医療法人のM&A

1.医療法人の承継

医療法人は今、社会の激しいうねりの中で、大きな変化を求められている。
その中で、公益性を重視し、持ち分のある医療法人の新規開設ができなくなるとともに、持ち分無き法人への移行が期待されるという、2007年(平成19年)の第5次医療法改正は、医療法人の運営に大きな影響を与えるものであろう。
持ち分は剰余金の配分ができず、現金化できるのは払い戻しを求めるか、解散の時だけなので、収益が蓄積され、病院の承継や相続のときは、納税資金を確保するのが大変となり、遺産分割も紛糾することも多く、持ち分無き法人に移行するほうが望ましいことも多いようだ。しかし、その移行手続きは容易ではない。
当事務所は、法人全般の事業承継が成功するよう、節税対策も含めて、全般的な支援をしている。その中で、医療法人の承継は持分の処理が必要であるなど、一般の事業承継や相続にはない、面倒な問題がある。当事務所は、医療法人の承継を創造的に支援することに、力をいれている。

2.医療機関のM&A

2013年(平成25年)12月、政府の産業競争力会議の医療・介護分科会は検討状況に関する中間報告では、病院や介護施設を一体で運営できる非営利の持ち株会社を認めることが答申されている。
これは、医療法人が多角化する中で、介護関連施設と協働し、相乗効果を効かせて、両者が必要な社会的役割を果たすことが求められているといえよう。
いずれにしても、今は、医療機関の経営力強化や多角化、医療サービスの充実と高度化が強く求められている。そのためには、医療法人のM&Aが、効率的になされることが求められているといえよう。
当事務所は、相手探しを含めて、医療機関のM&Aの総合的な支援に力を入れている。

3.医療機関の再生

医療法人は、社会の変転の中で、経営に苦しんでいるものも少なくない。その再生には、民事再生法のような法的手続きが考えられるが、しかし、このような法的手段は最後の手段と考えるべきである。
法的手続きに頼らない再生方法は沢山あるが、それを的確にアドバイスし、医療機関を確実に再生させられるエキスパーは少ない。当事務所は、その数少ないエキスパートであることを自負している。

医療法について
1 はじめに(医療法人の現状)
  1. 医療法人の99.1%は、社団たる医療法人、残りが財団たる医療法人である。
    社団たる医療法人のうち、持ち分のある医療法人で、その持ち分に制限のないものが93.3%であり、このタイプが大部分といってよい。残りの社団法人は、持ち分に出資額を限度とするという制限のある社団法人(基金拠出型)と、出資持ち分のない社団法人であるが、現状では、これらは極めて少ない。

  2. 圧倒的な多数派である出資持ち分のある社団法人においても、剰余金の配当(株式会社の株式の配当)ができないため、剰余金が積み上がって多額になり、相続が発生すると、相続税が高額になることが多く、そのため相続紛争が発生しやすい。これが多くの民間病院の悩みの種である。
    また、法人社員が退社する時、その出資金払い戻し高額となり、大きな問題が生じる。持ち分は、医療法人の経営の安定性、継続性に、重大な支障となるものである。

  3. 医療法人は、株式会社と違い、本来極めて公的な社会的役割を担っているはずである。そもそも、剰余金が積み上がって、その処理に困るというのも社会的矛盾である。
    そのため、平成19年の第5次医療法改正で、出資持ち分のある医療法人の新設ができなくなった。同時に、今の持ち分のある医療法人は、持ち分のない医療法人に移行することが期待されることとなった。
    ただし、出資持ち分のある医療法人(出資限度額法人を含む)も、当分の間存続することが認められている。
    いずれにしても、医療法人に対する出資は、学校法人に対する出資と同じように、純然たる寄付であり、役員になって、現実的な貢献の対価として、報酬を受け取ることはできても、出資そのものからリターンは受けられない方向に向かうこととなった。

  4. この改革は、医療法人の承継者にとって不利益にみえるが、実際は、むしろ朗報のことが多いはずだ。
    医療法人の持ち分を相続すると、それ以外の遺産はほとんど他の相続人が取得してしまう。すなわち、自分が個人的に使える遺産をほとんど相続できないことになる。時には、逆に、自己資産から代償金を払わなければならないということもあり、話し合いがつかず、深刻な相続争いに発展することも少なくない。
    さらに困ったことに、現金を相続していないと、相続税の財源がないということにもなる。これはかなり深刻な問題となる。
    他方、持ち分がなければ、院長の地位を承継するだけで後継者となれる。院長の地位は、遺産としてはカウントされないからだ。遺産から一般財産を相続できることになり、また相続税の財源に心配することも無くなる。

  5. 2007年(平成19年)の第5次医療法改正では、社会医療法人という類型を新設した。この社会医療法人は、医療法42条の2第1項各号に掲げる要件に該当するものとして都道府県知事の認定を受けているもので、その地域において高い公益性を担う医療を提供するものとされている。
    2013年(平成25年)7月1日現在、全国で203法人が認定を受けている。都道府県別で見ると北海道が24法人で最も多く、以下、大阪が22法人、福岡10法人の順である。逆に認定法人のない県が岩手・茨城・富山・福井・静岡の5県となっている。
    認定要件は厳格であるが、認定されると、本来業務である病院、診療所および介護老人保健施設から生じる所得について、法人税が非課税となり、直接救急医療等確保事業に供する資産について、固定資産税及び都市計画税が非課税となるなど、税法上の優遇措置がある。医療法42条の2第1項柱書に定める収益事業を行うことも認められている。
    社会医療法人の認定について

  6. 他に、特定医療法人がある。これは、租税特別措置法67条の2に基づくもので、持ち分の定めのない社団医療法人と財団医療法人のうち、その事業が医療の普及及び向上、社会福祉への貢献、その他公益の増進に著しく寄与し、かつ、公的に運営されていることにつき、国税庁長官の承認を受けた法人である。
    法人税において22%(通常は30%)の軽減税率が適用される。

  7. 社会医療法人と特定医療法人の制度が整備されたので、従来からの特別医療法人は役割を終えたものとして、平成24年3月31日に廃止されている。

  8. ところで、2013年(平成25年)12月25日、政府の産業競争力会議の医療・介護分科会は検討状況に関する中間報告をまとめた。
    これによると、病院や介護施設を一体で運営できる非営利の持ち株会社を認めることが柱である。その中で、法人による医療法人に対する出資により議決権を取得し、定款に規定することにより議決権を出資額に応じて配分し、さらにグループ内での貸し借りや 債務保証を認めることを提言している。このほか、混合診療の対象を広げることも目指している。
    これは、2007年(平成19年)の第5次医療法改正とは逆行する流れであり、医療法人が将来どの方向に進むかは、よく見極める必要があろう。
 
2 医療法人の組織の特徴
  1. 医療法人では、持ち分のあるタイプが圧倒的であるが、そこでの社員は、持ち分のないものもあり得る。持ち分の有無と社員の地位が必ずしも一致しないのが医療法人の特徴である。
    社員総会では、社員一人一議決権(持ち分の額ではない)、つまり、頭数でカウントされる。議決権は持ち分とは切り離されているのである。
    また、社員は個人に限られる。他方、出資者は法人でも可能である。
    理事は3人以上、監事は1人以上とされる。
    理事会は、法定の制度ではないが、厚生労働省のモデル定款では設置している。
    理事長は、理事の互選による。原則は、医師または歯科医師であることが必要であるが、知事の認可を得れば、医師以外のものも可能である。

  2. 医療法人の場合、その中に、病院や診療所、介護老人保健施設などを有することとなるが、それぞれの管理者を理事に加えなければならない(医療法47条の1)。

  3. 定款は、モデル定款があり、多くの法人は、これによっている。
 
3 出資持ち分について
  1. 社員の地位と持ち分は、前述のとおり必ずしも一致しない。持ち分のある社員と無い社員が混在する法人もありうる。

  2. 出資払い戻しの時は、払戻額から払い込み出資額を差し引いた金額は配当所得となり、20%の源泉所得税がかかる(確定申告が必要となる)。

  3. 途中入会した者が払い戻し請求をする時は、入社時の資産総額に出資額を加え、その時の出資額の総資産に対する割合で、払い戻し請求する時の総資産をわけることになる(判例)。簡単にいえば、法人の開設時でなく自分の入社時に、出資額が全体資産に対していかなる割合があったかで、自分の持ち分割合が決まるのである。

  4. 出資持ち分は資産価値があるので、相続の時は、前述の通り遺産争いになることも多く、また、相続税が多額になり、納税財源に困ることがありうるので、注意を要する。

  5. 出資持ち分を放棄して、出資持ち分の無い医療法人に移行すれば出資持ち分にかかわる問題を避けることができる。
    しかし、放棄に当たって一定の要件を満たさない時は贈与税がかかる。詳細は後述する。

  6. 出資持ち分は、第三者に譲渡可能である。

  7. 少数であるが、出資額を限度として払い戻すと規定している医療法人がある(基金拠出型)。これだと、出資持ち分の財産的価値は出資額に限定され、持ち分にかかわる問題を相当程度回避することが可能となろう。
    さらに定款を変更して、「出資額を限度として払い戻す」と変更することも可能である。ただし、この変更時にも、法人や他の社員に対する贈与税の問題は残る。
 
4 出資持ち分の評価は難問
  1. 持ち分の評価は難問であり、定説があるとはいえない状況である。定款には、「社員資格を喪失した者は、その払込済出資額に応じて払戻しを請求することができる。」と書かれているだけのはずで(モデル定款はそうなっている)、医療法人関連法令には一切払戻の規定が設けられていないのだ。

  2. 税務の実務では、相続税財産評価基本通達に基づいた類似業種比準価格や純資産評価額を使うのが一般的である。その理由は、相続税法に「みなし贈与」の規定があり、相続税法上は財産評価基本通達で計算した金額以上で払戻をしないと、他の出資者に対して贈与税が課税されてしまうからであろう。
    しかし、最判平成22年4月8日は、時価評価に基づく純資産額を基礎としているし、平成7年6月の東京高等裁判所の判例では「土地及び建物については当時の時価によることとし、その余の資産及び負債の額については右同日現在の貸借対照表上のそれを採用する」としており、相続財産評価基本通達で計算した金額とは異なる。当時者の紛争を解決すたるための裁判実務は、相続財産評価基本通達に拠ってはいない。
    結局、税務申告では相続財産評価基本通達に拠るが、紛争解決の場合は別の観点から考えなければならないということになろう。

  3. 算定時期も、重要である。
    税法の規定からすると、「みなし贈与」の規定には「贈与による財産の取得の時期は、財産の提供があった時、債務の免除があった時又は財産の譲渡があった時によるものとする。」とあるので、退社時を基準にすればよいはずである。 医療法人の社員の退社は、社員総会の承認を必要としていないので、社員が辞任の意思表示をした時となる。申告もこの日を基準に申告すればよいことになる(権利確定主義)。
    ところが、平成18年6月の国税不服審判所の裁決では医療法人の退社払戻金は退社日でなく支払いを受けた日で所得申告するとされた。となると、申告実務は、この裁決に従わざるを得ないであろう。

  4. 類似業種比準方式を使う場合の処理
    相続税の算出等において、医療法人の出資持ち分を類似業種比準方式で評価する場合、類似する業種目が見当たらないので、業種目を「その他の産業」として評価することになる。
    取引相場のない株式(出資)を評価する場合の会社規模区分(大・中・小会社の区分)については、医療法人そのものは「サービス業」の一種と考えられることから、「小売・サービス業」に該当することになる。
    医療法人の出資を類似業種比準方式により評価する場合の業種目の判定等
    取引相場の無い株式の評価―国税庁
    財産評定基本通達による具体的評価方法―中小企業庁
    財産評定基本通達

  5. 持ち分価値の増減
    相続の時は、持ち分価値が低いほうがよいが、M&Aの時は、高いほうがよい。
    手っ取り早い減額方法は、退職金の支給であり、増加は、生命保険金の解約返戻金の取得であろう。
    中・長期としては、MS法人(メディカルサービス法人)を設立し、家族を役員として、所得の分散を図ると効果的である。
    病院用地や建物を購入するのも、減価には効果がある(病院は、収益物件を持てない。また、取引後3年間は取引価格により、相続税評価は使えない)。
    後継者に持ち分を贈与したい時には、評価が低下した時に後継者に持ち分を贈与し、相続時精算課税制度を利用すると効果的なことも多い。
    持ち分の譲渡には、20%の課税となるので、毎年少しずつ譲渡するほうが、相続税の負担より軽いことも多い。
 
5 出資持ち分の無い医療法人への移行と贈与税、並びに相続対策
  1. 出資持分のない医療法人は、退社時の出資持分の払戻請求がないため、医療法人の経営の安定性、継続性が確保し、深刻な相続問題を回避できることは、前述した。持ち分に関する問題を解決する抜本的な方法は、持ち分無き医療法人に移行することである。
    出資持ち分の無い医療法人への円滑な移行マニュアルー厚生労働省

  2. しかし、持ち分の無い法人に移行するためには、出資持ち分の放棄が伴うので贈与税の課税リスクが生じる。
    一定の要件をクリアすれば贈与税を回避できるが、その要件は後述のとおり厳しい。
    特定医療法人へ移行できれば贈与税は課税されないので、40床以上ある病院では特定医療法人への移行を考えた方が容易なことも多いようだ。

  3. 贈与税を回避することが無理だとしても、持ち分の無い法人に移行することを断念すべきではない。
    なぜならば、相続が発生して相続人に払い戻しをすることに比べると、医療法人にとっての負担は、贈与税の負担のほうが格段に少なくてすむからである。
    となれば、贈与税を支払っても持ち分無き法人となり、相続対策をするという選択肢も十分に意味のあることである。

    贈与税の計算例
    出資持分の評価額が1億円、出資者はAとB、持ち分がそれぞれ9000万円と1000万円とする
    (評価額は相続税財産評価基本通達による)
      Aの出資持分評価額 9,000 万円
       (イ)(9,000 万円−110 万円)×50%−225 万円=4,220 万円
      Bの出資持分評価額 1,000 万円
       (ロ)(1,000 万円−110 万円)×40%−125 万円=231 万円
      納付すべき贈与税額 (イ)+(ロ)=4,451 万円 となる。
     仮に、払い戻しをすれば1億円が出ていくことになる。
     贈与税による支出であれば、その45%弱の、負担で済むこととなる。

  4. M&Aの活用
    出資持ち分のある医療法人は、自ら持ち分の無い法人に移行することが困難だとしても、出資持ち分の無い医療法人(特定医療法人、社会医療法人等)への合併をするという選択肢がある。これによれば、効果的に持ち分の無い法人に移行できる。
    ただし合併には、総社員の同意が必要なので(医療法47条)、反対社員の持ち分は払い戻し、あるいは、スポンサー等による買い取りが必要となる。

  5. 贈与税回避の要件
    特定医療法人に移行しないまま、贈与税を払わずに持ち分を放棄できれば、移行は容易である。しかし実際は、その要件は厳しい。
    端的に言えば、社会医療法人、又は、特定医療法人の要件に準じる状況があることが必要となるのだ。
    医療の合併について

    次に、その要点を示そう。
    税法適格の要件
    1. 一定の事項が定款等に定められていること
      (1)医療法人の「運営組織が適正である」こと(相令33B一)
      A 理事の定数は6人以上、監事の定数は2人以上であること。 B 理事及び監事の選任は、例えば、社員総会における社員の選挙により選出される
      など、その地位にあることが適当と認められる者が公正に選任されること。
      C 理事会の議事の決定は、次のEに該当する場合を除き、原則として、理事会において理事総数(理事現在数)の過半数の議決を必要とすること。 D 社員総会の議事の決定は、法令に別段の定めがある場合を除き、社員総数の過半数が出席し、その出席社員の過半数の議決を必要とすること。 E 次に掲げる事項(次のFにより評議員会などに委任されている事項を除く)の決定は、社員総会の議決を必要とすること。この場合において、次の(E)及び(F)以外の事項については、あらかじめ理事会における理事総数(理事現在数)の3分の2以上の議決を必要とすること。
      (A)収支予算(事業計画を含む)
      (B)収支決算(事業報告を含む)
      (C)基本財産の処分
      (D)借入金(その会計年度内の収入をもって償還する短期借入金を除く)その他新たな義務の負担及び権利の放棄
      (E)定款の変更
      (F)解散及び合併
      (G)当該法人の主たる目的とする事業以外の事業に関する重要な事項
      F 社員総会のほかに事業の管理運営に関する事項を審議するため評議員会などの制度が設けられ、上記(E)及び(F)以外の事項の決定がこれらの機関に委任されている場合におけるこれらの機関の構成員の定数及び選任並びに議事の決定については次によること。
      (A)構成員の定数は、理事の定数の2倍を超えていること
      (B)構成員の選任については、上記(1)のBに準じて定められていること
      (C)議事の決定については、原則として、構成員総数の過半数の議決を必要とすること
      G 上記CからFまでの議事の表決を行う場合には、あらかじめ通知された事項について書面をもって意思を表示した者は、出席者とみなすことができるが、他の者を代理人として表決を委任することはできないこと。 H 役員等には、その地位にあることのみに基づき給与等を支給しないこと。 I 監事には、理事(その親族その他特殊の関係がある者を含む)及び評議員(その親族その他特殊の関係がある者を含む)並びにその法人の職員が含まれてはならないこと。また、監事は、相互に親族その他特殊の関係を有しないこと。

    2. 事業運営及び役員等の選任等が定款等に基づき行われていること

    3. その事業が社会的存在として認識される程度の規模を有していること
      医療法(昭和23年法律第205号)第1条の2第2項に規定する医療提供施設を設置運営する事業を営む法人で、その事業が社会医療法人を想定した基準又は特定医療法人を想定した基準の要件を満たすもの。

      社会医療法人を想定した基準を採用する場合
      社会保険診療等に係る収入金額が全収入金額の80%以上
      ※社会保険診療等に介護保険・助産に係る収入金額を追加
      自費患者に対する請求方法が社会保険診療と同一
      医業収入が医業費用の150%以内
      役員及び評議員に対する報酬等の支給基準を明示
      病院又は診療所の名称が4疾病5事業に係る医療連携体制を担うものとして医療計画に記載

      特定医療法人を想定した基準を採用する場合
      社会保険診療等に係る収入金額が全収入金額の80%以上
      自費患者に対する請求方法が社会保険診療と同一
      医業収入が医業費用の150%以内
      役職員に対する報酬等が3,600万円以下
      ・(病院の場合)40床以上又は救急告示病院
      ・(診療所の場合)15床以上及び救急告示診療所
      差額ベッドが全病床数の30%以下

      相続税又は贈与税の負担が不当減少の時
      「相続税又は贈与税の負担が不当減少」がyesであれば、医療法人を個人とみなして贈与税課税。
      不当減少の判定は政令(相令33B)による(相法66E)。

      (1)同族親族等関係者が役員等の総数の3分の1以下であること(相令33B一) yesなら、(noであれば贈与税課税。以下同じ)
      (2)医療法人関係者に対する特別利益供与が禁止されていること(相令33B二)
      ※法令解釈通達16(P116)により判定
      yesなら、
      (3)残余財産の帰属先が国、地方公共団体、公益法人等に限定されていること(相令33B三) yesなら、
      (4)法令違反等の事実がないこと(相令33B四) yesなら、不当減少とはならず医療法人に対して贈与税の課税はされない。

      以上の通り、贈与税回避の条件は厳しいが、持ち分の放棄は社員総会で決議をえる必要があるだけでなく、反対の社員の持ち分を強制的に取り上げることができないので、どうしても反対する社員の持ち分については、それを買い取る必要があることを忘れてはいけない。

    平成25年税制改正で、医療法人の持ち分に関し、相続税・贈与税の納税猶予制度が創設されたことに注目!
    平成25年度税制改正(租税特別措置)要望事項
 
6 事業承継とM&A

病院統合事例の検討
  1. M&Aの利用法
    医療法人のM&Aは,後継者がおらず事業承継の必要がある場合、あるいは、相続対策が必要な時は、M&Aを考慮すべきである。
    持ち分の無い医療法人に移行する方法として、手っ取り早いのは前述のとおり、持ち部の無い法人に合併ししまうことである(反対者の持ち分の買い取りは必要)。M&Aの活用例である。
    病床過剰地域では増床が許可されないので、病院事業の拡大のためには、M&Aが必須となる。
    経営支援として資金を注入すらためにも、M&Aは重要な選択肢である。負債が過大でも、病院の敷地を事業価値に組みこむなどをしてM&Aを展開できる。M&Aは、病院の経営の立て直しのために、重要な手段である。

  2. M&Aの手法
    @ 持ち分の譲渡と役員の交替 最も簡明であり、よく利用される。譲受人は持ち分保有者となる。
    対価は、持ち分の価値が基準となる。
    退職金が対価に代わることもありうるであろう。
    A 持ち分が無い医療法人の場合は、役員の交替で処理できる。
    院長及び理事は、退職金が事実上の対価となる。
    B 事業譲渡
    ・医療法人内で個別の施設を譲渡するタイプである。
    ・別法人に事業を譲渡し、旧法人は、解散するか、事業を縮小して続行する。
     財産、契約関係、債権債務、労働契約等を、個別に移転し、個別に対抗力を取得する必要がある。
     そのため、実務処理は煩雑となる。
    ・譲渡人は医療法人である。譲渡価格の設定は、譲渡会社の債権者たる銀行の取れる金額となる。
     銀行との折衝が極めて重要である。
    C 合併
    7. 合併の手続きで説明する。
    D 個人病院のM&Aでは、買い手の側で新規開設手続が必要となるが、この手続きは厄介なため、法人化してからのM&Aをすることが多い。

  3. M&Aの対価
    M&Aにおいては、持ち分や、理事長の地位の対価を考える必要である。しかし、道分の価値について前述したとおり、その算定は容易ではなく、計算方法が、決まっているわけではない。
    相続や贈与を想定した持ち分の評価については、前述したが、これも参考にできる。
    しかし、M&Aの場合は、第三者との取引であるから、まず、財産を適切に評価して、時価純資産価格を出すことが基本になるはずである。しかし、これは、収益力が加味されていないので、営業権(のれん)を加えることを考えるのが普通である。
    しかし、この「のれん」の評価も難しい。収益還元法やDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)を使うことが多いが、その結果も参考であり、これらを総合しながら、買い手と売り手の間の交渉で、最終的に決めることとなる。
    ことに病院の場合、その地域を長年支えたというブランドが貴重であり、それをいかに、対価に反映させるかが検討課題となる。

  4. M&Aを考える場合、誰に頼めば良いのか
    M&Aの仲介は、専門の業者がいる。しかし、M&Aも仲介に、ライセンスは不要であるし、業法も、監督官庁も無い。全く野放し状態である。そのため、M&Aの仲介業者は、ピンからキリまでである。
    また、監督官庁によるガイドラインさえ用意されていないので、一社の仲介業者が売り手と買い手の双方代理をし、あるいは、利益相反行為を平気で行っているという、呆れたケースが目立つ。
    当事務所は、そのような現状を是正するため、売り手、買い手のいずれかから依頼を受けた場合、いかなるスキームでM&Aを勧めたらよいかを十分検討したうえ、自らの人脈を駆使し、あるいは、十分に信頼できるM&A仲介業者に声をかけて、相手を探すことにしている。
    これにより、適格な相手を探すことができるとともに、買い手、売り手別個の代理人が立つこととなり、それぞれの利害を的確に保護しながら、最適のM&Aを実現することを、目指しているものである。

  5. 注意すべき医療機関以外の債権者による間接経営
    大口債権者が診療報酬債権を譲渡担保に融資し、病院の敷地、建物を買い取って賃貸人となり、MS法人(メディカルサービス法人)に出資持ち分を持たせ、経営は第三者に任せるというスキームにより、間接的に病院を運営するという手法が時々見られる。
    金融機関や投資ファンドや企業法人が使う手法である。
    これも合法的なM&Aであるが、医療機関以外のものが病院経営の主導権を握るので、病院としての社会的な使命を全うできるか、疑問を感じることもある。
    しかし、豊かな資力により経営できることから、医療に関する適格な理念を有していれば、社会的使命を十分果たすことも可能であろう。
    譲渡側が、相手を選ぶ適切な選択眼を持っていることが望まれるところである。
 
7 合併の手続き
  1. 医療法57条以下による組織再編行為である。
    医療法人の合併について

  2. 社団法人相互間、財団法人相互間は可能であるが、社団法人と財団法人間は、出来ない。
    新設合併(新たな法人を設立し、全部が解散する)と吸収合併(一つが存続し、他方が解散する)がありうる。

  3. ・社団医療法人の場合は、理事の3分の2の同意と、社員の全員の同意が必要である。財団医療法人の場合は、寄付行為に合併ができることが規定されていることが必要である。 ・財団の場合、寄付行為に合併できることが規定されている場合、理事会の決議方法に特別の定めがなければ、理事の3分の2以上の同意が必要である。 ・都道府県知事の認可が必要である。 ・債権者には広告と個別催告し、異議が出たときには、弁済するか、相当の担保を提供する必要がある。
    銀行が異議を出すことがありうるはずである。この対策が、極めて重要となる。

  4. 税法適格
    会社の合併と同じく、税法適格かどうかが重要である。「非適格合併」と認定されると、医療法人には法人税が、出資者の院長には所得税が課税されてしまうからである。 合併した医療法人の関係によって、3つに分けられ、それぞれの要件は異なる。なお、これらは、主たる要件であり、実際は、さらに細かな要件が存在する。
    企業組織再編成に係る移転資産等の譲渡損益等に関する改正
    100%子法人の医療法人との合併
    適格要件は、親会社の出資者である院長(理事長)が持ち分を売却せずに持ち続けていることである
    50%超 100未満のグループの医療法人との合併
    主たる要件は、合併後、院長(理事長)が、合併後も、50%超、100%未満の出資を継続すること。かつ、 消滅する医療法人の看護師や社員の総数の概ね80%以上が、そのまま働き続けること
    互いに持ち分の所有がない合併
    一番多いパターンである。
    主たる要件は、
    @ 消滅会社に出資している院長(理事長)には、存続する医療法人の出資持分だけを渡すこと(現金等は渡さない)。 A 存続する医療法人が、消滅する医療法人の売上金額、看護師などの従業員数、出資金の額の比率が概ね5倍を超えないこと、又は消滅する医療法人の院長などが存続する医療法人の役員になること。
    この点のクリアが難しい場合は、合併をあきらめ、一方を100%子法人としておくことである
    B 消滅する医療法人の看護師や社員の総数の概ね80%以上が、存続する医療法人で、そのまま働き続けること C 合併後、役員が出資持分を売却しないこと。
 
8 病院の再生、立て直し
  1. 日本の医療機関は、院長が医師であることが原則であるが、医師の技量と経営者としての手腕が、必ずしも一致しない。
    医療機関が危機に陥った場合、如何にその危機を克服するかのノウハウが欠落していることが多い。
    その時は、優れた、外部からの支援が必要となるようだ。
    次に示すものは、立て直しのスキームの基本であるが、これらのどの手段を選択して、どのように立て直すかは、すぐれた外部の専門家の支援が必要となろう。

  2. 症状が軽度
    @ 金融機関からの借り入れを取得する、医療機関債を発行する、あるいは補助金を取得するなどして、財務力を強化する。
    医療機関債の利用状況
    医療機関債発行における消費者保護について
    A MS法人(メディカルサービス法人)を設立する。医療機器等、医院や施設の賃貸のリース、経営や施設管理、医薬品や医療関連費品の販売、レセプトの請求事務代行、給与計算代行をさせる。
    家族を役員として、所得の分散を図る効果的があるが、医療法人とのシナジーを利かすことにより、営業力強化に効果が大きい。
    MS法人は、独自に融資を受けることができるとともに、少人数私募債の発行ができる。これらにより、物的設備を購入し、医療法人に賃貸することができる。
    また、消費税の節税には、効果が大きい。すなわち、MS法人に業務委託することにより、人件費が外注費に代わるので、MS法人において消費税を節税できる。MS法人が医療機器を購入し、医療法人にリースすると、医療法人では、診療報酬は非課税売り上げであるが、MS法人にとっては、リース料は、課税売上なので、消費税の節税となる。さらに、MS業者が消費税税事業者(課税売上1000万円未満)、簡易課税事業者(同5000万円以下)の適用を受けられれば、消費税の節税はさらに効果的である。
    B 業務提携で、分業による相乗効果を狙う。

  3. 症状が中度
    M&Aその他の事業再編で、スポンサーの資金力や営業力により、再生を図る。

  4. 症状が深刻
    @ 特定調停(簡易裁判所に申し立て)で、債権カットと条件変更を求める。M&Aとセットが普通である。
    次の民事再生と異なり、金融機関等の特定の債権者だけを相手にできる。
    世間的には、破綻とは見られない。
    A 民事再生を地方裁判所に申し立てる。スポンサーを確保するM&Aとセットが普通である。債権カットをし、資金力を確保して再建ができる。
    ただし、取引先を含めた、全債権者が対象となるとともに、手続き、スケジュールが裁判所に決められてしまうし、半年以内に再生計画の認可を得る必要を得る必要があるなど、拘束が大きい。
    B 銀行の貸付債権をスポンサーに、担保付き、保証付きで購入してもらって解決する。C 他の医療法人に事業を譲渡し、旧法人を破産で清算する(債権者の協力が得られれば、特別清算も可能)。

  5. 医療機関の場合、M&Aを遂行するに当たっては、地域の「医療計画」を、十分に認識しながら進めることが必要である。
    医療計画
 

M&A・企業再生・民事再生の弁護士-金子博人法律事務所