海外移転支援
第4部 海外展開と税務

<1.基礎知識>

1.注意すべきクロスボーダー税制のポイント
  1. 外国子会社配当益金不算入

    • 外国子会社から受け取る配当を免税とする制度。
    • 日本は、2009年外国子会社配当益金不算入(配当の95%が免税)導入。
    • 主要先進国で、配当に課税されるのは、米国と中国だけとなったが、両国とも、外国税控除を採用している。
  2. 資本参加免税

    • 個別の無形・有形固定資産の譲渡では、日本も含め、源泉国での譲渡益課税があるのが普通。
    • しかし、資本参加免税により、譲渡益課税が免税または軽減する国が多い。

    ※日本は、非居住者(法人含む)について、日本国内で発生した所得に対して源泉税を課している。      
    配当(非上場)、利子収入、組合からの配分は、20.42%である。      
    不動産の譲渡は、価格の10.21%(価格が1億円未満で、個人の買い主が自己または親族の居住用に買う場合を除く)

  3. 支払利子の損金算入規制、源泉税

    • 日本は、規制が無い。
    • 損金算入に規制がある国がある。
      例えば、デット・プッシュ・ダウンのみを目的とする時算入制限
    • 利子の支払いに、源泉税が課される国がある。
  4. 過小資本税制

    • 海外子会社に資金供給する時、出資と貸付がありうるが、貸付だと、利子が損金となり、返済に課税されないので、税務的には、出資(資本となる)より有利。
    • 日本は、適正負債資本比率は、3:1.これを超えて買い付けると、出資とみなされ、課税される。
    • 国によって、制度が違う
      ドイツやイタリアは、EBITDAを基準
    • 規制の無い国も多い。
      シンガポールには、無い。
  5. タックス・ヘイブン税制

    • 外国子会社の法人税が低い場合、本国親会社と所得を合算して課税するなどの税制。
    • 国によって、制度は異なる。
    • 日本は、外国子会社が、法人税実効税率20%未満の場合(特定外国子会社)、適用される。所在国が、タックス・ヘイブンである。
      トリガー率は、2010年税制で25%から20%となったが、2015年税制で、20%以下から、20%未満(20%は入らない)となった。これは、イギリスの法人税が20%になったので、同国を対象にしないために改正されたものである。
    • 子会社がタックスへイブンにあり、同族で10%以上株式を所有する会社で、直接・間接含め、その資本の50%超が、日本資本である法人が該当する。
    • なお、実務上は、例えば、工場があり、産業活動が実際に行われている場合は当税制の適用対象にはならず、ペーパー・カンパニー等をつくって所得を移転しているような場合に適用される。
  6. 移転価格課税

    • 所得税の安い国の子会社に利益を集中させて、課税を回避して利益を残すことを防止する制度。
    • 「独立企業間価格」、すなわち「通常の企業間価格」と比較して不当に低く、所得が国外に移されたと認められる場合、国内分として、課税し直す。
    • 2重課税にならないよう、海外で納付済みの税金が還付される。また、適正な配分を2国間で協議する制度がある。
    • 「独立企業間価格」の算出方法としては、2011年税制改革以前は、基本三法(独立価格比準法。再販売価格基準法。原価基準法)を優先適用し、それ以外の方法 (利益分配法、取引単位営業利益比較法など)は、基本三法が適用できない時に適用されるとしていたが、同年度税制は、優先適用を排し、個々の事例で、最も適切な方法を採用すべしとする。
  7. 租税条約

    • 二重課税を回避し、納税者の予測可能性を確保するために、課税条約は二国間で、広く利用されている。
    • 多くの租税条約は、OECDモデル条約に準拠している。

2.最近の日本の新税制
  1. 「過大支払利子税制」の導入

    • 2012年税制で導入
    • 支払利子が損金算入されることを利用し、借り入れを恣意的に設定して、過大な支払利子を計上することを防止。
    • 過大支払利子に対する対策は、
      利率が過大な時は、移転価格税制で対処 。
      出資に対して借り入れが過大な時は、過小資本税制で対処。
      利払い前の所得金額に対して支払利子の額が過大な場合について、直接対処できる税制が無かった。これに対処する税制が、過大支払税制。
    • 「関連者純支払い利子等の額」が、「調整所得金額の50%」を超える時は、その超える部分を、損金不算入とする。
      ※「関連者」は、一方法人が他方法人の出資の100分の50以上を保持
      「調整所得金額」は、概略
      当期所得金額+(関連者純支払利子+減価償却費+受取配当等の益金不算入金額)+貸倒損失
    • 適用除外
      「関連者純支払い利子等の額」が、1000万円以下。
      「関連者純支払い利子等の額」が、自社の支払利子(「関連者純支払い利子等の額」等を除いたもの)の50%以下
  2. 「国外転出時課税」の導入

    • 2015年7月1日から施行
    • 国内在住の出資者、事業家が、注意すべき制度である。
    • 前10年以内に国内在住期間が5年超えの居住者が、1億円以上の有価証券・信用取引等の資産を所有して、出国、ないし、国外非居住者に、贈与又は相続・遺贈した場合
    • 対象資産の含み益に所得税を課す。
    • 5年以内に帰国した時の取消制度、納税猶予制度あり。

<2.買収スキームの基本>

1.株式買い取りか事業譲渡か?

M&Aの基本的手段は、株式の買い取りであるが、事業譲渡を選ぶべき時もある。
クロスボーダー買収の時は、それ特有のチェックポイントがある。
まず、選択の一般的なポイントは、以下のとおりである。

  1. 事業譲渡の場合(事業譲渡では、ターゲット=売り主である)

    (1)買い手側
    デメリット:個々の財産や契約上の地位の移転が必要。
    財産権の移転は、登記・登録という対抗要件の確保が必要。
    契約上の地位の移転は、第三者たる契約相手の同意が必要。
    許認可は引き継げないので、取り直す必要あり。
    繰越欠損金を引き継げない。
    取引税、無形固定資産に源泉所得税がかかっている可能性がある。
    メリット :簿外債務を承継しない。
    税務リスク引き継がない。

    (2)売り手側の論点
    個別の財産の譲渡益に、譲渡税がかかる可能性がある。
    残存の法人をいかにするか?
    清算? 縮小して継続か?
    清算する時、債務超過では破産で処理せざるを得ない。

    (3)事業譲渡の時、源泉所得税負担に注意。
    無形固定資産の譲渡対価に源泉所得税が課されることあり

    ・事業譲渡の時、取引税に注意
      例:不動産取得税、登録免許税、消費税、印紙税などの間接税に注意
       売り主、買主どちらかにかかるか?

         M&Aには、高額にしている国があるので注意


  2. 株式譲渡(売り主とターゲットが異なる)

    株式の譲渡益に、譲渡税がかかる可能性あり


2.代金の設定の基本
  1. 上場企業は、株式の市場価格が基本である。

  2. 非上場企業の場合、評価替え後の純資産+のれん(営業利益の2〜5年分?)が基本。

  3. 買収側は、税引後利益で買い取り資金を何年で回収できるか? を考えるべきである。

  4. 暖簾が発生する時、日本は、20年以内で償却する。しかし、国によって償却条件が違う。償却出来ない国もあることに注意すべきである。


3.譲渡益、簿価・時価について
  • 株式譲渡益課税は課税されるが事業譲渡益課税(個々の移転財産の譲渡益課税)は非課税という国、又は逆に、株式譲渡益課税は非課税だが事業譲渡益課税は課税される国、両方に課税される国など、国により制度は異なることに注意。
  • ターゲット株式の簿価が高い(M&Aで購入した時など)が、ターゲットの各資産の簿価が低い時→売り手では、株式譲渡益小さい。買い手において、持ち分プーリング(簿価で、資産を引き継ぐ)で処理できる時、譲渡時の税務上のメリット大きい。ただし、後に、合併等のグループ再編する時、個々の資産の時価と簿価の差が、顕在化する可能性あり。
  • ターゲットの子会社群の株式  
    後に、子会社を譲渡する時、簿価と時価の差額を償却できるか?
    ターゲット国の税制のチャックが必要。
  • 事業譲渡の時、源泉所得税負担に注意。
    無形固定資産の譲渡対価に源泉所得税が課されることあり
  • 事業譲渡の時、取引税に注意
    例:不動産取得税、登録免許税、消費税、印紙税などの間接税に注意
    売り主、買主どちらかにかかるか?
    M&Aには、高額にしている国があるので注意!

4.償却、繰越欠損金の利用
  • 償却、繰越欠損金の利用ができるか、国によって、異なる。
  • 繰越欠損金の利用―キャピタルロスと事業所得と相殺できない国がある。
    利用可能年数、相殺可能な所得の範囲、利用制限ルールの調査要す。
    <注意>事業譲渡だと、売主(ターゲット)は、譲渡益と自分の繰越欠損金を相殺できる。
    株式譲渡だと、買主は、繰越欠損金の期限が迫っている時など、利用できないで終わってしまうことあり。
  • 含み損のある資産がある時―事業譲渡すると、ターゲットは、実質損失に転化できる。
    株式譲渡だと、含み損はそのまま引き継ぐ。
  • 無形固定資産(特許権、商標権、独占販売権など)を、どこに帰属させるか? ターゲットのままか? 日本親会社に移転するか?
    ロイヤリティに対する課税税率を比較して決めよ!
    日本では、商標は10年で減価償却できるので、日本親会社が購入すると、利益と相殺できる。ターゲット国ではどうか?
  • 外国税額控除、減価償却費控除余裕枠―株式譲渡だと、引きつぐのが原則―但し、株主変更で利用制限がある国があるので注意。

5.配当課税 vs 配当源泉税
  • 資本参加免税・軽減税率が適用され、株式売却益に課税されないか安い国がある。中継国として適地であり、ここに、持ち株会社を設置すること多い。
  • 親会社が配当を受け取る時、配当が課税される時には、外国税額控除もありうる。
    ex.親会社が米国では、全世界所得課税と外国税額控除がある。
  • 日本の親会社は、譲渡益を配当で受け取るが、95%について配当益金不算入で、5%以外課税されない。しかし、配当源泉税が、損金算入も、外国税額控除もできないので、相手国で配当源泉税が課される場合、海外持株会社で利益を留保し、資金を海外で循環させる方がベターなこと多い。
    但し、親会社の日本で、タックス・ヘイブン課税がありうることに注意。

6.スクイーズアウト
  • スクイーズアウトは、事業再編に反対の少数株主の株式を、強制的に買い取る制度。
  • 日本では、TOBのあと、全部取得条項付種類株式で、スクイーズアウトをする。
  • スクイーズアウトの方法は、各国で様々な制度あり。課税上の障害が無いよう、工夫が必要である。
    1. 米国では、Reverse Triangular Merger (逆三角合併)で、スクイーズアウトが可能       
      ターゲットが、買収ビークルを吸収合併         
      この時、買収ビークルの親会社が合併対価を交付し、スクイーズアウト
      ターゲットの、キャピタルゲイン課税が発生しない       
      資産に、ステップアップが可能になる
    2. 英国では、Scheme of Arrangement
      ターゲット株主の一定割合以上の承認と裁判所許可により、ターゲットの全株式買収できる。ターゲットの、キャピタルゲイン課税が発生しない

<3.M&A資金のファイナンスでの注意>

1.はじめに心得ておくこと
  • ターゲットからの資金還流方法   
    配当、返済、株式の買い戻しがある。
  • ハイブリッド・ローン、ハイブリッド・エンティティでの注意
    「借り入れの支払利子を、企業の業績に連動させる借り入れ方法、」、「優先株式の配当が額面の一定割合に固定され、償還期限の定めがある出資」などの、ハイブリッドの方法が使われることがあるが、これらを借り入れと扱うか資本と扱うかは、国によって異なるので注意。
  • 組合は、税務上パス・スルーとなるが、合名会社、合資会社、合同会社の扱いはどうなるか。
    国によって異なる。
    イギリス、オランダでは、組合としてパス・スル― 。
    アメリカでは、チェック・ザ・ボックス・ルールで、どちらか選択できる。
  • 外為法の規制、為替リスクを忘れないこと。
  • 買収に当たり、ターゲットの子会社群と海外子会社群を別グループにするか、まとめるか?
    税務関係を、シュミレーションして、検討すべきである。

2.デット・プッシュ・ダウンの活用
  1. デット・プッシュ・ダウンとは

    • 借り入れ国を他国に移転して、そこで、支払利子と課税所得と相殺し、財務戦略の効率を図る。
      多額に利益の出ているところに、損金算入による節税メリットを付与する。
    • ただし、日本で借りて、低税率国の中継国の法人に出資して、そこから、子会社に貸し付けるだけでも、日本は、借入利率は低く、配当益金不算入なので、節税メリットはある。
  2. デット・プッシュ・ダウンの例(借り入れをビークルに移転)

    1. 日本親会社が、借り入れでターゲット株式を取得
    2. 中継国の持ち株会社が買収ビークル設立
    3. 日本親会社が、ターゲット株式をビークルに譲渡。ビークルは、借入金(持ち株会社から借り入れる)で代金を支払う。日本親会社借入返済。これで、デット・プッシュ・ダウン成立。
    4. この後、ビークルの支払利子と、ターゲットの課税所得を相殺する必要あり。方法は、次のいずれかで行う。
      1. 連結納税        
        ※日本では、連結納税には、100%子会社                       
        子会社の繰越欠損金の切り捨て                       
        子会社加入時の時価評価が必要。しかし、このような要件の厳しい国は少ない。             
        例えば、70%子会社OKの国多い。
      2. グループ・リリーフ(グープ内で、損失や利益を移転できる。採用国は少ない)
      3. 合併
  3. ターゲット国に、合併や連結納税が無い場合、ビークルなしで、中継国からターゲットに貸し付けると、ターゲットで利子を損金算入。

  4. デット・プッシュ・ダウンが難しい例

    ターゲットに、財務諸表上認識されない多額の営業権がある時は、難しい。
    中継国によるターゲット買収は多額となるが、ターゲットの配当可能利益は帳簿上認識されている利益に限られるし、中継国からターゲットへの貸し付けは、返済が配当可能限度額となるのが上限。従って、配当可能利益が少ない時は、中継国から十分な借り入れの移転ができない。


3.ファイナンス・カンパニの活用
  • ファイナンス・カンパニーは、余剰資金、グループ外から調達した資金を集中管理し、グループ企業へ貸付する。クロスボーダーのマネイジメントが効率よくできる。
  • 低税率国に設置するのが普通である。
  • シンガポールが利用される理由は以下のとおりである。
    受取利子は、FTC(Finance Treasury Center) の許可を受けると、法人税が10%になりうる。
    支払利子には15%の源泉税課税あるが、FTCの認可を受けると免除。
    海外との租税条約により、受取配当に対する支払地での源泉税の軽減税率が適用。
    過小資本税制無し。
    外為法等の規制は、原則として無し。

4.アメリカの特殊性
  • 米国は、全世界所得課税。米国持ち株会社が海外子会社から配当を受ける場合、米国以外で生じた利益が米国の税率で課税される(海外子会社は、実効税率が米国と同様と扱われる)。ただし、外国税額控除があり。   
    中国も、類似の制度あり。
  • 配当をしない子会社でも、米国のタックスヘイブン税制があるので注意。
  • 米国持ち株会社の子会社が、日本の特定外国子会社等に該当する場合は、日本でのタックスヘイブン合算課税と米国での配当課税(全世界所得課税)の、二重課税の発生もありうる 。
    対策は、米国持ち株会社の子会社(米国内とは限らない)を、米国持ち株会社から外し、日本親会社が直接保有、又は、受取配当に課税しない国の法人を介する間接保有。但し、この時、株式譲渡益課税に注意。
  • 結局、アメリカや中国は、中継国、持ち株会社、ファイナンス・カンパニには向かない。

5.ターゲットが、特定外国子会社(法人税率20%未満の国に所在)の時の注意

ex. ファンドが、タックス・ヘイブン持ち株会社の売却を提案してきたときどうするか?

  • ターゲット株式を時価で買うことになるが、その子会社の株式の簿価が安いと、その後の再編の時、含み益が顕在化して、その子会社に大きな譲渡益が認識される。日本のタックス・ヘイブン税制により、日本の実行税率で課税されてしまう。
  • 対策:M&A直後に、ターゲット持ち株会社(タックス・ヘイブン持ち株会社、特定外国子会社)を清算する。清算によるタックスヘイブン課税の問題が発生するが、株式を時価で取得しているので、清算損失が発生し、相殺できる。

<4.統合プランニング>

1.中継国の活用
  • 海外子会社の間に、中継国を持つこと多い。   
    中継国における税務上の有利な制度を活用するためである。    
    例:資金移動に、二重課税されることを防ぐため、中継国に持ち株会社を持つ。       
    →連結実効税率を下げることができる。
  • 中継国に望まれること:
    1. 国外への配当や利子の支払いについて、源泉所得税が課されず。
    2. 資本参加免税や国外所得免税により、国の内外の子会社からの配当や、株式の譲渡益が無税となる。
    3. 子会社国に源泉所得税があっても、子会社国との間に、配当や利子等に関する源泉所得税について、有利な租税条約を持つ。
    4. その他、有利な税制や法制度を持つ。

2.持ち株会社と、そこへの子会社移転
  1. 持ち株会社の機能

    持ち株会社には、ファイナンス・カンパニー、地域統括機能を期待する
  2. 持ち株会社設置国の望ましい条件(中継国に望まれることのほかに)

    1. 持ち株会社レベルでは、子会社からの受取配当が課税されない
    2. 持ち株会社が、連結納税の親会社となれること
    3. 持ち株会社所在国とターゲット所在国の間に有利な租税条約がること
      ex:EU域内では、加盟国間では、配当免税規定の適用あり
    4. 持ち株会社国と日本の間に、有利な租税条約があること
  3. 持ち株会社へ子会社たる外国法人の株式の移転

    1. 日本親会社が買収した子会社株式を、持ち株会社へ移行する方法:    
      @株式を持ち株会社へ譲渡       
      譲渡益について、日本で課税。
      同時に、持ち株会社所在国での課税を考える必要あり       
      両国間で、租税条約があれば、それによる
      A子会社株式を、持ち株会社へ現物出資
    2. 適格現物出資の活用
      株式に含み益があると現物出資が有利である。
      日本では、法人税法上の適格要件(現物出資の前後で、子会社の100%の株式を保有など)を満たすと譲渡益は繰り延べられるからである。
      逆に、含み損があると、株式譲渡が有利なことが多い。 

3.サプライチェーン構築
  1. サプライチェーンの目的

    • クロスボーダーM&Aの目的の一つは、クロスボーダーのサプライチェーン構築である。
    • 事業戦略として、事業活動の最適化 企業利益の極大化を目指す。
      適地生産、不良在庫の排除、リードタイムの短縮、仕入れ債権・売掛債権の一括管理その他コスト削減など。
      事業運営上のリスクの適格な配分検討。在庫リスク、売掛金回収リスク、プロダクト・ライアビリティリスクなどが対象。
      無形固定資産の適格な配分検討。特許権、製造ノウハウ、マーケット・インタンジャブル(ブランド価値、顧客リスト、販売ノウハウなど)などが対象
    • 連結実効税率の低減を目指す。 一連のサプライチェーンから獲得した利益を、低税率国に配分する。適格な利益配賦か検討。
    • 移転価格課税も、リスク、無形固定資産が帰属するところに利益を帰属させると、移転価格課税を回避できる。
  2. サプライチェーン構築時の税

    1. 製造ノウハウ、販売ブランド、顧客リストなどの無形固定資産の譲渡益課税
    2. PE課税。コミッショネアが、PEとして、課税される
    3. 移転価格課税
    4. タックスヘイブン税制

<5.移転価格課税の回避>

1.移転価格課税の回避

移転価格税制は、所得税の安い国の子会社に利益を集中させて、課税を回避して利益を残すことを防止する制度である。  しかし、重要な機能、リスク、無形固定資産(特許権、製造ノウハウ、マーケット・インタンジャブル《ブランド価値、顧客リスト、販売ノウハウなど》)が集中しているところに利益を集中させても、リスクや資産等に比例していれば、移転価格税が課税されることはない。


2.製造会社が高税率国にある時、移転価格課税を避け実効税率を下げる方法
  1. 事業統括会社を、低税率国に設置。
  2. 重要な機能、リスク、無形固定資産(特許権、製造ノウハウ、マーケット・インタンジャブル《ブランド価値、顧客リスト、販売ノウハウなど》)を、事業統括会社に移転させ、製造会社を受託社として製造委託契約を結ぶ。
  3. 原材料等の調達は、可能な限り、事業統括会社たる委託者がおこなう。
  4. 完成品は、予め定められた価格で、委託者たる事業統括会社へ販売する。

受託者たる製造会社は、委託者の指示と管理に従い、委託者の有する特許や製造ノウハウ等を利用して製品を製造。利益もリスクも製造委託者に集中し、連結実効税率を下げる。
→利益の多くを委託者たる事業統括会社に帰属させても、移転価格税制に抵触しない。


3.販売会社が高税率国にある時、移転価格課税を避け実効税率を下げる方法
  1. 高税率国にある販売会社をコミッショネア(問屋)とする。低税率国の事業統括会社を委託会社として、委託契約を締結する。
  2. 販売リスク(在庫リスク、売り掛け回収リスク、プロダクト・ライアビリティ・リスクなど)、無形固定資産を委託者に帰属させる。 
    コミッショネアは、受託者として、その名で委託者の製品を販売する。 利益を委託者に多く帰属させ、連結実効税率を下げる。

利益の多くが委託者に帰属させても、移転価格税制に抵触しない。

※コミッショネアと類似の方法として、LRD(Limited Risk Distributer)を制度化している国も多い。
委託者が、販売戦略の立案をする。売却時に所有権が販売者(LRD)に移転する。売掛金が貸し倒れだと仕入れ代金が免除される。受託者においてリスクが制限されるので、利益を制限できる。
→委託者に利益を集中しても、移転価格税制に抵触しない。


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