国際法務

  日本は母親の権利が絶対!

  オーストラリアの離婚判決が日本で効力が認められなかったケース

  国内に事務所が無くても管轄を認める



【日本は母親の権利が絶対!】

日本人女性と、アメリカやヨーロッパ男性の夫婦が、夫すなわち父親の国で離婚すると、多くの場合、父親が親権を取得する。
  この場合、日本女性は、その後この決定に納得できずに、父親に無断で子供を日本に連れ帰って大騒動になることが多い。このような行為は、父親の国では、立派に誘拐罪という犯罪になるが、母親の日本女性にとっては、「自分の子供を連れてかえって何が悪いのか」と考えるからである。

2009年9月、アメリカ男性が、このようなケースで、日本に来て自分の子供を取り返そうとして、逆に、日本の刑法により父親が誘拐罪として逮捕されたというケースが発生した。父親は、アメリカのテネシー州で、単独親権を獲得していた。
アメリカのマスコミは、違法逮捕だと騒いでいるようだが、日本では、全く違った反応が見られる。

日本では、小学校を卒業する頃までは、母親が希望する限り子供の親権者は母親がなるべきで、父親に親権を与えたアメリカの裁判所こそ間違っていると考えるのが一般的だ。しかも、日本の裁判所は父親の面接交通権(visiting right)には極めて冷淡で、1年間で、2−3回、しかも昼間の限られた時間のみというケースが一般的である。更に、かように面接交通権が制限されているにもかかわらず、父親は、毎月子供のための養育料(平均的には、1人の子供につき、月3−5万円)を母親に送金しなければならない。
日本では、このように、母親の権利は、ほとんどオールマイティである。これは、日本の文化に深く根ざしているもので、こんごも簡単には変わらないであろう。
そのため、母親が日本に子供を強引に連れ帰って、日本の家庭裁判所に親権の変更を申し立てると、それが認められることが普通だ。

このようなケースで、それでも外国人の父親の権利を守る方法があるかであるが、実は存在する。
  それは、日本の「人身保護法」という法律を使う方法である。日本でも、母親に親権が変更される前であれば、親権者である父親が、子供の取り戻しを裁判所に請求すると、原則的には、その請求は認められるであろう。
前述のアメリカ人男性も、日本の裁判所に「人身保護法」上の請求をすれば、合法的に、アメリカに我が子を連れ戻せたはずだ。
 

【オーストラリアの離婚判決が日本で効力が認められなかったケース】
東京家裁平成19年9月11日判決

ケース
  オーストラリア国籍の夫と日本人である妻は、日本で共同生活を送っており、妻はオーストラリアで居住したことはない。ところが、夫は女性を作って家を出て別居状態となり、3年以上となる。

夫は、母国オーストラリアの裁判所に離婚訴訟を提起。 妻は、管轄が日本にないなどとして却下を求めるが、離婚を認める判決が出た。オーストラリアの家族法では、離婚に当たり離婚事由は不要で、1年以上の別居があれば離婚が認められるのだ。

妻は、東京家庭裁判所に、本件離婚判決が日本では無効であることの確認を求めて提訴し、それが認められたのが本件である。
判決内容
  民訴法118条1号では、外国裁判所の確定判決が日本で効力を持つためには、その外国裁判所に「裁判権」が認められる必要があるが、我が国の渉外離婚事件の国際裁判管轄は被告の住所地とするのが原則である。ところが、妻はオーストラリアで居住したことはないため、本件に国際裁判管轄はなく、したがって、「裁判籍」はないと判断された。

また、同法3号では、判決の内容や訴訟手続きが日本における公序良俗に反する判決は日本で効力が認められないとされているところ、日本では有責配偶者からの離婚請求が認められていない。本件は有責配偶者からの離婚請求であり公序良俗に反することになるので、効力が認められないとされた。
コメント
  離婚事由が不要、つまり、一方が離婚を望みそれを覆すことがなければ、離婚を認めるという法制度は、全世界では結構多い。 つまり、一方がどんなに離婚を拒絶しても、裁判所は離婚を認めてしまうのである。しかし、この離婚判決が、日本で有効とされるかというと、話は別である。
日本では、不貞や悪意の遺棄など離婚事由は厳格で、一方が離婚を求めただけでは離婚判決は下りないのが原則である。外国で離婚判決がおりても、日本で訴訟をすれば、離婚が認められないという例は多い。そのような場合、民訴法118条により、日本では効力が認められないというケースは、十分にありうるのだ。本件がその一例である。

このような制度の衝突、文化の衝突から、本件のように、離婚しやすい国の判決が日本で効力があるか争われるケースは結構多い。それに対する、典型的な回答が本件であろう。 さらに本件は、自分が住んでいない遠隔地で訴訟を提起されることに対する不合理に対しても、救済を与えられたということでも重要であろう。
 

【国内に事務所がなくても管轄を認める】
最高裁平成13年6月8日判決

不法行為による損害賠償請求、著作権、および併合請求の国際裁判管轄

被告が日本に事務所等を設置しておらず営業活動も行っていない場合でも、不法行為と著作権訴訟につき日本に国際裁判管轄が認められたケース
請求間に「密接な関連」がある場合に国際管轄をみとめたケース
ケース
  Xは有名な円谷プロダクションで、ウルトラマンシリーズの映画の著作物の日本における著作権者。Yはタイ王国に居住する個人であるが、Yは、Yが社長を務めるB社が、Xから、日本を除くすべての国において、期間の定めなく独占的に本件著作物について、配給権、制作権、複製権等を許諾されていると主張。

香港に所在するC法律事務所は、B社の代理人として、A社およびその子会社、並びにA社と当時合併交渉中であった日本法人D社に対し、「B社は、本件著作物の著作権を有し、又は、Xから独占的に利用を許諾されているから、A社の香港、シンガポール、およびタイ王国における子会社が本件著作物を利用する行為は、B社の独占的利用権を侵害する」旨の警告書を送付した。

Xは、本件警告書により業務が妨害されたとして、不法行為による損害賠償の請求と、Xが、タイ王国で本件著作権を有することの確認等を求めて、東京地裁に訴訟提起するとともに、タイ王国でも、著作権侵害行為の差し止めなどを求めて、提訴。

Yは、日本に事務所等を設置しておらず、営業活動も行っていないので、国際裁判管轄の有無が争点となった。
判決
  東京地裁も東京高裁も、国際裁判管轄がないとして訴えを却下したが、最高裁は 次のような理由で、原判決を破棄し、原審に差し戻した。

不法行為の請求について、日本で裁判管轄が認められるには、「原則として、被告が我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りる」とする。
これは、国際裁判管轄が認められるためには、不法行為と主張されている行為またはそれに基づく損害発生の事実(あるいは、不法行為と評価されることにつながる客観的な事象経過)の証明は必要であり、この証明がない場合には、訴えを却下するが、違法性や故意過失については証明を要しないとする見解(客観的事実証明説。最高裁判例解説490頁)に立脚している。
そして、「Yが、本件警告書をわが国内において宛先各社に到達させたことにより、Xの業務が妨害されたとの客観的事実関係は明らか」であるとしている。つまり、不法行為と損害発生の証明があれば十分であり(なお、原審で採用した「一応の証明」の方法では足りないというのが本判決である)、違法阻却事由、つまり、本件では一番重要な、Yにおける本件著作物の独占的利用権の有無は、管轄の判断においては,証明不要というわけである。

また、もう一つの争点である著作権不存在の部分については、著作権という財産が日本国内にあるから、裁判籍が日本にあることは明らかとしている。

原判決は,Yがタイでの訴訟において、著作権をXと共有していると主張していることから、日本において訴訟によって解決するに値するほどに成熟していると認めることはできないから、確認の利益を欠くと判断していたが、これに対して本判決では、ベルヌ条約により、日本においてもYのタイ王国における共有著作権が保護されるのであるから、確認の利益があると判断し、この点で、原判決は、法令の解釈適用を誤った違法があるとしている。
Xは、Yが自己の権利の根拠とする契約書が真正に作成されたものでないことの確認、Xが本件著作物につきタイ王国において著作権を有することの確認、日本国内における妨害行為の差し止めなど関連した請求を併合して請求していたが、これらについても、本判決では、両請求間には、「密接な関連」が認められるとして管轄を認めている。
コメント
  本判決は、不法行為一般の国際管轄の関する要件と併合請求の裁判管轄肯定の要件を最高裁として初めて明らかにしてくれたという点で、重要である。
知財事件では、警告書の送付は、重要な戦略として頻繁に利用されるが、取引社会のグローバル化の中で、国境を越えて、送付されることも珍しくない。このような場合、訴訟の国際管轄がどうなるかの方向付けをしてくれた点でも、極めて重要な判決である。
いずれにしても、被告が日本に事務所等を設置しておらず、営業活動も行っていない場合でも、不法行為の損害の発生が日本であれば、日本に国際裁判管轄が認められたことは今後の営業実務では、影響は大きい。
日本人が著作権を有していれば、その存否の訴訟は、同じく被告が日本に事務所等を設置しておらず、営業活動も行っていない場合でも日本で裁判が起こせるということも、知財訴訟では、影響が大きいであろう。 請求間に「密接な関連」があれば、関連訴訟の管轄が取れるということも、裁判実務では、重要である。
 

M&A・事業再生の弁護士-金子・福山法律事務所