学校法人のM&A
少子化と学校間の競争の激化の中で、学校の生き残りは厳しいものとなっている。その中で、高度で充実した教育を提供するという使命を全うするのは大変であり、学校経営については、根本的な改革が求められている時代となっている。
経営者が高齢化し、M&Aによる事業承継が必要となっている学校も少なくない。
また、私立学校の半数近くは、経営に苦しんでいるという現実もある。しかし、学校の再生には、民事再生というような法的手段は最後の手段であり、法的手段に頼らない再生方法をまず考えるべきである。とはいえ、学校という特殊性から、学校の再生を手がけられるエキスパートは少ない。
当事務所は、学校の平素の経営支援、さらに、M&Aを基軸にしての運営改革の支援に力を入れている。
また、学校の再生については、法的手段に頼らない方法を優先して、様々な方法を検討しながら、その再生の実現に力を入れている。
1 なぜ学校法人にM&Aか?

少子化と学校間の競争の激化の中で、学校の生き残りは厳しいものとなっている。その中で、高度で充実した教育を提供するという使命を全うするのは大変な時代となっている。
社会は激変している。社会が学校に期待し求めるものも激変している。
学校経営は今や根本的な改革が求められている時代にある。そのためには、学校法人も経営力を強化し、あるいは、新たな分野を開拓するなどの努力が必要である。M&Aは、そのための極めて効果的な手段である。
また、経営者が高齢化し後継者がいないことで悩んでいる例も多い。M&Aによる事業承継が必要な学校は少なくないはずである。
競争の激化の中で、経営状態が危機的な学校も少なくないようだ。その救済のためには、M&Aが決め手となることは多い。
学校経営者は、M&Aはいかなるものか、それがいかなる場合に活用できるか、知っておくべきである。

 
2 会社も学校を買収できる!

日本電産創業者の永森重信氏が京都先端科学大学の理事長に就任し、将来の人材育成に尽力していることはよく知られている。
社会の激変に対し、教育関係者の努力だけでは追いつかないのも事実であり、企業による学校法人の買収は今後増えるはずである。
企業が学校を保有することは十分可能である。なぜなら、学校は、人事権を握ればそこを支配できるからである。逆に言えば、人事権を失えば創業一族でさえ、なんの関与もできなくなるのである。
とはいえ、後述する通り、教職員や卒業生が構成員となる評議員会が人事に影響を与えるので(理事には評議員が必ずいなければなない)、学校の買収には、財務面だけでなく、学校の教育理念や学風、運営スタイル、後援会のような文化面と、自己の買収理念との調整が必須である。

 
3 仲介業者に依頼する前に知っておくべきこと
1)仲介業者任せは危険

学校法人の理事長や校長のもとには、普段から仲介業者のダイレクトメールが届いているはずだし、ネットでいくらでも仲介業者を見つけることができる。しかし、だれが自分にとって適切かの判断は難しいはずだ。
実は、M&Aの仲介者にはライセンスは不要である。不動産の仲介には宅建のライセンスが必要だが、法人の仲介には不要なのだ。したがって業法もなく、監督官庁もない。そのため、M&Aの仲介者はピンからキリまであるので、そのことをよく認識しておく必要がある。
仲介業者には上場している大手も数社あり、中小の業者となれば星の数ほどもある。まず、大手、中小のどちらがバターかであるが、それは一概には言えない。大手は、相手を探す能力も高く、業務に精通している。ただ顧客が多いので、「おいしい仕事」でないと、きめの細かい仕事をしてくれない危険がある。中小の仲介者は手持ちの顧客は少ないが、横のルートもあるので結構相手の探索に力のあるところも多い。小さな案件でも、丁寧な仕事をしてくれる可能性もある。とはいえ、不動産業者が片手間で行っているようなものも多く、「当たり外れ」が大きいというのが現実である。
そして、大手でも中小でも最大の問題は、「利益相反」になりやすい点である。仲介業者は、大小にかかわらず、売り手、買い手両者から依頼を受け、仲介をしたがる。不動産の仲介者も好む「両手」という状態である。これだと、売り手、買い手両者から仲介手数料をダブルで得られるが、これでは、いうまでもなく「利益相反」になりかねない。
本来、売り手、買い手双方に別々の仲介者が付くことが理想である。その場合でも、仲介業者は成約優先となりがちで、当事者の利益を十分に考慮して仕事ができるかはかなり疑問である。
また、法人取引を仲介するM&Aは不動産の仲介より検討すべき項目は多く、契約関係は複雑である。ところが、契約書を仲介業者が自ら作成することが多く、一旦トラブルが生じると、契約書が不備で、それが役にならないだけでなく、かえってトラブルを深刻化させるという例をよく見かける。注意すべきポイントである。

2)プロのアドバイザーの重要性

M&Aで理想的な姿は、プロのアドバイザーが、売り手、買い手それぞれについて、立案の段階から支援するものである。
誰を仲介者に選ぶかはM&Aの成否を決する重要なポイントであるが、有能なアドバイザーはその選択眼があるし、その件に適した仲介業者を探索するノウハウを有している。というより、有していないと的確な支援ができない。
有能なアドバイザーは、売り手の価格設定が適切かどうか判断できるし、その買収が買い手企業にとって本当に有意義かどうか、総合的に判断できる。デューデリジェンスを効率的に誘導できるし、的確な契約書を作成できる。
アドバイザーは、弁護士や公認会計士などが務めるはずであるが、実際は残念ながら、それができる能力あるものが僅少なのが今の日本の現実である。そのため実際は、M&Aの仲介業者だけが仕切ってしまうのが残念である。
当事務所は、プロのアドバイザーとして、的確な支援ができると自負している。
ところで、仲介業者が、アドバイザーの付くことを妨害するというケースも散見される。仲介業者としては、自分の都合のいい運用ができないからであろう。残念なことである。
なお、M&Aが他の学校法人等からの買収の申し入れからスタートすることも少なくない。ただ、この時も、値段の交渉や条件交渉、契約書作成などは当事者だけではうまくいかないことが多く、やはり仲介者やアドバイザーが必要である。

 
4 学校法人のM&Aの手法

学校法人のM&Aは、学校法人間だけでなく、前述のとおり個人や営利法人が学校を買収できる。
M&Aの手法としては

@ 法人譲渡―役員の入れ替え

学校法人には事業会社の株式に当たるものが無いので、法人自体の譲渡は役員の入れ替えによる支配権の承継により実行される。
退職する理事長及び理事、監事の退職金が事実上の対価となる。ただし、退職金以外に、何らかの名目で対価が支払われることも多いが、課税上の問題を検討しておく必要がある。
企業が学校法人を買収するには、理事の過半数を自己の支配下に置き、理事会を支配することが必要である。
理事は,学校法人においては,5人以上置くこととされている(私立学校法35条)。
その理事は,

  1. 校長(学長及び園長を含む),
  2. 当該学校法人の評議員のうちから,寄附行為の定めるところにより選任された者
  3. その他寄附行為の定めるところにより選任された者(実際には学識経験者,学園の功労者,関連する宗教法人の役員などが多い)
    から選任することとされている(同法38条1項)。

評議員が必ず理事となるので、理事会を支配するには、評議員会を支配する必要がある。
評議員となるものは次に掲げる者である(同法44条1項)。

  1. 当該学校法人の職員のうちから、寄附行為の定めるところにより選任された者
  2. 当該学校法人の設置する私立学校を卒業した者で年齢二十五年以上のもののうちから、寄附行為の定めるところにより選任された者
  3. 前各号に規定する者のほか、寄附行為の定めるところにより選任された者

なお、理事が評議員を兼ねることは可能であるが、評議員は、理事の2倍越えの数が必要なので、評議員会を支配するには職員も支配下に置くことが必要となる。
また、教職員の他に卒業者も評議員に入っているため、学校の買収には、財務面だけでなく、学校の教育理念や学風、運営スタイル、後援会のような文化面の調整も必要である。
なお、監事は2名以上必要で、評議員会の同意を得て理事長が選任するが、役員または職員でないものが含まれる必要がある(同法38条)。
M&Aの場合、寄付行為(会社の約款に当たる)をよく点検し、理事の選任、退任手続きを確認しておく必要がある。
例えば、「6名の理事のうち評議員会で選任した理事が2名、卒業生から1名、校長は自動的に理事になる」というような例が多い。
これだと、創業者(開設者)一族の意志に反するような決定が出る可能性があり、創業者やその後継者が学校を売却しようとしても、教職員や卒業生が反対して、深刻な内紛が発生することが少なくないことを知ってほしい。
前述のとおり、理事や評議員に有力な人材を送り込めれば、会社でも学校を買収できるのである。

A 事業譲渡方式

学校校法人内の、個々の学校だけを譲渡する場合である。学校の設置者が変わるので、設置者変更の認可が必要となる。買い手は、学校法人に限られる。
別法人に事業を譲渡した後には、旧法人は解散するか、事業を縮小して続行する。
この場合、財産、契約関係、債権債務、労働契約等を個別に移転し、個別に対抗力を取得する必要がある。そのため、実務処理は煩雑となる。
譲渡人は学校法人である。この時は、事業の対価が重要となる。利害関係人は専ら銀行であるが、銀行は回収可能性の観点から対価を主張するので、その時の交渉が重要となる。
譲渡価格の算出には、多様な考え、手法がありうるが、基本は、純資産価値に「暖簾」が加わったものが基準になる例が多い。この場合、資産は時価で評価するのが一般的な実務である。また、暖簾は将来の収益力を評価するものであり、収入の3〜5年分くらいが目安とするのが一般的である。
学校の運営の基礎は不動産という資産なので純資産がベースとなるのは自然であるし、収入構造が単純なので、収入をベースとする暖簾を加えるのも自然だからである。

B 合併方式

私立学校法52条から57条に基づき、学校法人間では合併も可能である。
新設合併(新たな法人を設立し、全部が解散する)と吸収合併(一つが存続し、他方が解散する)がありうるが、後者が一般的である。
理事の3分の2の同意が必要である。定款で評議員の同意が必要な時は、その同意も必要である。また、所轄官庁の認可が必要である。
退任する理事があるときは、その退職金も必要である。
債権者には広告するほか個別催告し、異議が出たときには原則として、弁済するか、相当の担保を提供する必要がある。
合併で特に注意しなければならにものに、「税法適格」がある。会社の合併と同じく、「税法適格」かどうかが重要である。「非適格合併」と認定されると、学校法人には法人税が課税される余地が出る。そのため、会計処理としては、合併を「人格の合一」ととらえ、簿価を引き継ぐパーチェス法(他に、現物出資的にとらえる持ち分プーリング法がある)を取ることとなる。

 
5 M&Aの流れは知っておくべきもの!

売り手側、買い手側のいずれも、仲介業者を通じて相手を探すのが普通である。仲介業者は秘密保持契約をして受任するが、売り手側仲介人は、まず、ノンネームシート(企業名は匿名化するが、セールスポイントを記載)を作成して相手を探索する。この時、売り手の希望価格を明らかにしておく必要があるが(役員の交代だけで実行できるときは、退職金の合計となる)、高すぎると良い買い手を逃がすことになるので、価格設定はよく吟味し、妥協できる価格範囲も検討しておく必要がある。
買い手候補者が登場すると、秘密保持契約書を取り交わして、過去3年間の財務諸表や会社案内程度の資料を渡して検討してもらう。そして、その候補者がさらに興味を示せば、書面でのデューデリジェンスに入る。ただし、売り手が、その候補者には売りたくないということは少なくなく、この時には交渉は終了する。
書面でのデューデリジェンスは重要である。買い手はこの結果に基づき、買い取り代金を含めて買っていいかどうか決定し、基本契約を結ぶことになるからである。
書面でのデューデリジェンスでは、財務諸表、元帳、償却台帳、教職員名簿、教職員の実績、学生の応募状況、卒業生の就職先、不動産目録、謄本類など広範な検討をする。
そして、売り手、買い手側で売買の話がまとまれば基本契約締結となる。
この時までに、トップ同士の顔合わせをするのが普通であるが、そのタイミングはケースバイケースである。
基本契約は売買予約の性格を持つので、契約の骨子は後の本契約とほぼ同じとなる。そこでは、代金額を決めるし、当時者は手付放棄、倍返し(手付は代金の10%くらい)で離脱できるようにするのが普通である。また、この時、教職員をどうするか、つまり、雇用を継続するかどうか、経営陣が残留するかどうかなども決めることとなる。
譲渡については、基本契約締結までに理事会決議を得る必要がある。
基本契約の締結後は、本格的デューデリジェンスとなる。それは、公認会計士が現地で元帳、償却台帳の原本チェックをするだけでなく、その基礎となる帳票類のチェック、契約書等の原本チェックなども行う。
その目的は、粉飾決済や簿外債務の発見が中心となる。ことに簿外債務は、保証債務、取引先や顧客からの損害賠償請求、労使紛争、税務上の問題(滞納、追徴課税など)などから発生することが多く、調査内容は広範である。
本格的デューデリジェンスは費用と時間が必要なので、これを省略して書面デューデリジェンスだけで買収してしまう例もよくある。しかし、あとで粉飾決済や簿外債務が出てきても責任を問えなくなるので注意すべきである。
本格的デューデリジェンスの結果、互いに契約を実行してよいとなれば、本契約となる。検討の結果、契約意欲が消滅することもあり得る。その時は、手付放棄、または、倍返しで、契約から離脱できる。もちろん、相手に重要な信義則違反があれば、手付解約でなく、債務不履行の解約となる(損害賠償も発生する)。
本契約が締結されると、次に引き渡し、登記、知事(大学、高専は国)の認可等の、法人承継の実行となる。クロージングと言われるもので、すべてが完結したときに、売買の残代金の支払いとなる。
この間に、教職員に対し売却の事実を告知することになるが、いつ、どのように告知するかについては、よく段取りしておくべきである。進駐軍のように乗り込んで大量退職者が出てしまうような失敗例を時々耳にする。
なお、監督官庁の認可をスムースにいるため、早めに監督官庁と折衝を開始しておくことが望まれる。

 
6 救済型M&Aは重要!

少子化の中で学生数が減少し、経営に行き詰っている私立学校も少なくないといわれる。これらの私立学校を再生建する手段としては、様々な手段がありうるが、そのなかでもM&Aは重要な手段である。
経営の行き詰まりが深刻で債権カットが必要な時は、まずは、M&Aとセットで、特定調停(簡易裁判所に申して)を考えるべきである。
この場合、民事再生法で債権カットを求めることは避けるべきである。取引先を巻き込むし、倒産とみられるので学生に対する影響も大きい。手続きも裁判所に定められ、柔軟性に欠けるからである。
特定調停は、相手を金融機関に限定して裁判所に申し立てることが出きるので、取引先を巻き込まなくてすむし、生徒に対する影響の最小に抑えることができる。また、手続きが柔軟であるため、利用範囲は大きい。
ところで、学校法人の中では、日本私立学校振興・共済事業団から借り入れを受けているケースが多いはずである(約1300校が借り入れを受けているという)。しかし、経営再生のために債権カットが必要な時、この種の公的機関から債権カットを受けることは事実上不可能なので、注意を要する。民事再生や特定調停では、債権カットを含む再生案に対し、反対ないし不承諾となることを知っておくべきである。
金融機関と話し合いがつかない場合は、法人内の学校の事業を事業譲渡して、法人は、破産で処理するという方法もありうる。これだと、学生、教職員、学校施設全体をまとめてスポンサーに譲渡するので、悪影響を最小限に押させることができる。ただ、基本財産の処分を含むので、理事総数の3分の2以上の特別決議が必要であるし、事業譲渡につき所轄庁の認可が必要である。
銀行借り入れが不良債権化している場合は、金融機関から債権をスポンサーが買い取る(サービサーを介する)という手法もありうる。この場合も、世間的には、倒産とは見られないので、生徒に対する影響を抑えることができる。

 

M&A・事業再生の弁護士-金子・福山法律事務所