1)持ち分の譲渡と役員の交替が原則
大部分の医療法人は社団法人でかつ出資持分のある医療法人である。
平成19年の第5次医療法改正で、出資持ち分のある医療法人の新設ができなくなった。同時に、今の持ち分のある医療法人は、持ち分のない医療法人に移行することが期待されることとなった。ただし、出資持ち分のある医療法人(出資限度額法人を含む)も、当分の間存続することが認められている。
医療法人の99.1%は、社団たる医療法人、残りが財団たる医療法人である。社団たる医療法人のうち、持ち分のある医療法人で、その持ち分に制限のないものが現在でも90%以上であり、このタイプが大部分といってよい。残りの社団法人は、持ち分に出資額を限度とするという制限のある社団法人(基金拠出型)と、出資持ち分のない社団法人であるが、現状では、これらは極めて少ない。
出資持分のある医療法人の場合、M&Aは、持分の買い取りで実行される。株式会社のM&Aが、株式の売買で実行さえるのと同じである。
役員の退職が伴えば、退職金の支払いも必要となる、
持ち分が無い医療法人の場合は、役員の交替で譲渡できる。退職金が事実上の対価となる。
株式会社のM&Aでは、事業譲渡も多いが、病院の場合はあり得ない。ベッドは、法人に付与されているので、事業譲渡にベッドが伴わないからである。
医療法人でない診療所の場合は、事業譲渡でよい。しかし、ベッドのある個人のクリニックの場合は、法人化してから譲渡する必要がある。ベッドは開設者個人に割り当てられているので、事業譲渡にベッドが伴わないからである。
2)合併の手続きの基礎
医療法人も、合併は可能である。医療法57条以下による組織再編行為である。
・医療法人の合併について
合併は、法人の種類が同じことが必要である。社団法人相互間、財団法人相互間は可能であるが、社団法人と財団法人間は、法人の種類が異なるので出来ない。
新設合併(新たな法人を設立し、全部が解散する)と吸収合併(一つが存続し、他方が解散する)がありうる。一般には後者が利用される。
社団医療法人の場合は、理事の3分の2の同意と、社員の全員の同意が必要である。財団医療法人の場合は、寄付行為に合併ができることが規定されていることが必要である。財団の場合、寄付行為に合併できることが規定されている場合、理事会の決議方法に特別の定めがなければ、理事の3分の2以上の同意が必要である。
合併には都道府県知事の認可が必要である。また、債権者には広告と個別催告をし、異議が出たときには、弁済するか、相当の担保を提供する必要がある。銀行が異議を出すことがありうるので、この対策が、極めて重要となる。
合併で重要なのは、会社の合併と同じく、「税法適格」かどうかである。「非適格合併」と認定されると、医療法人には法人税が、出資者の院長には所得税が課税されてしまうからである。したがって、まずは、持分を買収して100%子会社にしたうえで、次のステップとして合併を考えることが勧められる。
・企業組織再編成に係る移転資産等の譲渡損益等に関する改正について
3)社員、社員総会、理事、理事会の基礎知識
持分のある医療法人でも、持ち分を持たない社員もあり得る。持ち分の有無と社員の地位が必ずしも一致しないのが医療法人の特徴である。
社員総会では、社員一人一議決権(持ち分の額ではない)、つまり、頭数でカウントされる。議決権は持ち分とは切り離されているので、100%持分の社員も、持分無しの社員も、一議決権である。
また、社員は個人に限られる。他方、出資者(持分所有者)は法人でも可能である。M&Aでは、株式会社が持分を買える。
理事は3人以上、監事は1人以上とされる。理事会は、法定の制度ではないが、厚生労働省のモデル定款では設置している。
理事長は、理事の互選による。原則は、医師または歯科医師であることが必要であるが、知事の認可を得れば、医師以外のものも可能である。プロの経営者も就任可能である。
医療法人の場合、その中に、病院や診療所、介護老人保健施設、老人ホームなどを有することとなるが、それぞれの管理者を理事に加えなければならない(医療法47条の1)。
社員資格を喪失した者は、その払込済出資額に応じて払戻しを請求することができる。定款には、「社員資格を喪失した者は、その払込済出資額に応じて払戻しを請求することができる。」と書かれているからである(モデル定款はそうなっている。医療法人関連法令には一切払戻の規定が設けられていない)。 |