不動産業界と民法改正
民法(債権関係)が、121年ぶりに大改正されることとなり、それが、2020年4月1日に施行される。この改正により、取引社会に対し大きな影響を与えることとなろう。
ここでは、不動産取引にかかわる改正点を整理しよう。
<経過措置>
施行日後に締結された契約、例えば賃貸借契約、賃借借人の債務保証契約、売買契約に新法が適用される。従って、例えば、施行日前にされた賃貸借契約が施行日後に終了して敷金でトラブルになっても、旧法が適用される。
ただし、施行日後に契約が合意更新されたときは新たな契約が施行日後に締結されたことになるので新法が適用される。同時に保証契約も合意で更新されれば、新法が適用される。
施行日前に締結された賃貸借契約については、施行日後の例えば2020年7月分の賃料請求権については、基礎たる賃貸借に旧法が適用されるので、時効や遅延損害金の計算に、旧法が適用される。
<瑕疵担保責任の全面的な見直し(新562〜564条)>
1.不動産は特定物なので、「隠れた瑕疵」には瑕疵担保責任の規定が適用された。
改正法では、売買の目的物として引き渡されたものに欠陥があったときには、特定物と不特定物の区別を廃止し、いずれも、「契約の目的に適合しない」ものが引き渡された場合として、買い主は、@補修や代替物引き渡しなどの履行の追完の請求、A損害賠償、B契約の解除、C代金減額請求ができることとなった。
旧法では、瑕疵担保責任として、AとBの選択肢しかなかったので、解決のための選択肢が広がった。また、「瑕疵」という用語が条文から消えることとなった。
2.買い主は瑕疵を知ってから1年以内に権利行使をすることが必要とされていたが、買い主の負担が大きすぎるとして、改正法では、「契約の目的に適合しないこと」を知ってから1年以内のその旨の通知をすればよいこととなった(566条)。「通知」では、責任を問う意思まで明確にする必要はなく、「不適合の種類やおおよその範囲」を通知すればよいこととなった。
<契約の目的物が原始的に履行不能の場合>
例えばA所有の別荘の売買契約をしたところ、引き渡しの前の日に火事で焼失していた場合、従来は、契約時には目的物が存在しないので、契約は原始的に履行不能で無効と解されていた。
しかし、これでは、消失の原因が売り主の火の不始末という場合でも買い主は売り主の責任を問えなくなる。そこで、原始的不能の場合でも、債務不履行に基づく損害賠償を請求することは妨げられない旨の規定を新設した(新412条の2第2項)
<危険負担の見直し>
例えば、建物の売買契約の締結直後にその建物が地震により滅失した場合、従来は、買い主に代金義務(反対給付)が残る(債権者主義)
改正法では、買い主に反対給付(代金支払い義務)の拒絶権を認める(債務者主義。536条)。
ただし、買い主の目的物受領後に滅失・毀損したときは、買い主は代金の支払いを拒めない。(567条1項)。
<賃貸借契約終了時のルール>
まず、敷金を定義し、敷金とは賃料債務を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭で、名目を問わないとする。
首都圏は一般的に敷金というが、地域のよって、礼金、権利金、保証金などと呼ばれるが、改正法では名目の如何を問わず、担保目的であれば、敷金とする。
そして、原則として、賃借人は賃貸契約終了時に現状回復の義務を負うが、「通常損耗」や「経年劣化」については、責任を負わないと明記した(621条)。これは、従来の判例理論に基づくものである。
<賃貸建物が譲渡された場合のルールの明確化>
1.例えば、家主Aが賃貸中の建物を第三者に譲渡したという事例で、賃借人Bは誰に対して賃料を払えばいいか?
賃貸の地位はAからBに移転するというのが従来の判例、学説であるが、改正法では、この場合、CがBに賃料を請求するには、Cへの建物の所有権移転登記が必要とした(605条の1第1項)
2.投資法人Cが多数の入居者のいる賃貸マンションを取得した場合、旧所有者Aが、賃貸管理を引き継ぐ(従来の管理を継続する)例がよくある。この場合、従来の判例、学説では 所有権がCに移転してしまうので、改めて、Aと各入居者Bらと賃貸借契約を締結することになるが、その処理は煩雑であった。また、Bらが賃貸借契約をAと締結し、その後AC間の賃貸借が終了すると、Bらの賃借権はCに対抗できないという不合理な状況が生じる。
そこで改正法では、例外として、ACの合意のみで賃貸人の地位をAに留保できることと、その後AC間の賃貸借が終了した場合には、賃貸関係がBらとCの賃貸借に移行する旨を明記した(605条の2s第2項)
<賃貸借の存続期間の見直し>
旧法では、賃貸借の存続期間は最長20年としていた。ただ、特別法では、借地借家法で建物所有目的の土地賃貸借は上限無しで、建物賃貸借も上限無し、 農地、採草放牧地の賃貸借上限50年、物権である永小作権は上限50年(278条1項としていた。
これら特別法の適用のない賃貸借、例えば、ゴルフ場の敷地の賃貸借では、旧法により20年となり、これはいかにもは短い。そこで、改正法では、賃貸借の存続期間の上限を50年に伸張した(604条1項。)
<賃借人の債務の保証>
1.極度額の設定が無いと賃借人の債務の保証が有効とならないこととなった。賃借人の落ち度で建物が消失など、賃借人の債務が高額となる場合があるからである(465条の2)。
元本確定期日を定めなる必要はないが、保証人に破産、死亡などの事情が生ずれば保証契約は終了することとなった(前同)。死亡が終了原因なので、保証契約は相続されないことなった。
2.債権者は、保証人から請求があったときは、主債務の元本、利息、および違約金等に関する次の情報を提供しなければならない(457条の2)。
@不履行の有無、A残額、B残額の内、弁済期が到来しているものの額
<請負に関する見直し>
1.中途で仕事を完成できなくなった場合、及び、請負が仕事の完成前に解除されたときは、中途の結果の内、可分な部分によって注文者が利益を受けるときは、請負人はその利益の割合に応じて、報酬を請求できることを明文化した(634条)。
更に、仕事を完成できなかったことについて、注文者に帰責由があるときは、報酬の全額を請求することが可能を明文化した(536条2項)
2.旧法では、土地工作物(建物等)の請負契約では、深刻な瑕疵があっても注文者は契約を解除できないとあったが、改正法では、これを削除した。
その上で、請負の瑕疵担保責任について、売買の担保責任と同様の改正をした。
すなわち、「瑕疵」という用語を廃止し、「契約の内容に適合していないこと」とする。そして、担保責任として、@補修等の履行追完、A損害賠償請求、B契約の解除、C代金減額請求をすることができると規定した(559条、562条)
さらに、担保責任請求には売買と同様に、契約に適合しないことを知ってから1年以内にその旨の通知が必要とした。旧法で、建物の引き渡し後1年内に権利行使が必要とされていたのを、通知をすればよいこととした。
<消滅時効と法定利率>
消滅時効については、職業別短期消滅時効や商事時を廃止し、一律に、権利行使ができるときから10年、権利行使ができることを知ってから5年とした。
天災等による時効完成の猶予は従来の2週間を3ヶ月へ伸張した(161条)。
当事者間で協議を行う旨の合意を書面または電磁記録になされると、教護が終了するまで時効完成は猶予されることとなった(151条)。
法定利率は、5%を3%と変更した。そして、その後は。3年ごとに見直すこととなった(404条)。 |