅行を企画した日本の旅行業者の責任が中心となる。

「白バス」を使った旅行を企画したとなると、その責任は大きい。本来、旅行業者は旅行商品を企画する時、サービス提供業者の安全管理能力を調査、検討し、かつ、現実の旅行遂行にあたっても安全が配慮されるよう、必要な対処が求められる。

「白バス」を使ったとなると、これらの義務を全て放棄したことになり、全面的な責任を求められることになる。

人が1人死亡すれば、損害賠償額は1億円近くなるのが普通である。十分な保険に入っていないと、会社の命運にかかわることとなる。

 

〈高知学芸高校事件〉

 中国での事故というと、88年3月の高知学芸高校の列車事故のケースが思い起こされる。この件は、高校生73人が死傷している。

 訴訟としては、この修学旅行を送り出した学校が被告となった(本コーナーの第35回でこのケースを検討したので参照されたい)。それは、この件が学校の修学旅行であったからで、海外での事故に於いては、通常旅行業者が被告となる。

 鉄道事故だったので、中国の鉄道局が同時に賠償請求の対象となったが、中国側の補償額は極めて低かったと聞いている。

 前述の社説によれば、航空機事故に於いても、中国での補償額は、国籍を問わず約300万円位(20万元)とのことである。

 結局、中国に於ける事故に於いては、中国側からの賠償は期待できない。日本の旅行業者が全面的に責任を負うことになる。

 従って、旅行業者としては、旅行者の安全面には十分配慮した旅行を企画すべきで、「白バス」を使ってコストを下げようなどというのは論外である。