買手の心理としては、まず、買取りに投入する資金の利回りを考えることが多いであろう。この視点から、非上場の企業で、株式買い取りというスキームでのM&Aで考えてみよう。
1億円出して100%の株式を買い取った場合、税引き後の利益が、年間1,000円あれば、利回りは10%となり、このままであれば優れた投資物件となる。減価償却費や引当金などを加えれば、さらに利回りはアップする。
ところが、実際の企業には、銀行借入等の有利子負債があるはずで、利息を控除した元本部分の返済が、年間800万円あれば、結局利回りを計算する利益は200万円であり、利回りは2%しかない。
不動産への投資であれば、これでは投資する意味がないということになるが、M&Aの場合は、事情が異なる。有利子負債の返済が完了すれば、利回りは10%にアップするので、将来、有利な投資対象に変わりうるのである。
また、これに、M&Aによるシナジー効果が期待できれば、投資価値は向上するし、新たなビジネスモデルの展開とか、新たな設備投資により利益を拡大できる。となれば、投資対象としての意義は拡大する。
そこで、M&Aの実務では、税引き後利益の4−5年分を買収代金の目安とすることは多い。これによれば、税引き後利益が1,000万円であれば、売買代金は5,000万円ぐらいということになる。
ところが、実際のM&Aの世界では、ターゲット企業を検討すると、有利子負債が大きく不良債権化していて、利息だけ支払っているという状態ということも多い。これでは、投資対象としては、価値がないということになる。M&Aの対象にするには、手を入れる必要がある。
ところで、異業種の買い手の方が同業者より高値で買うといわれる。なぜかと言えば、新規分野に進出し創業する費用を考えると、高くても買収する価値があると考えるからである。買い手としては、このような場合、引き後利益の20年分が代金でも買う価値があることもある。
勿論、買い手側としては、利益が出ていない会社でも、そこの経営資源を自己のノウハウで活用すれば利益が上がるという自信があれば、買う価値が出てくるのである。例えば、老舗旅館には立派な建物や庭がある。仮に債務超過であっても、これを宣伝広告力ある旅館チェーンを持つ企業が買い取れば大きな利益を上げる可能性はある。将来の収益性を前提に購入代金を算出し、相応の代金でM&Aが成立しうるのである。
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