学校法人には事業会社の株式に当たるものが無いので、法人自体の譲渡は役員の入れ替えによる支配権の承継により実行される。
退職する理事長及び理事、監事の退職金が事実上の対価となる。ただし、退職金以外に、何らかの名目で対価が支払われることも多いが、課税上の問題を検討しておく必要がある。
企業が学校法人を買収するには、理事の過半数を自己の支配下に置き、理事会を支配することが必要である。
理事は,学校法人においては,5人以上置くこととされている(私立学校法35条)。
その理事は,
- 校長(学長及び園長を含む),
- 当該学校法人の評議員のうちから,寄附行為の定めるところにより選任された者
- その他寄附行為の定めるところにより選任された者(実際には学識経験者,学園の功労者,関連する宗教法人の役員などが多い)
から選任することとされている(同法38条1項)。
評議員が必ず理事となるので、理事会を支配するには、評議員会を支配する必要がある。
評議員となるものは次に掲げる者である(同法44条1項)。
-
当該学校法人の職員のうちから、寄附行為の定めるところにより選任された者
-
当該学校法人の設置する私立学校を卒業した者で年齢二十五年以上のもののうちから、寄附行為の定めるところにより選任された者
- 前各号に規定する者のほか、寄附行為の定めるところにより選任された者
なお、理事が評議員を兼ねることは可能であるが、評議員は、理事の2倍越えの数が必要なので、評議員会を支配するには職員も支配下に置くことが必要となる。
また、教職員の他に卒業者も評議員に入っているため、学校の買収には、財務面だけでなく、学校の教育理念や学風、運営スタイル、後援会のような文化面の調整も必要である。
なお、監事は2名以上必要で、評議員会の同意を得て理事長が選任するが、役員または職員でないものが含まれる必要がある(同法38条)。
M&Aの場合、寄付行為(会社の約款に当たる)をよく点検し、理事の選任、退任手続きを確認しておく必要がある。
例えば、「6名の理事のうち評議員会で選任した理事が2名、卒業生から1名、校長は自動的に理事になる」というような例が多い。
これだと、創業者(開設者)一族の意志に反するような決定が出る可能性があり、創業者やその後継者が学校を売却しようとしても、教職員や卒業生が反対して、深刻な内紛が発生することが少なくないことを知ってほしい。
前述のとおり、理事や評議員に有力な人材を送り込めれば、会社でも学校を買収できるのである。
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